昆虫たちの交尾する様子を、現役芸大生がスケッチしたというイラスト集『昆虫交尾図鑑』。12月上旬の発売早々、このイラストとそっくりの写真を掲載したウェブサイトが存在することが指摘され、「イラストはトレース(複写)ではないか?」と物議を醸している。
このウェブサイトの管理人(写真の撮影者)は、『図鑑』の発行元である飛鳥新社に対して、出版差し止めと謝罪文掲載を求めるメールを送ったと、ツイッターで明らかにした。
一方、著者は「参考にした写真」はあるとしつつもトレースは否定。飛鳥新社は自社のサイトで「昆虫の姿をリアルに描いた場合に、写真における昆虫の特徴と類似するのは当然」などと主張し、著作権を侵害していないと反論している。
写真を参考にして描かれたイラストが、写真の著作権侵害となる可能性はあるのだろうか。判断のポイントについて、著作権をテーマにしたブログを運営している柿沼太一弁護士に聞いた。
●「元ネタ写真の創作性の程度」がポイント
「今回問題となっているのは、『昆虫交尾図鑑』のイラストが、ウェブサイトに掲載されている写真の著作権を侵害しているかどうかです。
ある写真をもとに制作されたイラストが、写真の著作権を侵害するかどうかを考える場合には、『元ネタとなった写真の創作性の程度』がポイントとなります。
写真は、被写体の選択やアングル等に個性が表れるため、著作物の一種なのですが、その創作性の程度は微少なものから高度なものまで様々です」
写真の「創作性」は著作権侵害の判断に、どのように関わってくるのだろうか。
「過去の判例をみると、ある写真の創作性の程度が低い場合は、著作権侵害となるのは当該写真をそのままコピーして利用したような場合にほぼ限定される、とした知財高裁の判決(平成18年3月29日)があります。
この考え方に基づくと、逆に創作性の程度が高い写真なら、『類似』(侵害)とみなされるものの範囲は広くなることになります。
つまり、写真の創作性の高さ/低さが、保護される範囲の広さ/狭さに直結している、ということです」
●いずれの場合でも、そっくりそのままの「デッドコピー」は許されない
こうした基準からすれば、今回のようなケースはどう考えられるのだろうか?
「今回の場合、参考にされたとみられる写真の創作性の程度は、その写真ごとに異なるのではないでしょうか。
元ネタとされる写真の中には、この昆虫の交尾の様子を撮影しようと思えば、誰が撮影しようとこのような写真になるだろう、という写真(つまり、創作性が低い写真)もある一方で、一つの美的作品と評価しうるような写真(創作性が高い写真)まであるように思います」
そうすると、本件でも、誰が撮っても同様になるような創作性が低い写真については、著作権侵害と見なされない可能性もあるのだろうか? 柿沼弁護士は次のように指摘していた。
「ただ、今回問題となっているイラストを、元ネタになったとされる写真と比較してみると、イラストは写真のほぼデッドコピー(そっくりそのままの模造・複製品のこと)と言えそうです。
したがって、結論としては、元ネタとなった写真の創作性の程度にかかわらず、これらのイラストは著作権侵害の可能性が高い、ということになるでしょう」
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【取材協力弁護士】
兵庫県弁護士会所属、映像制作会社やアーティストからの著作権に関する依頼案件が多い。著作権に関するブログ「プロのための著作権研究所」(http://copyrights-lab.com/)を執筆中。
事務所名: かけはし法律事務所
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