日本時間2月16日未明に行われたソチオリンピック・ジャンプ男子ラージヒル決勝。最終ジャンパーのカミル・ストックの点数が表示され、金メダルを逃したことを悟った葛西紀明は、一瞬、悔しそうな表情を見せるもすぐに笑顔で日の丸を手に取り、喜びを露わにした。ヨーロッパで「レジェンド(伝説)」と呼ばれる男は競技後、各国のメディアから引っ張りだこ。母国、NHKのインタビューまで、相当な時間がかかった。
葛西は1972年生まれ。小学3年でスキーを始め、中学3年でテストジャンパーを務めた際、優勝した選手の記録を上回り話題になると、1991-92シーズンからワールドカップに参戦。以来、16勝を上げる実績がありながら、これまでオリンピックの個人種目では5位が最高。満足行く成績が挙げられていなかった。
1992年に初めて参加したアルベールビルオリンピックで団体4位、ノーマルヒル31位、ラージヒル26位。1994年(羽生結弦が生まれた年)のリレハンメルオリンピックでは、団体で金メダルを目前にするも、最終ジャンパーの原田雅彦が失敗して銀メダルに終わる、いわゆる「リレハンメルの悲劇」を味わった。個人でもノーマルヒル5位、ラージヒル14位とメダルには届かなかった。
1998年の長野オリンピックでは、ノーマルヒルで7位に入るも、怪我の影響で団体ではメンバー外。皮肉にも、葛西のいない日本チームは金メダルを獲得する。
競技外でも、1998年に地崎工業、2001年にマイカルと次々に所属する会社のスキー部が廃部となる憂き目に遭うも、土屋ホームに移籍、プレーイングマネージャーを務めながら、世界を転戦した。
2002年のソルトレークオリンピック、2006年のトリノオリンピック、2010年のバンクーバーオリンピックでもメダルには届かず、葛西だけでなく日本人選手が自体がメダルに絡まない、日本ジャンプが結果を出せない冬の時代を迎える。
一方、オリンピックに次ぐタイトルである世界選手権では1999年団体銀メダル、2003年ラージヒル銅メダル、ノーマルヒル銅メダル、団体銀メダル、2007年団体銅メダル、2009年団体銅メダルを取った。
20年以上に渡って、次々と変わっていくルールに対応しながら、日本ジャンプの黄金期も、不調期も常に葛西は代表メンバーに入り、世界の一線を歩み続けた。
そんな「レジェンド」が、ヨーロッパで再び脚光を浴びたのは今年1月、オーストリアで開催されたワールドカップ。41歳7カ月と史上最年長で優勝し、地元紙も大々的に報じた。
41歳、7度目の挑戦でようやく手が届いた、個人の銀メダル。個人戦なのに、メダルをほぼ決定づけたジャンプを終えた後、若手選手が駆け寄って祝福した。
誰もが「有終の美」を予感した競技直後、葛西はこう語った。
「金メダルという新しい目標に向かってまた頑張りたい」
葛西のソチオリンピックは残すところ、団体戦のみ。「不屈のレジェンド」の挑戦はまだ終わっていない。
※葛西の競技後のインタビュー
――おめでとうございます
ありがとうございます。ノーマルヒルではメダル取れなかったんですけど、本当にメダルを取るという難しさをすごく感じていて、今日も本当にレベルが高い試合だったんで、メダルを狙ってましたけど簡単に取れると思ってなくて、すごいいろんなことが頭でぐるぐる回っていて、もう、失敗したらどうしようとか、メダル取れたらどうしようとか、たくさん頭をよぎっていて、でも、2本ともいいジャンプができたと思います。
――2本目、得点がでるまで時間がありましたね。
そうですね。でも仲間たち。ダイキ、タク、レルヒがすぐ駆け寄ってきてくれたんで、絶対にトップに立ったのがわかったので、その時点でメダルが確定ということで、非常に嬉しく思いました。
――表彰台、一人でたった気分は?
初めてですね。個人戦でメダル取ったことなかったので。まあ明日、メダルセレモニーでどんな状況になるかわからないですけど、本当に楽しみにしています。
――92年のアルベールビルの初出場以来、いろいろとルールが変わったがなんでこんなに強いんだろうと不思議でした。
僕も不思議に思っています。負けたくないという気持ちが一番、強かったですし、そして、たくさんの方に支えてもらって、お父さんお母さん、姉、妹、そして会社の方たち、ファンの方たち、ずっといままでたくさん応援してくれてるんで、その応援に応えたいな、という気持ちでした。
――本当にレジェンドに。
金メダルを取って、本当にレジェンドと呼ばれたいなと思ってたんですけど、まだまだ、目標ができたので。その金メダルという目標に向かってまた頑張りたいと思います。
――まだ続きがあるということですね。
まだ諦めずに金メダルを目指して頑張りたいと思います。
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