今月8日に南シナ海上空でマレーシア航空
マレーシアの対応に非難が集まる一方、中国は増大する自国の軍事能力を誇示。捜索活動に関与する関係者らからは、極秘の軍事データを暴露することになりかねない情報の公開に消極的な国も存在するとの声が聞こえる。
このような背景には、中国の台頭が軍事競争をエスカレートさせ、中国、マレーシア、インドネシア、フィリピンを含む国々が領有を争っているという地域的な緊張の高まりがある。
クアラルンプール発北京行きの370便が最後に確認されたのは、マレー半島の反対側で、針路から数百マイル外れた位置だった。
同機をめぐる謎が深まるにつれ、極秘である軍事技術が鍵を握る可能性も明らかになった。
しかし、捜索範囲が拡大するなか、各国は極秘データの共有に一段と消極的になったとみられる。東南アジアのある国の特使は「スパイ小説のようになっている」と語った。
捜索範囲が南インド洋に限定され、オーストラリアが主に指揮を執るようになるまで、各国の間に中核的な協調関係がなかったと専門家や当局者らは指摘する。
問題の一部として、アジアが北大西洋条約機構(NATO)のような地域的な防衛システムを持たないことが挙げられる。
元英空軍パイロットのマイケル・ハーウッド少将は「事態を大きく前進させるには、地域的な安保体制を築くことが急務だ」と指摘。危険なのは、捜索活動が国同士の張り合う場とみなされることだと述べた。いくつかの国はすでに、発見物や衛星画像で公然と競い合っている。
<ポーカーゲーム>
マレーシアのヒシャムディン運輸相代行(兼国防相)は、不明機発見に向けた国際的な努力を擁護し、「関係各国は皆、前例のないほど協力しており、それは変わっていない」と強調する。
しかし、同国が防空能力の限界の一部を露呈することを余儀なくされている一方で、機密のレーダー情報を公表することに対する近隣諸国の消極姿勢によって、捜索が何日も妨害された可能性が浮上している。
16日に開かれた大使級の会合で、マレーシアは各国に対し、正式に協力を訴えたが、事情に詳しい2人の関係筋によると、丁重にかわされた場面もあったという。
なかには、マレーシアに書面で協力を要請するよう求める国もあり、会合に関係する人物は「まるでポーカーゲームのようだった。マレーシアがカードを見せても、他の国は手の内を見せなかった」と語った。
一方、中国は劇的に軍事力を増強し、なかでも特筆すべきは南半球にまで進出していることだ。中国軍の艦隊がニュージーランドや南米に派遣されているほか、昨年末に南極海でロシア船が立ち往生した際には、砕氷船が乗客の救出に協力した。
西側の元軍当局者は、「中国軍の活動はまさに大国の行動と言える。そこには政治的な期待があるに違いない」としたうえで、「いかにうまくやろうとも、米国だけが現在、(監視や無線諜報を通して)知ることができる。時がたてば分かるだろう」と述べた。
<台頭する中国軍>
中国は28日、インド洋に船5隻を向かわせたが、専門家たちは中国がほんの数年前までは保持していなかった軍事力を明らかにしていると口をそろえる。
中国当局はまた、普段は公開しようとしない衛星を多数、捜索に使用していることを公表している。
「10年前なら、中国はこのゲームに全く参加していなかっただろう」と語るのは、元米海軍パイロットで、現在は米ワシントンにある「Institute for the Study ofWar」のシニアフェローであるクリストファー・ハーマー氏。「大半の人が予想していたよりもずっと早く中国の軍事力が発展してきたことを示している」と指摘する。
ただし結局のところ、少なくともブラックボックスを回収するといった技術的な能力を持っている唯一の国は米国かもしれない。米国の深海探査機は2009年に大西洋に墜落したエールフランス機の残骸を回収した。
これまでのところ、米国はマレーシア機捜索のため、哨戒機2機や、ブラックボックスからの信号を探知するのに使用されるTPL‐25曳航式信号探知システムなどを南インド洋に送った。
現在の、そしてかつての当局者は、ソマリアの海賊を掃討するために中国軍が他国とともに活動する北インド洋のように、南インド洋での捜索でも、各国が互いに監視し合っているような状態だと指摘する。
だが一方で、軍事機密はいまだ安否の分からないマレーシア機乗客の家族にとっては関係のない話。息子が同機に乗っていたという母親は中国のテレビ局に対し、「機密なんてどうでもいい。ただ息子を返してほしいだけ」と話した。
[28日 ロイター]
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