英南西部ヒンクリーポイントで建設される新たな原子力発電所への中国企業による出資は、原発輸出大国を目指す中国の野心を明確に示している。しかし、中国企業が原発輸出を本格化させるには、外資との提携なしでは実現不可能であることも事実だ。
ヒンクリーポイントでの欧州加圧水型原子炉(EPR)プロジェクトでは、中国広核集団(CGN)と中国核工業集団(CNNC)が、建設に当たるフランス電力公社(EDF) が率いる企業連合(コンソーシアム)に合計で30─40%出資する見通し。
国内で原発増設が続く中国は、そこで培った実績を原発輸出に活用したい考え。中国はパキスタンで既に原子炉を建設したが、総事業費が160億ポンド(約2兆7000億円)に上るヒンクリーポイントでの原発建設は、先進国では初めてのプロジェクトとなる。英国での成果を足掛かりにし、グローバル市場でCGNとCNNCの存在拡大を目指す。
しかし業界アナリストは、中国が単独で海外の原発事業に参入するのは困難だとの見方を示し、その理由として、供給網の不備、政府による干渉の可能性、原発事業の経験不足を挙げている。 中国・厦門大学エネルギー研究院の李寧院長は「(中国側は)非常に野心的だが、海外市場で歓迎されるかはまた別の問題だ」と語った。
2011年に福島第1原発事故が発生して以降、日本やドイツ、スイス、イタリア、ベルギーなどは新規原発建設を見送ったり、原発を段階的に廃止している。一方で中国は、2020年末までに原子炉の発電能力を12.57ギガワットから58ギガワットに引き上げる計画だ。
<収益面では全くの「初心者」>
国営メディアによると、中国国家エネルギー局の元局長で原発推進派の張国宝氏は、9月に行われた科学者の会合で、福島第1原発事故で「中国が世界の核大国を追い抜く機会がやってきた」と述べている。同国はアルゼンチンやトルコでも原発プロジェクトに入札する計画だ。
ただ、フランスの原子力コンサルタント、ダイナトム・インターナショナルのアルナー・ルファーブル氏は、中国国内での実績が海外での成功を意味するとは限らないと指摘。「中国の原発事業はすべて国営企業の管理下にあるが、これらの企業の目的は利益ではなく原発建設そのもの。海外での事業展開や原発事業での利益計上については見当もつかないだろう」と述べた。
<中国企業に対立意識>
CGNとCNNCはヒンクリーポイントの原発建設に参加するが、両社の協力関係構築は困難とみられる。中国当局はこれまで両社に対し、国内原子炉設計に共同で取り組むよう要請したが、現時点では実現していない。
厦門大学の李氏は「政府が意図的に両社を市場で競争させたため、互いに対立意識を持つのは当然だ」と指摘。両社のライバル意識が、海外原発市場で中国が劣勢に立たされる要因にもなり得ると述べた。 中国南部を拠点とするCGNは、地元以外での事業拡大も視野に入れ、今年に名称を中国広東核電集団から変更。原発運営事業はEDFを参考にしている。
一方、CNNCは原子力担当省から生まれ、政府の後ろ盾がある。政府や軍との密接なつながりを維持し、世界中で原子炉の設計や建設を目指している。
両社とも燃料供給や技術面で欧米企業と提携し、自社ブランドの原子炉は海外の設計に基づいたものだ。
また供給網の面でも、先進国市場での水準を維持するため、中国企業は海外の提携先に頼ることになるだろう。中国企業が海外で原子炉建設を受注したとしても、核燃料の確保で問題が生じる可能性もある。CNNCは核燃料を保有し処理能力もあるが、CGNは提携先のフランス企業から協力を得る必要がある。
前出のルファーブル氏は「原発建設の受注には20年分の核燃料の供給も含まれるのが常識だが、CGNにはそれはできない」と語った。
[北京 17日 ロイター]
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