インドネシア大統領選、ウィドド氏勝利なら傀儡政権との見方 メガワティ元大統領が支援

7月9日投票のインドネシア大統領選挙で、最有力候補である闘争民主党のジョコ・ウィドド候補(ジャカルタ特別州知事)が勝利した場合、メガワティ元大統領の傀儡(かいらい)政権が誕生するとの見方が広がっている。
Reuters

7月9日投票のインドネシア大統領選挙で、最有力候補である闘争民主党のジョコ・ウィドド候補(ジャカルタ特別州知事)が勝利した場合、メガワティ元大統領の傀儡(かいらい)政権が誕生するとの見方が広がっている。

大統領選を控え、次期政権入りを望む大物政治家、ゴルカル党のバクリー党首が接触したのはジョコ・ウィドド氏ではなかった。

複数の関係筋によると、訪ねたのはウィドド氏の政治的パトロンであるメガワティ氏。自身の大統領任期は短命に終わり印象が薄かったものの、選挙でウィドド氏が勝利したあかつきには、影の実力者として影響力を行使すると多くが恐れる元大統領だ。メガワティ氏はバクリー党首の願いをあっさりと拒絶した。

しかし、バクリー党首が政党間の連携を模索する上でウィドド氏ではなくメガワティ氏を訪問したという事実は、最有力候補に対する最大の懸念を浮き彫りにした。即ちウィドド氏は大統領になれるかもしれないが、実権は把握しないというものだ。ウィドド氏はメガワティに従い、メガワティ氏がインドネシア政治を支配するようになると専門家は指摘する。

ウィドド氏は、自分がメガワティ氏に服従しているとの一般的なイメージを払しょくする労力を、ほとんど割いていない。ウィドド陣営の幹部に取材したところ、幹部からはウィドド氏の謙虚な振る舞いに対する不満もうかがえるが、幹部らはウィドド氏が誰かの手先になるとの見方を断固として否定した。

ウィドド陣営の選挙運動を支援するためにゴルカル党を離れたルフト・パンジャイタン元貿易相は「人は彼をメガワティの操り人形と呼ぶが、決して違うと誓う。彼は非常に礼儀正しく謙虚だが、だからといって人の言いなりになるわけではない」と話す。

ウィドド氏は国内では映画スター並みのファンがいる。貧困層の出身で、清廉なイメージに加え、長年インドネシア政治の重荷となっていた地方政府における独裁制や汚職、権力政治を打破したことで能力の高さが評価され、指導者への階段を一気に駆け上がってきた。

庶民派の政治手法と有力な地方政府高官に対峙しようとする姿勢が国民の注目を集め、出身地のソロで2005年に市長、12年にジャカルタ特別州知事に就任した。アナリストが指摘する彼の真の不安材料は、大統領選に勝利した場合、メアガワティ氏との関係が国政にどう影響するかだ。

バクリー、メガワティ両氏の会談に同席したパンジャイタン氏は、バクリー氏が直後に対立候補のプラボウォ元陸軍戦略予備軍司令官の陣営を訪問したことを明らかにした。

パンジャイタン氏はバクリー氏に「なぜ毎回、こんな取引をしなければならないのか。一般大衆や若者の手本にならない」と話したという。

ゴルカル党の有力政治家ファフミ・イドリス氏によると、プラボウォ氏はバクリー氏に対し、支援の見返りに7つの閣僚ポストを約束したという。

<かいらい政権>

選挙キャンペーンでプラボウォ氏は「かいらい」大統領を選んではならないと何度も警告し、ウィドド氏は雇われ大統領にすぎず、政治的支援者から逃れられないことを示唆した。世論調査ではウィドド氏が引き続きプラボウォ氏をリードしているが、支持率の差は縮まっている上、多くの有権者は投票を決めかねている。

メガワティ氏はインドネシア建国の父、スカルノ初代大統領の娘で、インドネシア闘争民主党を支配する。インドネシア最大の同党が中心となってウィドド氏を擁立した。

メガワティ氏は3度の大統領選に出馬し落選。副大統領だった2001年に当時のワヒド大統領が弾劾裁判で辞職したのを受けて大統領に昇格した。彼女の短い大統領任期は、決断力の欠如と汚職の増加に加え、2002年のバリ島爆弾テロ後の軍事紛争の取り締りに失敗したことなどに特徴付けられた。

メガワティ氏は7月の選挙で4度目の挑戦に踏み切ると見られていたが、最終的に圧倒的な人気を誇るジョコウィ氏の支援に回った。

ウィドド氏は人口の最も多いジャワ島中部の出身。同島は控えめで互いを尊重する階級社会の文化で知られる。

メガワティ氏の側近の1人は「彼は一人の独立した人間だが、ジャワ人でもあり年長者の言うことに常に耳を傾ける。彼にとってメガワティ氏は年長者だ。特定の問題についてメガワティ氏に助言を求めるだろうが、彼女の指図を受けることはない。そのことが重要だ。ウィドド氏はメガワティ氏だけではなく、自分より経験豊かな他の年長者からも助言を受ける」と話した。

<人材本位の組閣>

ウィドド氏が大統領に選出されれば、インドネシアではエリート層や軍出身者以外で初の大統領となる。逆にプラボウォ氏はインドネシアの著名な家系の出身で海外での教育経験や職歴もある。兄弟は同国有数の富豪だ。

ウィドド氏が勝利した場合、権力基盤を完全に他の政党に依存する大統領という意味でも、インドネシア独立から70年で初めてとなる。

メガワティ氏の闘争民主党は他の3政党と組んで大統領候補を指名するのに十分な数を集めた。

しかし、選挙前に閣僚ポストや他の政府要職については話し合いが行われていない。ウィドド陣営の関係者は、連立与党間の調整は必要だが、閣僚指名は所属政党ではなく資格と能力に基づき行うとしている。

ウィドド氏が、退任するユドヨノ連立政権のように政治的に動機づけられたポスト任命ではなく、真の実務官僚内閣を設置できると考える人は少ない。

メガワティ氏の側近は「ウィドド氏は今回は過去と違う、前政権とは違うと言い続けている。彼は適材適所で人員を配置することを望んでいる。出身政党が異なることも彼は考慮する必要があるだろう。しかし、最も重要なのは選ばれる人たちに仕事をする能力があることだ」と話した。[ジャカルタ 29日 ロイター]

(Kanupriya Kapoor and Jonathan Thatcher記者)

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