インド新政権が直面する5つの課題 ナレンドラ・モディ氏が首相へ

インド総選挙におけるナレンドラ・モディ氏の率いる最大野党、インド人民党(BJP)の圧勝によって、金融市場に高揚感が生まれている。株式相場は史上最高値をつけ、通貨ルピーも対ドルで11か月ぶりの高水準に達した。
Reuters

[ニューデリー 16日 ロイター] - インド総選挙におけるナレンドラ・モディ氏の率いる最大野党、インド人民党(BJP)の圧勝によって、金融市場に高揚感が生まれている。株式相場は史上最高値をつけ、通貨ルピーも対ドルで11か月ぶりの高水準に達した。

10年ぶりに政権に復帰するBJPは、1980年代以降で最低の成長率に落ち込んだ経済の立て直しと、高止まりしているインフレの打破を公約している。

しかし、巨額の財政赤字からエルニーニョによる農業生産への打撃まで、政府が直面する喫緊の課題に簡単な解決策は存在しない。

以下に最も大きな5つの課題を挙げる。

1.財政赤字拡大に歯止めをかける予算の作成

モディ氏の新政権は、予算を発表する7月に、市場によって信頼度を試される最初の試練を迎えるだろう。予算は、インドが本当に財政赤字を抑え込むことができると投資家に納得させるものである必要がある。

旧政権は、今年3月までの会計年度に財政赤字を国内総生産(GDP)の4.6%以内に収める政府目標を達成するため、歳出を130億ドル削減し、約160億ドルの補助金の支出を翌年度に繰り越した。

こうした緊縮策は持続困難であることが明らかになるだろう。GDPの11%占める政府支出は、経済成長に重大な役割を担っている。

燃料や肥料、食品を市場価格を下回る水準で販売する国営企業への補助金の支払いを政府が今後も遅らせれば、国営企業の財務状況は崩壊し、事業資金を借り入れに依存する事態となる可能性がある。

一方で税収は、景気が低迷する中で急速な回復が見込めない。税収の対GDP比率は、ピークだった2007/08会計年度の12.5%から10.2%まで低下している。

退陣する政権が2月にまとめた暫定予算には懐疑的な見方が広がった。例えば14/15会計年度に財政赤字を対GPP比で4.1%と、7年度ぶりの低水準に抑える目標を掲げているものの、歳出は10.9%の伸びを維持している(最近の平均は約15%の伸び)。

スタンダード・アンド・プアーズ(S&P)はインド国債の格付け「BBBマイナス」について、見通しを「ネガティブ」としており、「投機的」水準への格下げを回避できるかどうかは、新政権の行動計画しだいだと指摘している。

2.経常収支の赤字の縮小

13/14会計年度のインドの経常収支の赤字額は対GDP比で前年度の4.8%から2%を割り込む水準に縮小した。金輸入の抑制策が寄与した。

高率の関税などによって金輸入はほぼ半減したが、この政策は非常に不人気だ。抑制策の導入を受けて金の密輸入が急増しており、輸入統計に疑問が投げ掛けられている。

BJPは政権発足後3カ月以内に金に対する関税を見直すことを公約している。金の購入者にとっては朗報だとしても、投資家には好ましい動きではないようだ。昨年8月に、経常赤字の拡大によって通貨ルピーが史上最安値に下落した経験があるからだ。

経常収支の赤字体質の原因は製造業の弱さなどにあり、そうした構造的課題の解決には何年も要するだろう。

3.インド準備銀行(RBI)とエルニーニョへの対応

新政権は自らコントロールできない要素にも直面しそうだ。降水量の減少を伴うことが多いエルニーニョ現象がそれだ。

アナリストは、エルニーニョが起こればインドの農業生産は大打撃を受けると予測する。シティグループによると、6-9月の雨季の降水量が平年を下回った場合、経済成長率見通しは0.50━0.90ポイント下がると考えられ、その一方でインフレ率の上昇につながる可能性がある。

物価の高騰は、インフレ阻止を優先課題に掲げるラグラム・ラジャン総裁率いるインド準備銀行(RBI)と政府の間に緊張関係をもたらす恐れがある。RBIは消費者物価の上昇率を現在の8.6%から16年1月までに6%前後に引き下げたいと考えているため、追加利上げが見込まれる。RBIは昨年9月以降、既に3度の利上げに踏み切っている。

4.民間投資の回復

モディ氏に対する市場の期待感は、投資の呼び込みに成功したグジャラート州知事としての実績に基づいている。

しかしアナリストは、インド全土で同様の成功を再現するのは難しいとみている。インドでは事業計画の承認に州政府が強い権限を持っているからだ。クレディ・スイスによると、中央政府の承認待ちの公共事業は全体の4分の1にすぎない。

設備投資はインド経済の35%近くを占めるが、今年3月までの会計年度の実績は前年度比でほぼ横ばいだった。許認可の遅れや資金調達問題がネックとなり、多くのインフラ整備計画が塩漬け状態となっている。

特に顕著なのは電力事業を担当する各州の電力局だ。燃料費が上昇する一方、電気料金を値上げできないことが一因で、赤字が続いている。

電力事業体の資本構造の変更も進まないため、中央政府が業界の再編を推進する手立ても限られている。

5.国営銀行の資本増強

インドの国営銀行は1000億ドルに上る不良債権処理を抱えており、この問題にも対処する必要がある。不良債権の比率は全貸し出し額の約10%程度で、フィッチ・レーティングスによると、15年3月までに14%に達する見通しだ。

不良債権の大半はインフラ整備に関連するもので、銀行の貸し出し姿勢は慎重になっている。

暫定予算では、銀行がバーゼルIIIで義務付けられた自己資本比率を達成するのを支援するために、1120億ルピー(約18億9000万ドル)が割り当てられた。しかし、実際の必要額はさらに増えるとみられている。

(Rajesh Kumar Singh and Rafael Nam記者)

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