「ミドリムシが地球を救う」ユーグレナ・出雲充社長に聞く「未来のつくりかた」

ミドリムシ、知っていますか? 世界の食糧危機や環境問題を解決し、近い将来には、ジェット機も飛ばせるかもしれない。そんな可能性を秘める藻の一種が、ミドリムシだ。「子供たちの栄養失調をなくすのは、ミドリムシ」と惚れ込み、屋外大量培養を成功させ実用化への道を切り開いたのはベンチャー企業「ユーグレナ」の社長・出雲充さん。「ミドリムシと出合って以来13年、『ミドリムシで地球を救う』ことを仕事にしている」と話す...
Naoko Utsumiya

ミドリムシ、知っていますか? 世界の食糧危機や環境問題を解決し、近い将来には、ジェット機も飛ばせるかもしれない。そんな可能性を秘める藻の一種が、ミドリムシだ。「子供たちの栄養失調をなくすのは、ミドリムシ」と惚れ込み、屋外大量培養を成功させ実用化への道を切り開いたのはベンチャー企業「ユーグレナ」の社長・出雲充さん。「ミドリムシと出合って以来13年、『ミドリムシで地球を救う』ことを仕事にしている」と話す出雲さんにこれまでの挑戦やミドリムシがつくる未来について聞いた。

ミドリムシ(学名:ユーグレナ)は、名前からイモムシなど虫の仲間だと誤解されがちだが、ワカメやひじき、昆布と同じ藻の一種。植物と動物の両方の性質を持ち合わせ、ビタミン類、ミネラル類、アミノ酸など59種類もの豊富な栄養素を含む。二酸化炭素CO2を吸収して成長する特徴も持つことから、食糧危機や環境問題の解決に活用しようと、日本でも1980年代から研究されている。出雲さんらが2005年8月に設立したユーグレナは、それまで困難とされたミドリムシの屋外大量培養に成功。サプリメントやクッキー、化粧品などの製造販売、OEM(相手先ブランドによる生産)受託を行っている。

ミドリムシ(ユーグレナ)

■「仙豆」を探し求めてミドリムシに

東京大学1年生のときに旅行で訪れたバングラデシュで見た光景が、出雲さんがミドリムシと出合うきっかけをつくった。「バングラデシュは世界で最も貧しい国の一つと聞いていた。通りで子供たちがおなかをすかせて、ワンワン泣いていると思っていた。けれど、1日3食必ずカレーや豆のスープなどを食べていて、飢えで泣き叫んでいる子供は1人もいなかった」。問題は栄養失調だった。炭水化物でカロリーは摂取できるが、ほかに食べ物がなく栄養が偏っていたのだ。

「バングラデシュの栄養失調をなくすにはどうしたらいいのか。漫画『ドラゴンボール』の仙豆(せんず、栄養素が豊富な奇跡の豆。空腹を一瞬に満たす)みたいな食べ物があって、それがあれば栄養失調なんてあっという間に解決するんじゃないか」。仙豆を探し求め、栄養価が高い食べ物を次々と調べた。農学部3年生のとき、ついに「ベスト・オブ・栄養素」のミドリムシにたどり着く。

出雲さんとバングラディシュの子供たち

栄養価が高く、食べ物としてのバランスもいいミドリムシ。だが、栄養価の高いミドリムシは、培養している間に、他の微生物や酵母、カビなどが浸入してきて、食べ尽くされてしまう。大量培養の難しさは実用化の最大のネックになっていた。大学でミドリムシ研究に没頭していた出雲さんも「ミドリムシの実用化は未来の話」と卒業後、都市銀行に就職した。

それでも、ミドリムシへの情熱は衰えることはなかった。大学院でミドリムシの研究を続けていた後輩の鈴木健吾さん(現・ユーグレナ取締役)と夜な夜なミドリムシについて語り、休日を利用しては夜行バスに乗り日本中のミドリムシ研究者に会いに行った。しかし、次第に限界を感じる。「『出雲くんはミドリムシに関してアマチュアではトップ。でも銀行員の人がミドリムシに浮気しても、人生をミドリムシにかけている研究者が必要なデータなどを簡単には見せられないよ』と。逆の立場でもそうだな、と思いました」。出雲さんは銀行を辞めた。

■坂本龍馬のごとく、日本中の研究者を一つに

銀行員としての暮らしを捨て、リスクを背負って、日本中の研究者の協力を得るため飛び回った。すると、今度は違った反応が返ってきた。「『銀行を辞めて来ました。ミドリムシ一本です。本気ですから先生、どうですか』と話すと全然違った。日本中のミドリムシ研究者がデータを共有してくれた」。出雲さんらは2005年8月、「ユーグレナ」を設立。その年の12月、日本中の研究者の協力を得て、沖縄・石垣島でミドリムシの屋外大量培養に成功した。

成功の秘訣について、出雲さんは「私が行った役割は、坂本龍馬と近い」と振り返る。「脱藩のように銀行辞めて、大学や研究室など何かの組織や肩書に属さず、フリーの立場でミドリムシを世の中にデビューさせようと現れた。龍馬みたいに『薩摩と長州、仲良くしましょう』と来て、最初は迷惑だと思ったはず。でも、みんなミドリムシが好きでミドリムシが地球を救うと本気で思っている。そこにおいては一致していたから実現できたんです」

