特定秘密保護法「こんなに大騒ぎになると思わず」 安倍政権、2つの大誤算

特定秘密保護法について、礒崎陽輔・首相補佐官(自民党参院議員)が18日、日本外国特派員協会で講演し「正直言ってこんなに大騒ぎになるとは思っていなかった。国民の世論を二分するような法律を出すつもりはなかった」と打ち明けた
Taichiro Yoshino

12月6日に成立した特定秘密保護法について、礒崎陽輔・首相補佐官(自民党参院議員)が18日、日本外国特派員協会で講演し「正直言ってこんなに大騒ぎになるとは思っていなかった。国民の世論を二分するような法律を出すつもりはなかった」と、2つの大きな誤算があったことを打ち明けた。

■誤算1:理解されず、説明不足

オスプレイの写真を撮って自分のHPに掲げたら懲役5年になると書いた新聞もある。有名な映画監督が、もう映画が撮れないとか、これまでの映画も上映できないと言いました。今の民主主義国家の日本でそんなことがありえるのでしょうか。

「秘密が増えることはない」と言っていたが、なかなか理解されなかった。国には秘密がたくさんあります。その中で重要な特別管理秘密(約42万件、うち9割が衛星写真。次に暗号の解読、自衛隊の装備の規格、部品の情報と続く)の中から、特定秘密を特定するわけです。今でも軍事秘密については似たような法律がある。外交秘密やテロ、スパイは今でも秘密。じゃあこの法律で何が変わるか、これまでは国家公務員法の懲役1年だったが、これを10年以下に引き上げる、これだけなんですね。なぜこういうことが必要になるか。NSCをつくり、世界中の官邸とつながります。その世界標準の環境の整備が必要だったのです。

原発やTPP(環太平洋経済連携協定)も秘密になると言っている人がいました。これもまったく間違いです。テロの捜査に関する情報は秘密になるが、テロリストに利用されるからと秘密になることはありません。経済情報が特定秘密になることもありません。居酒屋でお酒を飲んでいる時に、後ろで公務員が特定秘密の話をしているのを聞いてしまっただけで懲役になるとか、それをホームページに書いたら捕まるという話もあった。一般の国民の情報取得罪も情報漏洩罪はありません。しかしこういったことを日本の新聞やテレビは報道を続けたのです。これは特に申し上げないといけませんが、ジャーナリストの取材は一切罪にはならないと条文には書いています。

秘密が増えるわけではないという合意があれば騒ぎにならなかった。我々の説明不足もあったのだと思います。

■誤算2:民主党は賛成すると思っていた

もう一つは、民主党も賛成してくれると思っていた。安倍政権が引き継いだ時、この法律の原案はできていたのです。民主党が(尖閣沖の中国漁船)衝突事件から力を入れてきたものです。民主党が全面対立になったのは我々も想像外でした。

民主党政権時代の官房長官の枝野さんが、これは情報公開法とセットでないといけないと主張しました。私は非常にいい考えだと思いました。特定秘密を何年で開示するかが大きな議論でしたが、この下に一般の秘密がたくさんある。それをどう国民の皆さんに開示するかも大きな問題だと思ったんです。私は自民党で法案のとりまとめをやった町村元官房長官に、自民・公明・民主の枠組みで情報公開法のとりまとめをしてほしいと言いました。この臨時国会でもっとその議論ができれば実りがあったが、民主党が全面対立の中で議論は立ち消えになりました。

■年明けにも情報保全諮問会議

しかし自民党は公明との間で情報公開法の改正を約束していますので、今後、民主党も含めて有意義な議論になることを期待したい。どこの国でも国家安全保障上の秘密があり、それを守る法律は皆さん理解されると思います。もちろんそれは一定の枠をはめたものでなければなりません。年明けにも情報保全諮問会議を設置して、指定、運用、解除の基準などを決めていきたい。法律よりも詳しい基準を作っていきます。基準は公開しますので、これまで何が秘密かわからなかったのが、どういうものが国のトップシークレットかグループ分けはわかってくると思います。これは民主主義に資するのではないかと思っています。

