東日本大震災で被災した福島第1原発から約55キロ離れた福島県郡山市。ここには、「外遊び」がどういうものかあまり知らない幼児たちがいる。放射能を恐れて、屋内にとどまっていることが多いからだ。
3年前の原発事故を受けた屋外活動に関する厳しい安全基準はその後緩和されたが、親たちの心配や根付いてしまった習慣から、屋内で過ごす子どもたちはなお多い。
当局や学校関係者は、その影響が今、徐々に表れ始めていると語る。体力の低下や協調性の欠如のほか、自転車に乗れなかったり、すぐに怒ったりといった感情面の問題を抱える子どもが増えているという。
郡山市にあるエムポリアム幼稚園の平栗光弘園長は、園児の中には放射能を非常に怖がる子もおり、食べ物を口にする際に放射能が含まれていないか尋ねられることもあると語る。同園ではそうした場合、食べても大丈夫だと説明している。
一方で、屋外の砂場で遊びたいとせがむ子どももいるが、園児たちには言い聞かせて屋内の砂場で遊ばせているという。
事故後、福島第1原発から半径30キロ圏内が立ち入り禁止区域となり、約16万人が住み慣れた自宅から離れることを余儀なくされた。放射線量が比較的低いその他の地域では、公園や校庭の表土入れ替えのほか、歩道など公共スペースの除染や子どもの屋外活動制限といった措置が取られた。
<「外気に触れることも気にする」>
郡山市は事故後間もなく、子どもの屋外活動時間について、2歳までは1日15分、3─5歳までは30分までという制限を設けた。この制限は昨年10月に解除されたが、多くの幼稚園や保育園では、放射能をなお懸念する親の要請で制限を継続している。
同市の屋内遊技施設では、ある母親が「外の空気に触れることも気にしている」と話していた。ここでは、3歳の子どもでさえも「放射能」という言葉を知っている。
1986年のチェルノブイリ原発事故では、子どもの甲状腺がん増加との関連が指摘されたが、国連は昨年5月、福島原発事故に関連したがん発生率の上昇は予想していないと指摘した。
エムポリアム幼稚園の平栗園長によると、園周辺の放射線量は、震災直後の毎時3.1─3.7マイクロシーベルトから同0.12─0.14マイクロシーベルトに低下したという。
これは国の安全基準である年間1000マイクロシーベルトより低いことになるが、放射線量は幅広い地域で場所ごとに異なることから、多くの親は子どもが屋外で遊ぶことに神経質なままだ。
3人の男の子の母親である金田歩美さん(34)は、「外出を控え、窓を開けず、ネットショッピングで福島から離れた地域の食べ物を購入する生活が当たり前になってきた」と、厳しい現状を話す。
<高まる子どものストレス>
しかし、十分に屋外遊びをできないことが、郡山市の子どもたちに身体面と精神面で悪影響を与えているというデータもある。
郡山市役所の担当職員によると、握力、走力、ボール投げなどの体力・運動能力が、震災前と比べると明らかに低下しているという。
福島県教育委員会による年次調査では、県内の子どもの体重がほぼ全ての年齢で国の平均を上回っていることが明らかになった。
例えば、5歳児は約500グラム上回るが、年齢が上がるにつれて全国との差はおおむね広がる傾向にある。
エムポリアム幼稚園の平栗園長は、子どもたちの間でけんかや言い合いのほか、急に鼻血を出すケースが増えていることが、ストレス増加を示していると懸念を示している。
郡山市では、公共の場で表土の入れ替えを少なくとも1回は行っており、公園にある全遊具の交換も間もなく終了する。
前出の同市職員によると、最近では放射能に対する不安より、子どもが外出しないという心配の声を親からよく聞くという。こうしたことから、放射能に対する親の考え方も、徐々に変わってくるかもしれないと、この職員は話す。
しかし、平栗園長によると、事態は依然として厳しい。同氏は、子どもたちが福島にとどまっていて本当に大丈夫なのかと時々考えると打ち明けた上で、ここにいるしかない子どものために、できる限りのことをしてあげる必要があると語った。
(Toru Hanai・Elaine Lies記者)
[郡山(福島県) 10日 ロイター]
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