やっと大量培養に成功した出雲さんに、さらなる試練が待ち受けていた。ミドリムシが全く売れないのだ。「大量培養できれば、勝手に売れていくとそのときは思っていた。全然売れない現実に実用化って大変だと初めて思った」。2006年からミドリムシの営業に飛び回るが、500社近く断られ続けた。「日本では前例がないものを誰も買わない。1社目になりたがらない」。転機は2008年5月、伊藤忠商事からの出資が決まってから。それをきっかけに、日立製作所やJX日鉱日石エネルギー、全日空、電通、清水建設など大手企業の協力を次々と得て、事業が軌道に乗り始めた。2012年12月、マザーズに上場を果たした。

■ミドリムシ・フィーバーがやってくる!?

2013年末、ユーグレナはOEM供給により、個人消費者向け商品を立て続けに発売した。ファミリーマートなどで発売されたミドリムシ入りヨーグルト、デニーズのミドリムシ入りハンバーグ、イオン系で販売されたミドリムシ入りペットフード。2014年には、さらに多くの商品の販売を予定している。出雲さんは「ミドリムシ・フィーバーの年にしたい」と語る。ミドリムシを使った商品が数多く店頭に並び、当たり前に手に入れることが出来るようになるからだ。「今、ミドリムシのことを、ちゃんと知っている人は3割ほど。多くの商品がお客様に届く2014年は創業以来の目標だった認知度51%を目指しミドリムシのある日常を当たり前にしたい」

■「バングラデシュは未来を先取りしている」

ユーグレナは2013年10月、創業の原点バングラデシュに海外初の事業所を開設した。出雲さんが最も力を入れているのもバングラデシュのプロジェクトだ。バングラデシュでは多くの母子が栄養失調状態にあり、乳幼児の死亡率の増加が問題になっている。ユーグレナは母子の栄養失調問題改善のため、給食などにミドリムシを活用する計画を進めている。出雲さんは「バングラデシュは貧しい国ではなく、未来を先取りしている」と語る。ミドリムシによってバングラデシュの栄養失調問題が解決できれば、世界中にある同じ問題をミドリムシが解決できる証明になるからだ。「バングラデシュは購買力もなく、貧しく、改善が難しい。だからこそ、そこに未来がある。今後、人口が急増し、急速に成長するイスラム圏の国という点も大きい。他のイスラム教の国でもミドリムシが栄養失調を改善するという成功モデルをバングラデシュでつくりたい」

■「ミドリムシが地球を救う」は何合目?

石油に代わる次世代燃料の生産技術の開発研究が、世界中で熱を帯びるなか、ユーグレナは、2010年からJX日鉱日石エネルギーなどと共同でミドリムシからジェット燃料を作り出す研究開発を進めている。サトウキビやトウモロコシから生産されるバイオ燃料は食糧と競合し、価格高騰を引き起こした。ミドリムシはこうしたバイオ燃料が抱える問題を克服できると注目を集めている。出雲さんは「2020年には、ミドリムシでジェット機を飛ばす」ことを目標に掲げる。そのためには大量生産する巨大な培養設備が必要だ。

「ミドリムシで地球を救うことを使命にやってきた」という出雲さん。「栄養失調をなくすことも、バイオジェット燃料をつくることも、技術的には達成できている。開発研究のステージから実用化のステージに着手したという意味で今は6合目地点」と語る。

■21世紀のビジネスは「丸いビジネス」であるべきだ

出雲さんは、20世紀と21世紀に必要とされているビジネスは全く違うと指摘する。「21世紀のビジネスは線形で一直線。始点と終点がある矢印型です。儲かる商品ならば、工場から産業廃棄物やゴミや二酸化炭素が出ても、影の部分には目をつむり、経済成長すればいいという考えだった」。では、21世紀のビジネスとは、どのような視点が重要なのだろうか。出雲さんは「21世紀はビジネスが丸、円じゃないとダメ。つまり、持続可能な社会をつくるビジネスでないと社会から必要とされない」という。「21世紀は完全にパラダイムが変わった。20世紀の矢印型のビジネスでは続かない」。石油資源依存から持続可能なバイオ燃料、再生可能エネルギーへの転換もその一つだ。「ミドリムシが多くの人に応援してもらえるのは持続可能な丸いビジネス、21世紀のビジネスだから。ミドリムシを作るときはゴミは少なく、CO2削減にもつながる、最初のスタート地点に戻る、円になっているかということが21世紀のビジネスでは一番大事なこと。21世紀のビジネスは丸いビジネスを目指すべきです」

出雲さんは続ける。「東日本大震災以降、若い人たち、我々の世代はビジネスをして大もうけしようとか、使い切れないくらい大金持ちになろうとか、そういうモチベーションではもう生きていけない。持続可能な社会を作るために、みんなが出来ることをした方が良い、そういう人が増える方向にあるのは間違いない。消費者も変わっている。21世紀後半には自然と丸いビジネスが当たり前となり、商品も、消費者もそれを受け入れ当たり前になっていると思います」


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