あわせて第三者機関も設置に向けて検討していきたいと思います。政府のなかにつくるのは第三者機関じゃないと批判されるが、トップシークレットを外部の人が監視している例は世界の他の国にもない。そういうことを通じて、秘密保護制度を国民にもっとわかりやすいものにしていきたい。

一方で情報公開制度や公文書の管理の仕組みもまだ歴史が浅く、十分ではないと私は思っています。そうした制度を作ることによって、国民の知る権利に答える国家にしていきたいと思っています。

国会の審議が混乱したのは審議時間を確保すればよかったと総理も反省しているところです。今後、情報保全諮問会議で法律よりも詳しい基準を作っていきます。したがって基準は公開しますので、これまでは何が秘密かわからなかったのが、何が国のトップシークレットか、グループ分けはわかってくると思います。これは私は民主主義に資するのではないかと思っています。

■行政の裁量どうチェックする? 内部告発の保護は?

出席した国内外の記者からは、行政の裁量権の乱用を防ぐ仕組みや、議会による監視強化の必要性を指摘する質問が上がった。

――この法律は行政機関の長の裁量権が大きい。裁判、司法、議会は管轄権を持っていない。そうなると、判断が正しいのか、そう判断するのかチェック機能がどう確保できるのか。

どこの国でも国家安全保障上の秘密は政府が指定していると思います。それを国会や第三者機関がコントロールする仕組みは世界にはないと聞いています。しかし今回の議論も、政府のなかに第三者機関を入れることを盛り込んだ。国会や裁判所にも一定の条件の下で情報を提供できることになっています。こういうことが事後的な関与になる。指定の段階から行政以外が関与するのは難しいと思います。

――ドイツでは委員会があり、秘密の指定プロセスを監督する。日本でも議会内に指定のプロセスをコントロールする仕組みが必要ではないか。

先進国の多くに秘密を専門に扱う委員会があることは私も知っています。日本でも国会の中に委員会をつくろうという議論が、年明けにも始まると聞いています。その動きは基本的には歓迎しているのです。

――公表を前提として特定秘密を入手した場合に、公表のための取得であれば免責されるのか。

一般国民を対象とした取得罪も漏洩罪もありません。だから国民が仮に特定秘密を知っても、それを自ら公開しても罰則になることはありません。正確に言うと、一般国民が罰せられるのは一つだけある。それは特定秘密を知っておきながら、漏洩することが犯罪と知っていながら、公務員をそそのかした場合に限られます。この場合でも取材行為は除かれています。

――危機管理のときこそ情報開示の重要性が問われるのではないか。

危機管理での情報公開の必要性は同感です。福島第一原発事故のときにSPEEDIという放射線の情報が政府から公開されませんでした。この情報が流れていればずいぶん避難は変わっていた。多くの人が放射能の行く方向に逃げていたのです。こういうことは反省して、情報公開に努めたい。

――施行まで1年あるのにもう改正の話が出ている。はっきり言ってそれは悪い法律ということではないのか。

法律を改正するという話は聞いていません。第三者機関なら、これは衆議院のなかで修正協議した内容を今国会で前倒しで説明したのであって、改正しようという話ではありません。そのなかで第三者機関に法的権限を与えたらどうかという話もあり、その法律がいるかどうかもまだ分からないが、これから検討していきたい。

――政府が非倫理的なことをして公務員が声を上げないといけなくなった時、告発者を守るセーフガードはどうするのか。

悪い政府、悪い役人が出てきた場合はたしかに大きな課題であります。ただ普通の法制というのは、法律というのは守らないといけないので、守らなかったときのことを書かない。おかしなことをやっている政府や公務員を正しい公務員が告発した場合、それは我々政治家が守らないといけないと思っています。日本という国は良心が報われる国だと思っています。

――どうしてこんな法律が必要なのか。いま存在する軍事機密を保護する法律を強化することで対応できなかったのか。まったく新しい法律を作る必要があるのか。

今までの法律は一般の公務員にしか罰則がかかっていません。今回はやはり政治家に対しても罰則をかけたのが大きい。これまでの法律の体系ではできなかった。

【※】政府の公式見解で、特定秘密保護法への疑問は解消できますか?皆さんのご意見をコメント欄にお寄せください。

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