ジャーナリスト・鳥越俊太郎さんに長野智子ハフィントンポスト日本版編集主幹が本音で聞いた「ネットと報道」「都知事選」「安倍政権」【後編】

ジャーナリスト・鳥越俊太郎さんに、報道番組「ザ・スクープ」(テレビ朝日系)のキャスターを共に務めていたハフィントンポスト日本版・長野智子編集主幹が本音のインタビュー。2月に行われた東京都知事選の分析、安倍政権の現状について聞いた。

ジャーナリスト・鳥越俊太郎さんに、報道番組「ザ・スクープ」(テレビ朝日系)のキャスターを共に務めていたハフィントンポスト日本版・長野智子編集主幹が本音のインタビュー。鳥越さんが初代編集長を務めた韓国発の市民参加型ネットメディア「オーマイニュース」を始め、インターネットと報道の関係や、2月に行われた東京都知事選の分析、安倍政権の現状について聞いた。(前編はこちらから

■都知事選はなぜ盛り上がらなかったのか?

長野:今回の都知事選、候補者たちの戦いはどうご覧になってましたか?

鳥越:僕は最初から舛添要一さんが勝つだろうと予想はしていました。細川護煕さんには悪いけれども、細川さんの顔が映像に映ると生気がなかった。年を取り過ぎていて、活力がない。頼もしい感じがなかった。いくらそばで小泉純一郎さんが吠えても、殿本人がこれじゃなということで、劇場型で浮動票が集まるということは選挙中から予想できなかった。

結果もその通りで、 宇都宮健児さんの方が得票が多かった。なぜかというと、雪が降って浮動票が見込まれず、組織票が強い選挙だったので、舛添さんは自民党と公明党という組織票があったので取れたわけです。宇都宮さんが98万票もとれたのは共産党がバックにいたからです。今、共産党の支持率が伸びています。NHKが2月に実施した世論調査での政党支持率は、共産党が3.3%でした。3.9%の公明党と変わらないところまで来ている。

今、4割の人が非正規雇用という格差社会。一時期、小林多喜二の「蟹工船」が非常に読まれたことがありましたが、日本社会の底辺では低所得、貧困化が進んでいる。その層をかつては創価学会がとらえていた。しかし、公明党は今、与党です。では、どこに集まるかといえば共産党なんです。民主党は何をやっているかわからない鵺(ぬえ)みたいな政党ですし。そして、共産党支持者は雪降っても投票に行くわけです。だから、宇都宮さんは細川さんより票が多かった。

「反原発」ということで、ノンフィクション作家の鎌田慧さんたちが一本化を模索したけれども、両陣営ともその気がなくてできませんでした。舛添さんが211万票。宇都宮さんが98万票、細川さんが96万票ですから、これらの票を1本化して、第三者を反舛添ということで出馬すれば、票の行方はわからなかったと思います。

長野:その場合、イシューはやはり原発で、ということですか?

鳥越:そうですね。原発で行くということになるのでしょうが、都民は原発という争点にぴんときてないので、それほどのイシューになれたかどうかはわかりません。しかし、負けるにしても反原発ということで一本化してそういう戦いになれば、これからの政治を考える上で意味があったと思います。

■「独裁的な政権には統一戦線方式で対抗するしかない」

鳥越:今、安倍政権というのはご存知のように衆議院、参議院で公明党と一緒に多数を占めています。去年からずっと僕らが見てきたことは、安倍政権は「やりたい放題」ということ。特定秘密保護法案もそうですし、靖国神社参拝でもアメリカが「ノー」と言っているのに行ってしまうし。集団的自衛権でも、国会で「俺が全部決めるんだ」みたいなことになっている。それは憲法を否定することじゃないですか。

長野:時の政権によって憲法解釈が変わってどうする、ということですよね。

鳥越:憲法というのは、そういう政治権力のお目付役としてあるものです。国民の権利を確保するためにあるのに、「俺が総理大臣だから決めるのだ」「選挙で勝てばOKだ」みたいな言い方をしている。これはある種、ワイマール憲法下でヒットラー政権が生まれていく状況に似ていて、怖いなと思います。

そういう独裁的な政権が出現したときに、国民はどうしたらいいのかというと、バラバラではだめ。統一戦線方式しかないです。第二次大戦の終わりに、フランスはドイツナチスに占領されたわけです。その時にどうやってフランス国民はドイツと戦ったかといえば、いろんな政党、シャルル・ド・ゴールが一緒になって、党派、思想を超えて反ナチということで統一戦線を組んだ。イタリアでも対ムッソリーニ戦線があった。

