STAP細胞、米教授強気の理由 発想に自負、異端視も
新しい万能細胞「STAP細胞」の論文は、主要著者のうち米ハーバード大のチャールズ・バカンティ教授だけが撤回に反対している。弟と15年前に研究に着手していて、「アイデアを生んだのは自分」との自負がある。STAP細胞について独自の作製方法を公表、強気な姿勢を崩していない。
2月に論文データに疑惑が見つかって以降、バカンティ教授は公の場に姿を現さず、日本メディアの取材にも応じていない。
ハーバード大学医学部の関連病院で麻酔科部長を務め、再生医療工学の第一人者としても知られる。人間の耳のような組織を背中にはやしたマウスを1997年に発表し、注目された。ハーバード大に留学した小保方晴子・理化学研究所ユニットリーダーを指導し、今回の論文では総合プロデューサーのような役割を果たした。
弟のマーティン・バカンティ氏も米国の病院に勤務する病理医で、英科学誌ネイチャー発表の論文では著者の一人になっている。
■15年前に「確信」
日本では、理化学研究所の小保方晴子ユニットリーダーらが1月末、神戸市内で記者会見を開いて発表した。これに対し、バカンティ教授は直後の朝日新聞の取材に「まずはっきりさせておきたいのは、STAP細胞のもともとの発想は自分と弟のマーティンから出たことだ」と語った。
同教授が論文発表前に共著者らに送った手紙では、「私とマーティンが15年前、他に例のない変わった細胞を発見した。当時から万能性を持っているという確信はあった」と述べている。ハーバード大の地元で発刊される米紙ボストン・グローブによれば、事故やけがで下半身まひになる脊髄(せきずい)損傷の治療に使える新しい細胞を探していたという。
この論文は2001年に発表。極端な低酸素状態でも生き延びる「胞子のような細胞」があり、「病気や事故で失った組織を再生させる潜在性を持っている」と報告した。当時所属していた大学に異端視されたことなどから、ハーバード大に移ったという。08年に渡米した小保方さんに今回の研究テーマを与えたのもバカンティ教授だ。
■共著者らと距離
直接の取材には応じない一方で、病院を通し「データが誤りである証拠がない以上、撤回すべきだとは考えない」(3月14日)との声明を発表。強気の姿勢を見せつつ、日本の共著者らとは距離を置きつつある。今月5日に理研がSTAP細胞の詳しい作製方法を発表すると、バカンティ教授らは「細いガラス管に通すことが極めて重要」などとする独自の方法をウェブサイトで公表した。
10日に主要著者の一人、山梨大の若山照彦教授が論文撤回を提案した際も、米紙ウォールストリート・ジャーナルに「重要な論文が同僚研究者の圧力で撤回されたとなればとても残念なこと」とコメントした。
バカンティ教授のグループは、すでにサルの脊髄損傷でSTAP細胞の移植実験を進め、臨床試験も準備中と言われる。米国のある再生医療の研究者は「今回の論文を取り下げればこの15年間の研究の信頼を失いかねないという危機感があるのではないか」と語る。(ボストン〈米マサチューセッツ州〉=小宮山亮磨、ワシントン=行方史郎)