日本と北朝鮮との協議が、再び動き出している。
両国は3月20日、2012年11月以来となる日朝局長級協議を4月にも再開することで合意した。当面は、2002年9月の日朝首脳会談で、拉致被害者が「8人死亡」とした調査結果の再調査に北朝鮮が応じるかが一つの焦点となる。
今回は、第2次世界大戦直後に北朝鮮で亡くなった日本人の遺骨返還、遺族の墓参などの問題を話し合う日朝赤十字会談が開かれており、並行して行われた外務省課長級協議で決まった。一見、まったく別の課題にも見えるが、なぜ同時に進むのか。
■「反対しにくい」
2006年10月以降、北朝鮮が核実験や弾道ミサイル発射などを実施したことに抗議し、国際社会と歩調を合わせる形で、日本は船舶の入港禁止や在日本朝鮮人総連合会(朝鮮総連)幹部の再入国禁止など、独自も含めた制裁措置を実施し、現在まで続けている。日朝間の貿易は現在、事実上途絶えている。
北朝鮮は2008年6月の日朝実務者協議で、日本の経済制裁を一部解除することを条件に、「8人死亡」とした調査結果の再調査に同意した。しかし同年9月に福田康夫首相が辞任したことで、北朝鮮側は調査開始の延期を通告。現在まで実施されていない。
膠着した日朝の交渉を打開しようと、北朝鮮が解決を望んでいる日本人の遺骨問題と、日本側が解決を望む日本人拉致問題を、同じ「人道問題」として包括的に話し合う動きが始まった。北朝鮮では1945年以降に、餓えや伝染病などで約3万4千人の日本人が亡くなったとされる。国交がないため墓参なども基本的に行われてこなかったが、2012年から一部遺族の現地訪問が始まっている。
2012年8月には日朝赤十字会談で、北朝鮮地域に残る日本人の遺骨問題について話し合いが始まった。この直後に日朝政府間協議も開かれ、日本側は拉致問題を議題とするよう求めた。北朝鮮は拉致問題を「解決済み」としてきた表現を一時使わなくなった。
北朝鮮との交渉にはそれ自体に日本国内で慎重論も根強いが、北朝鮮の人道支援に関わってきた関係者は「海外戦没者の遺骨収集には日本の右翼団体も協力している。遺骨という名目には保守勢力も反対しにくい」と話す。
■中朝悪化し、日韓に接近?
一方、北朝鮮の金正恩第1書記は、2013年2月に核実験に踏み切ってから対外的に強硬とみられてきたが、2014年に入ってからは韓国との間で、離散家族の再会に約3年4カ月ぶりに応じ、日本とも対話に応じるなど、外交関係の改善に乗り出してきた。2014年3月には、拉致被害者の横田めぐみさんの両親を、娘のキム・ウンギョンさんとモンゴルで対面させている。
背景には、中国首脳と太いパイプを持っていた張成沢氏が処刑されたことで、中国との関係が悪化し、対韓国や対日本との関係改善に舵を切っているのではないかとの見方もある。MSN産経ニュースは匿名の専門家の分析を以下のように伝えている。
「金正恩氏の訪中要請に中国は応じていない。張成沢氏粛清で中国の態度はますます硬化した。最近の南北関係改善や対日接近は、対話路線への転換で孤立を回避し、中朝関係の緊張緩和をはかろうとの局面転換が最大の背景だ」(前出の専門家)
中朝国境情勢に詳しい関係者によると、張成沢処刑以後、中朝関係は急速に悪化し北朝鮮側に打撃を与えている。中国から北朝鮮に入る物資のうち、一部の生活物資や軍の戦略物資が突然、禁輸になるなど、中国は恣意(しい)的に北朝鮮に圧力をかけて中朝関係の窓口だった張氏粛清に対する「懲罰と警告」のシグナルを金正恩氏に送っているという。
(MSN産経ニュース「【朝鮮半島ウオッチ】「安倍首相の電撃訪朝」を本気で心配する韓国・朴槿恵政権 日朝接近に神経ピリピリ」より 2014/03/21 07:00)
ただ、仮に拉致問題が完全に解決されたとして、2002年の「日朝平壌宣言」に定められた国交正常化や経済協力などは、核やミサイルなどを巡る国際的な枠組みから切り離して議論することはもはや不可能な状態。アメリカや中国などとの緊密な協議も不可欠となるだけに、今後も長期間にわたる複雑な交渉が続くことになりそうだ。
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