もちろん、そういう時代とは違うけれども、今の日本も政権がなんでも自由にできる恐ろしい独裁政権状態になっている。安倍政権は国民の声を聞くような顔をして何も聞いてません。特定秘密保護法案でも公聴会をやりました。そこで「慎重に」というのが多数の意見だった。マスメディアの世論調査でも、半数以上が反対。それでも国民の声をふみにじって、特定秘密保護法の成立を強行するというのが安倍政権のやり方なんです。今後、集団的自衛権の解釈改憲でも同じことをやるでしょう。

■安倍政権が目指す「レジームチェンジ」の正体

それから、もうひとつ忘れてならないのは、安倍政権は教育委員会制度を否定しようとしている。実はとても大きなことで、教育委員会という制度は戦前にはありませんでした。日本は教育が戦前の戦争を引き起こした大きな力になっていたので、教育というものは政治権力から独立したものであるべきだとして、GHQによって教育委員会が作られた。

そこで、首長とは違う教育委員長を立てて、教育行政を取り仕切る。教育長の下には、職員が配置されて執行機関として教育委員会の決めたことをする。政治からの教育の独立を一応、担保していた。それを安倍政権はやめようとしています。

長野:教育委員会の問題、形骸化が指摘されたこともありましたからね。

鳥越:首長と教育委員長を兼ねるという案も出ているようです。結論はまだ出ていませんが、僕は恐らく今後、政治の思惑が教育の現場に今よりもっと強まっていくと思います。

長野:コンセプトより運営の仕方だと思うですが、その改革を飛ばしてますよね。安倍政権がやろうとしていることを、鳥越さんとしては見逃せないわけですね。

鳥越:たとえ形骸化していても、将来のためにならない。教育がストレートに政権につながれば戦前と同じことになります。

長野:自民党の改憲案もそうですよね。それこそ憲法は国家権力を縛るものなのに、国民を縛ることが加えられている。

鳥越:あれは明治憲法と一緒です。日本国憲法とは戦後、GHQの民主主義的な人たちが、民主主義国家のひとつの理想の形を日本で実験しようということで作ったもの。それを安倍さんは「レジームチェンジ」の名のもとに壊そうとしている。その結果、政治権力がすべてを支配するみたいな国になろうとしています。その方が効率はよいかもしれません。軍隊も教育も、総理大臣が全部権限を握る。だけど、それはちょっと違うのではないかと。「レジームチェンジ」という響きのよい言葉にだまされないで、安倍政権に対する思想党派を超えた統一戦線を組むべきだというのが僕の思いです。

■都知事選出馬要請を断った理由

鳥越:都知事選もそういう統一戦線を組んで統一候補を立てれば、また違ったと思うですけどね。

長野:鳥越さんが出ればよかったじゃないですか(笑)。新聞に想定される候補者としてお名前が出ていましたよね。実際にオファーはあったのですか?

鳥越:「出ませんか」というお誘いはありました。でも、1つ目は収録済の番組が7本、講演も14本決まっていたので、そうはいきませんでした。2つ目は家族が全員反対。3つ目は、自分の仕事は何なのかと考えた時に、当事者になってやるのは本分ではない。自分はアウトサイダーで、野次馬でいるのが人生だろうなと。それで、最終的にはノーと言いました。でも、ちょっと悩みました。今年もう74歳ですから。残り時間、最後のチャンスと思ったら、いいかなと(笑)

長野:鳥越さんはジャーナリストとしての性分なのか、ご自分の経験したことのないものに対する好奇心が旺盛ですよね(笑)

鳥越:ですから、投票結果は非常な複雑な思いで見ましたね。自分が出ていればどうなっていたかなあとか(笑)。今度、3月23日に橋下徹大阪市長の出直し選挙の投開票がありますよね。自民も公明も民主も候補者を立てないんですよ。でも、共産党の大阪府委員会は立てると言っていた。しかし、立てないという決定を出しました。大阪市では「候補者を立てない」統一戦線ができちゃったわけです。それで、橋下さんは一人相撲になってしまった。6億円の費用をかけて橋下さんのためだけにお祭りをすることになってしまった。市長も変わらないし、議会も変わらないし、投票率も上がらない。そういう大阪市の様子を見ていると、共産党は変わったなと。これで全員が橋下さんを笑い者にするという形になった。

長野:ネガティブでそれもどうかなあと思いますけどね。どうせ6億円かけて選挙するなら、ちゃんとやればいいと思いますけどね。

鳥越:経緯からいって、やり方がむちゃくちゃで、選挙の準備ができないこともあって、一人相撲させた方がいいという判断を各政党がしたということですね。それはそれで面白いなあと僕は思っています。都知事選でなぜそれができなかったのか。

長野:鳥越さんが出馬しなかったからですね(笑)

鳥越:統一戦線の良い候補者を見つけられなかったということですよ(笑)

おわり

(構成:猪谷千香)

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【訂正】文中に「宇都宮隆」という表記がありましたが正確には「宇都宮健児」です。お詫びするとともに訂正いたします。(2014/03/11 23:24)

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