誰もが合理的に決断を下せば、世界はもっと良くなるのに、と思ったことはないだろうか。さまざまな研究によれば、より理性的で確実な判断を下す方法はあるようだ。感情的な決断や、衝動的になりかねない決断は避けられるのだ。その方法をいくつか紹介しよう。
自分は「壁に止まったハエ」だと考える
より理性的な決断を下すためには、置かれた状況から自分を切り離し、傍観者の立場に立って考えるのが役立つ。
心理科学に関する学術誌「Psychological Science」に今年6月に発表された研究によれば、人間関係で摩擦が起きた場合、それについて第三者の立場ではなく当事者として考えてしまうと、賢明で論理的な考え方ができにくくなる。賢明で論理的な考え方とは、相手の立場に立って考えたり、今後の展開を別の角度から考慮したり、妥協案を探ったり、というものだ。
現在に目を向け、取り返しのつかないことは諦める
「マインドフルネス瞑想」は、現在の瞬間に意識を集中させる瞑想法だ。何かに対して時間やエネルギーを費やしてきたものの、それがムダになってしまった時(経済用語では埋没費用もしくはサンクコストと呼ばれる状況)、マインドフルネス瞑想を実践すればきっぱりと諦めがつくという研究が発表されている。
フランスとシンガポールにキャンパスがある有名なビジネススクールであるINSEADで組織行動を研究するゾーイ・キニアス准教授は、「瞑想の実践によって、まずは、過去や未来に向けられている意識が減少した。すると、この心理的変化が、否定的感情の減少をもたらした。否定的感情の減少は、ひいては、サンクコストを諦める力を促した」と説明している。
母語ではない言語で考える
「Psychological Science」誌で発表されたシカゴ大学の研究結果によれば、ある状況に関して外国語で考えると、母語で考えた場合に生じる感情的な結びつきが弱くなり、結果的に、自らを状況から切り離して、より冷静に考えられるという(日本語版記事)。
心の知能指数を育む
「心の知能指数(EQ)」とは、自分の感情や他人の感情を認識し、うまく取り扱う能力のことだ。トロント大学の研究者たちが2013年に実施した研究から、EQの高い人は、「意思決定に関係のない感情」が決断に影響を及ぼさないようにできることがわかった。ストレスや不安といったマイナスの感情だけでなく、胸がわくわくするといったプラスの感情に関しても、EQはその役割を果たすという。
物理的環境の影響を考慮する
照明は、それが肯定的なものであれ否定的なものであれ、人間の感情を強める効果を持っているらしく、ひいては、決断を冷静に下せるかどうかを左右する。これは、消費者心理に関する学術誌「Journal of Consumer Psychology」に掲載されたトロント大学の研究結果だ。
同研究に参加した被験者は、照明が薄暗い部屋より明るい部屋にいた時のほうが、食事に出されたソースはより辛く、架空の人物はより攻撃的に、人間は一段と魅力的に感じたという。「明るい照明は、製品や人間などを含むさまざまなものに対して抱かれる感情的な第一印象を、より強める効果がある」。トロント大学スカボロ校で経営学を研究するアリソン・ジン・シュイ准教授は、この研究に関してそう説明している。
決断を下す前に「ほんの少しの時間」を置く
決断を下す際に、ほんの一瞬の間を置けば、より的確な決断を下せるようになる。これは、「PLoS ONE」に今年3月に掲載された研究結果だ。
「決定を下す過程を、50ミリ秒から100ミリ秒(1ミリ秒は1000分の1秒/50ミリ秒は20分の1秒、100ミリ秒は10分の1秒)遅らせれば、脳は、最も関連性の深い情報に意識を集中させ、関連性のない選択肢を遮断できるようになる」と説明するのは、米コロンビア大学タウブ研究所でアルツハイマー病と加齢脳の研究を行なう、ジャック・グリンバンド准教授だ。
[Amanda L. Chan(English) 日本語版:遠藤康子/ガリレオ]
【訂正】「50ミリ秒は5万分の1秒、100ミリ秒は10万秒の1」という記述がありましたが、正確には「50ミリ秒は20分の1秒、100ミリ秒は10分の1秒」です。訂正いたします。(2014/08/17 21:41)
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