[ウルムチ 1日 ロイター] - 中国・新疆ウイグル自治区ウルムチの鉄道駅で4月30日に発生し、3人が死亡、79人が負傷した爆発事件。攻撃は、イスラム教徒の多い同自治区で行われた習近平国家主席の視察に合わせて実行された可能性があり、その巧妙で大胆不敵な手口に懸念が強まっている。
国営メディアによると、事件が起きたのは、漢民族が多い四川省からの列車が到着した警備が厳しいとされる時間帯で、何者かが爆発物やナイフで襲撃した。同市で爆弾事件が起きたのは過去17年で初めてだという。
翌1日も警察車両数十台が駅周辺で見られ、ライフル銃を持った迷彩服姿の警官も駅の入り口で警戒に当たっていた。警備の物々しさの一方で、駅構内は人があふれ、普段と変わりない様子だった。
中国政府は、事件が「テロリスト」の仕業だと非難。この言葉は、イスラム武装グループのほか、「東トルキスタン」独立のために時に暴力的運動に訴える新疆の分離主義者を意味する。こうした運動を受け、イスラム武装組織が中国西部で活発化するとの懸念が高まっている。
ウルムチの事件は当初、国営メディアがほぼ独占的に報じたが、犯行グループが殺害または拘束されたかどうかには触れなかった。また、新疆への訪問を終えようとしていた習主席が、事件発生時にウルムチ近くにいたかどうかも伝えられていない。
新疆社会科学院で中央アジアを専門としていた潘志平氏は、今回の襲撃が非常に巧みに組織化されており、習主席の訪問に合わせて実行されたとの見方を示し、「中国政府に挑戦していることは極めて明白だ」と語った。
さらに、「昨年は公安部や警察署などが狙われたこともあったが、今や無差別だ。テロ行為は人が最も集まる場所で行われる」とも述べた。
これまでのところ、事件の犯行声明は出ていない。
<挑戦的行為>
米ニューヨークを拠点とする国際人権団体「ヒューマン・ライツ・ウォッチ」のニコラス・ベクイリン氏は、今回の事件について「中国に反発するウイグル族による前例のない挑戦的行動だ」と指摘。
同氏は「非常に影響が大きく、新疆問題に極めて厳しいスタンスを取ってきた習近平氏にとっては、政治的に厄介な事件だ」と述べる。
ウルムチでは1997年、男らがバスに爆弾を仕掛け9人が死亡する事件が起きたが、爆発事件としては今回がそれ以来初めて。また、2009年にウイグル人らが漢民族数百人を刺した事件以来、武装グループによる攻撃としては最大規模となった。
新華社は警察の話として、「刃物を振り回した集団」が30日夜、ウルムチ南駅の出口にいた人たちを刺し、爆発物を爆破させたと伝えた。警備は駅入り口では通常厳しいものの、出口は手薄な上に人で混雑していることが多いという。
ベクイリン氏は同駅について、主に漢民族の季節労働者が綿の収穫に訪れる場所であることから、非常に強烈な象徴になると見る。
ウルムチには現在、多くの漢民族が暮らしている。彼らは仕事を求めて同市や新疆の他の都市へ流入している。これに対し、ウイグル族は自分たちが労働市場から締め出されていると不満を募らせている。
爆発現場から100メートルほど離れた場所でドライフルーツを販売していたウイグル族の男性(35)は、ウイグル人による犯行との見方を否定し、「こうした公共の場所は、ウイグル人にも漢人にも安全ではない」と述べた。
<圧政的統治>
中国では5月1日から2日まで祝日で、事件は鉄道利用者が多いこの時期に起きた。新華社によると、事件当時、四川省の省都成都から到着した漢民族の乗客らが列車から降りていたとみられる。
前出の潘氏は、今回の爆発事件で政府はより強硬なテロ対策に出る可能性があると予想。
同氏は「当局の情報活動がまだ十分な水準でないように見える」としながらも、「ただ、こうした状況では難しさもある。手探りの中での活動で、完全に撲滅するのは困難だろう」と話した。
一方、亡命組織や人権団体の多くは、資源が豊富で戦略的な立地にある同自治区の騒乱の原因が、イスラム教やウイグル族の文化、言語への抑圧など、当局の圧政的な統治にあると主張する。
新華社は解説記事で「扇動者は地元を離れている可能性がある」と指摘し、「このようなことはいつでも起こる可能性がある」とコメントしたドイツに拠点を置く亡命ウイグル人組織「世界ウイグル会議」の広報担当を非難した。
今回の事件以前も、政府がウイグル武装組織の仕業とする一連の事件は相次いでいる。今年3月には、雲南省の昆明駅で29人が死亡する無差別殺傷事件が発生。その5カ月前にも、北京の天安門広場で車が歩行者に突っ込み、計5人が死亡する事件が起きた。
中国共産党の機関紙、人民日報は1日、「テロリストが凶暴であればあるほど、社会の安定を守ろうとする人民の意志は固くなり、民族的統一を求めるすべての民族の思いも揺るぎないものになる」と訴えた。
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