一箱古本市が今年もGWに開催 本と散歩が似合う街「谷根千」で10周年

東京の谷中、根津、千駄木地域(通称:谷根千)でお店の軒先で一人一箱分の古本を持ち寄って売り買いする「一箱古本市」が4月27日と5月3日に開催される。今年で10周年となるこのイベントは、谷根千から広がって全国各地で開催されるようになっている。
南陀楼綾繁

寺山修司は「書を捨てよ、町へ出よう」と書いたが、この町ではまったく逆のことが起きている。「書を持って、町へ出よう」。

東京の谷中、根津、千駄木地域(通称:谷根千)でお店の軒先で一人一箱分の古本を持ち寄って売り買いする「一箱古本市」が4月27日と5月3日に開催される。今年で10周年となるこのイベントは、谷根千から広がって全国各地で開催されるようになっている。そんな一箱古本市の楽しみ方とは?

■文豪が暮らし、個性派書店が並ぶ“本の街”

谷根千は、かつて森鴎外や夏目漱石が暮らし、講談社の発祥地であり、現在も作家や編集者も数多く住むという、本に縁の深い町だ。新刊書店「往来堂」や古書店「古書ほうろう」など、全国的に知られる個性派書店も点在。この一帯を舞台に、2005年から開かれているのが「一箱古本市」で、カフェや書店、ギャラリーなどの軒先に、参加者が一箱だけの“古本屋”を開く。10周年にあたる今年は、4月27日に56箱、5月3日は45箱の合計計101箱が出店される。作家や編集者、出版社も参加、本好きが集まるイベントとして親しまれている。

「単純に野外で古本市をやってみたいという気持ちがありました。それも、プロの古書店ではなく、素人が古本を売ると面白いんじゃないかと。素人はプロのように大量の本は用意できませんが、一人一箱だけ、自分の好きな本を選んで出すのであればやりやすいのではないかと思いました」と振り返るのは、実行委員会代表で、「一箱古本市」を発案した南陀楼綾繁(なんだろうあやしげ)さん。谷根千在住の編集者で、『一箱古本市の歩きかた』(光文社新書)の著者でもある。

南陀楼さんには古本市以外に、もうひとつアイデアがあった。谷根千の街歩きをするためのマップだ。当時から、谷根千は観光スポットではあったが、熟年以上を対象とした「渋い地図」しかなかった。しかし、「若い世代の感性による多種多様なカフェやギャラリーなどのお店が増えてきていました。古い建物をリノベーションしたり。個性的な書店も多い。ただ、そうしたお店は点としてしか認識されていなくて、お目当てのお店へ行く人はそのまま帰ってしまうパターンが多かった」という。

たとえば、「往来堂書店」と「古書ほうろう」をはしごして、ギャラリーをのぞき、ブックカフェでコーヒーを飲んで帰る。「それを地図にしたら面白いんじゃないか」と思ったという。その名も「不忍ブックストリート」。谷根千を走る大通り「不忍通り」にちなんでいる。

■谷根千の一箱古本市が全国で開かれるイベントへ

2004年末、南陀楼さんが「往来堂書店」や「古書ほうろう」など地元の書店や、地元誌の編集部のメンバーに声をかけると賛同してくれた。2005年に地図を作成、ゴールデンウィークには一箱古本市も開くことを目指して、活動をスタート。そうして、「本と散歩が似合う街」とうたったマップが完成した。刷った2万部は、地図上にある店舗や都内の書店、ブックカフェに置いてもらった。

「非常に好評で、手応えがありました。実際にこの地図を持って歩いている人をたくさん見かけました」。内容は毎年刷新され、今年は4万部を印刷。印刷費は地図に掲載する広告でまかなっているが、年々枠も増えている。現在では、都内だけでも200カ所で配布されている谷根千になくてはならない地図となった。

「不忍ブックストリート」のマップを手にする南陀楼綾繁さん

2005年4月に開かれた最初の一箱古本市も、75箱がそろって出店。予想を超える反響を呼んだ。「最初はプロの古本屋とか古本マニアの人が出店するのかなと思っていましたが、そういう人ではなく、ブログで読んだ本のことを書いている人や大学生、若い夫婦だったり。どういう屋号をつけるか、どんな本を売るか、すごく力を入れてくれる人が多かった。高じて、本当に古本屋になってしまった人もいます」

谷根千で始まった一箱古本市は、全国へも広がった。これまで福岡、名古屋、仙台、長野をはじめ、東日本大震災の被災地、石巻市でも開かれた。箱と本があれば、誰でも本屋さんになれる。参加した人がネットで発信、さらに新しい参加者を呼ぶ。参加者同志がつながって、別の場所で一箱古本市を開く。人と人がつながって、一箱古本市は各地で人気イベントとなっている。

■一箱古本市の楽しみ方とは?

その醍醐味はどこにあるのだろうか?

谷根千の一箱古本市は南陀楼さんをはじめ15人の実行委員会が中心だが、必要不可欠なのがボランティアの助っ人たちだ。今年は実に75人もの助っ人が、10周年の一箱古本市を支えている。

「なんでやってくれるんですか?と聞くと、楽しいからと言われます。職場や学校で、本の話をする機会がない。大学生にいたっては、変わった人みたいに思われる。でも、一箱古本市だったら、若い人と70代のおじいさんが普通に江戸川乱歩の話なんかをしています」。本を媒介としたコミュニケーションが、一箱古本市の魅力なのだ。

そして、楽しめるのは一箱古本市だけではない。谷根千では、5月6日まで「不忍ブックストリートweek2014」と称してさまざまなイベントが開催中だ。写真展やポスター市、トークイベントなど、街に本があふれる谷根千へ出かけてみてはいかがだろう?

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