子供が生まれると、周りは祝福ムードに包まれる。しかし、産後は夫婦にとって、関係が大きく変わる試練の時期だという。40代前半の私(記者)も2歳の娘を抱える。30代後半の時に高齢出産をした妻から「出産後の女性の心と体をもっと理解してほしい」と背中を押され、NPOが開いた「カップルのための産前・産後セルフケア講座」に参加した。
足を運んだのは、母親のヘルスケアに取り組むNPO「マドレボニータ」(東京都)が中心となって、5月中旬に東京・晴海で開いた無料の単発講座。参加したのはカップル5組10人(記者夫婦を含む)。生後210日の子供も同伴でき、妊婦さんのカップル1組、赤ちゃん連れのカップル3組が参加した。
■ボールに乗って有酸素運動
「私にも2人の子供がいます。産んだらすべてが楽になると思っていたけれど、産んだ後はもっと大変でした。産む前には気を遣ってもらっても、産んだ後に放っておかれたり、妊娠中よりも体がボロボロになったりしています。産後のリハビリが必要なんです。きょうは、これを伝えたいです」
産後セルフケアインストラクターの仲井果菜子さん(37)が、初めに笑顔で参加者にそう話しかけた。
講座と言っても会場は会議室ではなく、鏡が貼られたスタジオだ。参加者は、ジャージーなど運動が出来る身なりをしている。最初に取り組んだのは、バランスボールの上でお尻を弾ませて筋肉を鍛える有酸素運動。妊娠中に緩んだ筋肉を引き締め、血行をよくする効果があり、持久力も付くという。
テンポのいいダンスミュージックに合わせて、体を上下左右や前後に動かす。まるでエアロビクスのようだ。赤ちゃん連れは、夫の方が抱っこして一緒に弾んだりもした。夫の面白い動きに妻が笑ったり、突っ込みを入れたりする光景も見られた。
マドレボニータが2008~2009年に産後半年以内の女性を中心に620人に実施した調査では、「出産後、体は妊娠中よりラクになりましたか?」という質問に58%が「NO」と回答した。
出産後は、尿漏れなど下半身のトラブルや、赤ん坊を抱っこすることによる腱鞘炎、腰痛や肩こり、乳腺炎などにもなりやすいという。また、体を動かすことはストレスの解消にも効果がありそうだ。
約40分の間しっかり弾んだあとは、ストレッチと深呼吸をした。私も終了時にはうっすらと汗をかいていた。
■自分の思いを言葉に
体を動かした後は、「シェアリング」というコミュニケーションの時間だ。
それぞれカップルで向き合い、「人生・仕事・夫婦のパートナーシップ」の3つのテーマから一つを選び、相手に3分。自分の思いを話す。相手はメモを取り、45秒間でそれを要約して話す。それを相互で行った。
「妻は、夫にもっと話を聞いてほしいと思っています。同じ目線で話をして、家族を再構築できればいいですね」
インストラクターの仲井さんはそう話した。
私も、妻に向かって「人生」について話をした。妻が娘を産む数カ月から産んだ後の1年間、私は海外に単身赴任をして苦労させてしまったことや、家族を大切にしたい、そして仕事で一層活躍したいと思っていることなどを話した。そういったことを面と向かって話すのは、正直、恥ずかしい面もあるし、本音の半分も伝えられた感じがしなかった。
しかし、普段、妻は育児と仕事に追われていて余裕がなく、一方の私の方も帰宅が夜10時を過ぎることも少なくない。とかく腰を据えて話し合う時間が少なくなりがちなので、いい機会になったと感じた。
講座の最後では、各自が感想を述べ合った。参加者の女性は「夫と向き合ってみて、初めて聞くことがありました。家に帰ってからもお話ししたいと思いました」と笑った。別の妊婦の女性は「子供を産んだ後も夫と話し合う場をつくりたいな、と思いました」と話した。120分の講座はこれで終わりだ。
■妻への理解、やっぱり必要
子育てに関する情報は世にあふれている一方で、出産後の女性の身体や心の変化についての情報は、まだまだ広まってないという。
マドレボニータの調査では、52%が「産後に『離婚』の二文字が頭に浮かんだことがある」と答えた。なかなか刺激的なデータだ。産後、夫婦の間で気持ちがすれ違うケースは多く、「夫婦関係の悪化」は深刻な問題だ。「産後クライシス」とも言われる。
私も、娘の保育園の毎日の送りや、部屋の掃除、ゴミ捨てなどを担当して、子育てを「やっているつもり」なのだが、妻の心には一向に響いていないようだ。満足そうな顔をあまり見たことがない。
確かに、出産を控えた妻は大変そうだった。でも、子供を産んで仕事にも復帰すると、抱えるものが増えて一層大変になったようだ。出産後の女性たちは、授乳による長期の睡眠不足、出産時に切開した傷の痛みなど、大きなダメージを受けている。そして、仕事への復帰。男が考えている以上の負担がかかっている。私自身が思っている以上に理解しないといけないのだろう。
ただし妻は、講座のコミュニケーションの時間の中で私に対する不満を述べつつも、子育てや仕事などは「少しずつ、うまくいくようになってきたと思う」と話した。その言葉に少しだけほっとした。この日学んだエクササイズや、コミュニケーションの時間を増やすことを、より意識してやろうと思った。加えて、夫だけでなく、社会全体でサポートする態勢を整えることも欠かせないだろう。
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