政府は1日、武器輸出三原則に代わる新たなルールを閣議決定した。紛争当事国などへの禁輸方針は堅持する一方、「日本の安全保障に資する」など一定の条件を満たせば輸出を認める。
日本が強みを持つ分野の武器輸出や技術移転で相手国との関係を強化するのが狙いの1つだが、厳格審査の具体的な手法など不明確な部分もあり、平和国家の理念を維持していけるかどうか、一部に懸念する声も出ている。
<審査プロセスは透明化>
新たなルール「防衛装備移転三原則」は、1)国際的な平和と安全の維持を妨げる場合は輸出しない、2)輸出を認める場合を限定して厳格に審査する、3)目的外使用と第三国移転は適正管理が確保される場合に限る――という構成になっている。
紛争当事国や安保理決議の違反国などへの禁輸を決めた当初の三原則の方針は引き継ぐが、全面禁輸に踏み切って以降に積み重ねた例外措置を再構築し、輸出を禁止する場合と同時に、認めうる場合の条件を盛り込んだ。
さらに審査の流れも透明化。まず、貿易を所管する経済産業省が審査。その後に外務省と防衛省、国家安全保障会議(NSC)の事務局が加わり、外交的、技術的な視点も交えて審議する。
過去に扱ったことのない案件などは、NSCの下で局長級会議を開いて協議。さらに慎重さを要する案件はNSCの閣僚会合で判断する。
<シーレーン沿岸国にも>
防衛装備品の輸出政策に詳しい拓殖大学の佐藤丙午教授は「これまではプロセスがブラックボックスだったが、誰がどのように審査するのかはっきりするのは大きな変化」と話す。その一方で、相手国の管理体制のチェックや、第三国への移転を認める場合の審査をどう厳格化するかなどが具体的ではないと指摘する。
「積極的平和主義」を掲げる安倍政権が三原則を見直した理由の1つは、武器輸出や技術移転を通じ、相手国と安全保障関係を強化すること。これまでの輸出先は管理体制の整った米国にほぼ限られたが、新たな原則は「安全保障面での協力関係がある国に対する救難、輸送、警戒、監視および掃海にかかる協力に関する装備品の輸出」を認めうるとしている。海難飛行艇や巡視艇を東南アジア諸国やインドなどに輸出することを想定しており、日本側のチェック機能が問われることになる。
また、従来の三原則では戦車など直接的な殺傷能力があるものは、例外措置でも除外されてきた。礒崎陽輔首相補佐官が「国際紛争を助長するような輸出はしない」と強調するように、新たな原則でも完成品の輸出は想定していない。
しかし、共同開発という名目なら技術移転できる可能性がある。相手方が事前同意なしに第三国への輸出を希望したことから、最終的に破断になったものの、以前の原則下でもトルコに戦車用エンジンの技術を移転する構想が検討されたことがある。
<度重なる例外措置で形骸化>
武器輸出三原則は、1967年に当時の佐藤栄作内閣が、1)共産国、2)国連安保理決議で武器輸出が禁止されている国、3)紛争当事国やその恐れのある国──に輸出を禁じたのが始まり。79年に三木武夫内閣がすべての国への禁輸を決めた。
しかし、兵器の共同開発が世界的に主流になりつつあることなどから、日本政府は官房長官談話を出して個別に例外を認めてきた。9カ国が共同開発する戦闘機F35向け部品輸出など、これまでに21件の例外措置が取られ、全面禁輸の方針は形骸化していた。
◎「防衛装備移転三原則」の概要原則1 移転を禁止する場合を明確化し、次に掲げる場合は移転しない
・日本が締結した条約その他の国際条約に基づく義務に違反する場合
・国連安保理決議に基づく義務に違反する場合
・紛争当事国への移転
原則2 移転を認めうる場合を限定し、透明性を確保しつつ厳格に審査
・平和貢献と国際協力の積極的な推進に資する場合
・日本の安全保障に資する場合
原則3 目的外使用と第三国移転は適正管理が確保される場合に限定
・基本的に事前同意を相手国政府に義務付ける
[東京 1日 ロイター]
(久保信博 編集:田巻一彦)
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