見直しの期日は、来年の2015年3月だ。ということは、アメリカで稼働している原発の多くが、対策を見直すどころか、潜在的な弱点の把握さえも終わっていないということになる。
1970年代から1980年代の間に数多くの原子炉が新たに建設された時、原発管理者の大半は、海面は一定の緩やかなスピードで上昇していくだろうと考えていた。実際には、海面上昇のスピードは次第にアップしている。
海面が上昇すれば、洪水は今以上に内陸部まで到達することになり、これまでは安全だと考えられてきた地域にも危険が及ぶ可能性が出てくる。例えば、2012年に米東海岸に大きな被害をもたらした巨大暴風雨「ハリケーン・サンディ」の際には、ニュージャージー州のオイスター・クリーク原子力発電所とセーラム原子力発電所の取水口水位が警戒レベルを越えた。
Salem and Hope Creek Nuclear Generating Stations
Plant Elevation Above Sea Level
Plant elevation assuming NOAA worst-case sea-level rise and peak storm tide recorded during Superstorm Sandy, 2012
Present-day sea level
Estimated worst-case flooding
in 2046 during storm.
See how other coastal nuclear plants could be impacted by sea-level rise and storms: Turkey Point, St. Lucie, Brunswick, Seabrook, South Texas Project, Millstone and Pilgrim.
オイスター・クリーク原発は当時燃料交換のため停止中で、厳戒態勢に置かれたが、セーラム原発は稼働中だったが、川から水を取る循環水ポンプが故障し、手動で原子炉を止めた(また、ニューヨーク州のナインマイルポイント原発1号機とインディアンポイント原発3号機では原子炉が自動的に緊急停止。いずれも送電網の障害が原因と見られている)。
たとえ原子炉が稼働中でなくても、施設内には使用済み核燃料が保管されている。それらの大半はウラン燃料で、常に発熱している。そのため、冷却装置を使って冷やし続けなければならないが、装置を動かす電源もまた、原発に頼っている。しかし、洪水によって電源を喪失する可能性があるほか、事態が深刻化すれば、非常用発電機も動かないという状況もありうる。冷却システムが作動しなければ原子炉が過熱して施設に損傷を与え、最終的には放射性物質が外に漏れ出してしまう。
米ハフィントン・ポストが入手した米電力会社パブリック・サービス・エンタープライズ・グループ(PSEG)の資料によると、セーラム原発は、海抜約9メートルまでの洪水に耐えられるよう設計されている。また、同原発の原子炉運転認可が切れる2046年までに、海面は約15.2センチメートル上昇すると同社は予測している。
しかし、NOAAによる今後の海面上昇予測値を用いて米ハフィントン・ポストが計算したところ、水位が最悪のペースで上昇した場合、同原発では2046年までに約55センチメートルも上昇することがわかった。PSEG社がセーラム原発において採用している予測値を30センチメートル以上も越えている。
さらに厄介なことに、米ハフィントン・ポストの推測では、もし海面上昇がNOAAの最悪予測値に達し、その上、暴風雨も襲来したとなれば、セーラム原発の施設底部まで30センチもない高さまで洪水が迫ってくることになる。
アメリカの原子炉設備の運転期間は本来、40年間と定められている。しかしNRCは、1990年代の終わりから、20年間の期間延長申請を受け付けるようになった。現在稼働中の原発のうち、いくつが2100年時点でも稼働しているかは分からないが、大半の原発が敷地内に使用済み燃料を保管しており、今後何千年もの間、放射能を放出し続けることになる。
アメリカには現在のところ、使用済み核燃料の長期保管が可能な場所はない。ネバダ州ユッカ・マウンテンに放射性廃棄物処理場を建設する計画があったが、2009年にオバマ大統領が建設計画を中止。連邦議会も2011年に予算を凍結した。
大西洋で暴風雨が多発するハリケーンシーズンに入る6月に先駆けて、米ハフィントン・ポストおよび天気専門サイト「Weather.com」は、NOAAの予測をもとに、2100年までに海面上昇に対して脆弱となる可能性が高い原子力発電所8カ所を特定した。どの原発の運転認可も、2100年を待たずに切れるものの、それよりもずっと早い時期に洪水が起こる可能性はあるだろう。
具体的には、ターキー・ポイント(フロリダ州)、セント・ルーシー(フロリダ州)、ブランズウィック(ノースカロライナ州)、シーブルック(ニューハンプシャー州)、サウス・テキサス・プロジェクト(テキサス州)、ミルストン(コネチカット州)、ピルグリム(マサチューセッツ州)だ。海面上昇ならびに暴風雨が沿岸部各地の原子炉に及ぼす影響の詳細は、施設名をクリックしてご覧いただきたい(英文)。
私たちは、各原発の海抜と、2012年のNOAA報告に盛り込まれた手法をもとにした今後の海面上昇予測値を組み合わせた上で、数値を割り出した。さらに、今後起こりうる最悪の洪水を推測するべく、歴史に残る暴風雨の襲来時に各原発で記録された最大潮位と、NOAAによる現在の運転認可が切れる年の最悪の想定海抜を加味している。
2010年、フロリダ・パワー・アンド・ライト社が同州ホームステッドのターキー・ポイント原子力発電所に原子炉を2基増設するための許可申請を行なった。その際、NRCは同社に対し、「今後起こりうる気候変動による将来的な海面上昇の可能性をどう考えているのか」説明するよう求めたことが、NRCの文書記録に残っている。それに対して同社は、気候変動に関する自社分析に触れることなく、海面上昇は1世紀につき約30センチメートルの一定したペースで進むことを前提とした予測を盛り込んだ。これは、NOAAが予測した2100年時点の最悪の数値より約171センチメートルも低い。
以下に、ターキー・ポイント原子力発電所に関する情報をグラフ化して掲載する。
ターキー・ポイント原子力発電所
「原子力発電所は海面からどれくらい高いか」のグラフ
現在の海面での画像
2033年に海面上昇が最悪の予測値に達した場合に
暴風雨が襲った時の海の予測画像