知育アプリ500万ダウンロード超の舞台裏を「スマートエデュケーション」に聞く「スマホで子守、本当にダメ?」

近年、スマートフォンやタブレット端末を親子で使用する機会は増えている。こうした状況を受け、長時間にわたる使用は健全な子供の成長を妨げるとして、日本小児科学会が「スマホで子守をさせないで」との呼びかけを始めた。しかし、日々の子育ての中、子供がぐずったり、手が離せない時など、親にとって使用せざるを得ない場面は少なくない。どうしたら、バランス良い付き合いができるのか。何気なく選んでいる知育アプリがどのように開発されているのか。口コミなどで人気が広がり、2年間で13本の知育アプリが500万以上ダウンロードされたベンチャー(東京都品川区)を訪ねた。
スマートエデュケーション

近年、スマートフォンやタブレット端末を親子で使用する機会は増えている。こうした状況を受け、長時間にわたる使用は健全な子供の成長を妨げるとして、日本小児科医会が「スマホで子守をさせないで」との呼びかけを始めた。しかし、日々の子育ての中、子供がぐずったり、手が離せない時など、親にとって使用せざるを得ない場面は少なくない。どうしたら、バランス良い付き合いができるのか。何気なく選んでいる知育アプリがどのように開発されているのか。口コミなどで人気が広がり、2年間で13本の知育アプリが500万以上ダウンロードされたベンチャー「スマートエデュケーション」(東京都品川区)を訪ねた。

■「保護者の代わり」ではなく「親子のコミュニケーション」に

スマートエデュケーションは11月、「乳幼児の適切なスマートデバイス利用に関する『5つのポイント』」という提言を発表した。「保護者の代わり」ではなく、どうしたら「家庭内コミュニケーションの促進や、社会性・創造性・表現力・ITリテラシー向上を図る」ことができるかといった視点から作成されている。

1、親子で会話をしながら一緒に利用しましょう

2、創造的な活動になるよう工夫しましょう

3、多様な体験ができる機会を作りましょう

4、生活サイクルを守りながら使用しましょう

5、親子でコミュニケーションを取りながらアプリを選びましょう

「この提言の背景には、『子供がスマホやタブレット端末に夢中になってしまうので、タイマーをつけてほしい』、『動画サイトで気がつくと暴力的な映像を見ていた』など利用者のお母さんたちの悩みがありました。それに対して何らかの解を出さなければいけないと思いました」と話すのは、スマートエデュケーション代表取締役、池谷大吾さん。提言を作成するにあたり、研究者や保育園幼稚園関係者らと議論を重ねた。

「スマホに子守させるはだめというのは、正論だと思っています。スマホでも絵本でも長時間続けていたり、親が子供に無関心なことは良くありません。でも、実際は電車の中で子供が騒いでしまった時などに「頼む!」とスマホを渡したくなることもあります(笑)。そこまでだめと言ってしまっては、親の精神状態にも良くないです。ただ、スマホを使っている間にもお子さんは育っていますから、何を与えるべきかは、考えていただきたいと思います」

■500万ダウンロードの背景にあるもの

スマートエデュケーションの知育アプリは口コミで広がり、現在までに合計で500万ダウンロードを超えているが、この間わずか2年。なぜここまで急成長したのだろうか。池谷さんは日本ヒューレッド・パッカードからサイバーエージェントグループを経て、2011年にスマートエデュケーションを起業した。「起業する前、たまたま自宅にマーケティング用にiPhone3GS置いてあったのですが、子供がガラケーのコンテンツで遊ぶことがなかったのに、iPhoneでは夢中で遊んでいました。親のかけたパスワードを解くことすらコンテンツとして楽しんでいた(笑)。iPhoneのようなスマートデバイスは直感的に操作できます。そこで、IT弱者である子供かお年寄りをテーマに起業しようと思ったのがきっかけでした」と振り返る。

調べたところ、子供向けのコンテンツは乏しかった。そこでスマートエデュケーションでは品質にこだわり、童謡や人気のアニメソングに合わせて親子で楽器遊びができる知育アプリ「おやこでリズムえほん」や、世界や日本の名作童話などが楽しめる「おやこでスマほん」をリリースしていった。ねらいは当たる。「潜在ニーズがあり、見事に親子の方々の心に刺さりました。最初から子供に渡しっぱなしにするのではなく、親の膝の上に乗せて使ってくださいと言ってきました。子供に愛を込めたハイコンテンツを提供したことが大きかった」

