旧日本軍の潜水艦「伊169」は、珊瑚礁の水深42メートルの海底に今も静かに眠っている。
運命の日は70年前、1944年4月4日だった。伊169が、西太平洋のトラック諸島(チューク諸島)に停泊していると、アメリカ軍襲来を告げる空襲警報が鳴った。僚艦とともに急速潜航した伊169だが、空襲が終わっても浮上しなかった。実は一部の弁を閉じるのが間に合わず艦内に浸水。沈没していたからだった。
一部の乗員は沈没後も生存しており、ハンマーで船体を叩き、モールス信号で司令部とやり取りができた。工作船がワイヤーロープでの引き揚げを試みたが、たびかさなる空襲で難航。結果的に乗員103名が殉職した。
ようやく遺体収容作業が始まったのは、「ヒロウヒドシ、ダッシュツハムリ」という最後の信号が送られてから3日ほど後のことだった。潜水士により発見された井川祖助兵曹長の遺体には、ズボンに以下のような内容の遺書が結わえ付けられていた。
「陛下の御艦を沈めて申し訳がない。いかなる苦しみに堪えても浮上させ、再起奉公に努力する。乗員一同は指示にしたがい、終始、沈着に、そして持ち場をまもり、立派に働いた……」
(槇幸「伊号潜水艦ものがたり」光人社NF文庫)
現在も伊169は、デュブロン島の北西の海底に左舷を下にして傾斜した状態で沈んでいる。日本海軍が遺体収容と機密保持のために、艦首や艦橋を爆破したが、その他の部分はスクリューなどが原型を留める。同じくトラック諸島に沈んだ駆逐艦「文月」と並んで、有名なダイビングスポットとなっている。
伊169は、オンラインゲーム「艦これ」で有名な「伊168」(写真)の姉妹艦。全長は104メートルと大型で、日本軍が初めて国産エンジンを搭載した潜水艦だった。最大船速は水上で23ノット、水中では8.2ノット。水深70メートルまで潜航できたという。
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