日本で急成長するスマートエデュケーションが今、意識しているのが、海外展開だ。11月に新たな知育アプリのシリーズ「Gocco」(ゴッコ)を世界に向けてリリースした。最初の作品は、「Gocco ZOO」(日本名前:Goccoどうぶつえん)。動物園の飼育員として、ゾウやパンダ、恐竜などにえさをやったり、自由に色を塗ったりして、オリジナルの動物を生み出すアプリで、DeNAで数々のソーシャルゲームを手がけてきた太田垣慶さんが開発した。太田垣さんは、2011年からDeNAの海外展開に携わり、サンフランシスコを始めとした世界各地の拠点でソーシャルゲームデザインやマネタイズの設計などをしていたが、2013年5月にスマートエデュケーションに転職した。ソーシャルゲーム開発の第一線で活躍、海外でも実績のある太田垣さんは、なぜ知育アプリに惹きつけられたのだろうか。

■ソーシャルゲームの一線で活躍してきた太田垣さんが初の知育アプリに挑む

「もともと子供が好きだったのですが、サンフランシスコで働いていた時に現地メンバーの家へ遊びに行ってそこの子供たちに良いものをつくりたいなと思いました。それから、アメリカで30歳を超えてこれからの30代で誰に向けたものづくりするのか考えた時、子供に届けたいと。あちらのスタートアップにジョインするか、DeNAで立ち上げるか、いろんな選択肢があったのですが、日本の強さをアメリカで感じたし、自分自身も日本人であるという意識もあったので、そこの強さを発信していきたいと思って4月に一度、帰国しました」

そこで、「1番速くものづくりができそうだった」スマートエデュケーションへ入社することに。5月に入社して1週間で新しいアプリのコンセプトを固めた。11月に完成させたそのアプリが、「ZOO」だった。ソーシャルゲームの達人が、初めて挑んだ子供向けのアプリ。「全く違いましたが、ものづくりは人間の感情だと思っていますので。どういったところで、どういった感情を持ってもらいたいか。ソーシャルゲームであっても、おもちゃのレゴであってもそれは同じだと思っています。それに、私の頭の中には子供の要素がいっぱいあるので(笑)、それに置き換えてこれが面白そうとか、発想の思考回路自体は同じ。ただ、思考を置き換える相手にきちんとスイッチして、それを実現するのはどういったやり方をすれば良いのだろうという考え方です」

最初から「ZOO」は国内だけではなく、世界中でダウンロードされることがねらい。言語の壁を超えて直感的に操作できるよう、テキストレスで設計されている。その中で、日本の家紋のようなスタンプや日本古来の鬱金や藤といった色も使った。「クリエイティビティを刺激したいということを、人生のテーマにしてもいいと思っています。『ZOO』もお絵かきの要素は入っていますが、長く愛して頂けるクリエーション。何回か動物を世話して見飽きてさよなら、ではなく、こんな象ができた、今度はこんなトリケラトプスができたとその都度、楽しんでほしいです」

スマートエデュケーション代表取締役、池谷さん(右)と太田垣さん

■目標はレゴのように世界で愛されるスマートデバイスのブランド

スマートエデュケーションでは、国内でこれまで同様、知育アプリを展開する一方、「Gocco」シリーズも発信してゆく計画だ。池谷さんは語る。「教育ビジネスは儲からないと言われていますが、むやみに儲けるよりも、文化をつくりたいと思いました。我々が提供したいのは、社会への価値。もっと儲かるアプリはあるのだと思います。広告をどんどん入れるとか。でも、我々は子供が使うものなので、そういうことは一切やりません。ブレーキをかけながら、でも長く続くものをつくっていきたい」

スマートエデュケーションは、世界中で愛されているレゴのような存在を目指しているという。「どこの国でも、教育は大きくなればなるほど、その国独自の文化や宗教に基づくものになりますが、小さい子供向けは世界共通。レゴのように愛されるスマートデバイス上のブランドをつくりたいです」