1人1万円以上の飲食に対して課税する「高額飲食税」を、政府・自民党が検討していることがわかった。財政再建に対する取り組みの一つで、企業の交際費の一部を非課税にする政策とセットで実施し、年末にまとめる2014年度税制改正大綱に盛り込む方針で検討しているという。MSN産経ニュースが報じている。
政府・自民党が検討している新税は、消費者が飲食店や宿泊施設などで支払う食事や飲み物代が高額になった場合に課税する。課税基準は今後調整するが、1回の飲食で1人当たりの代金が1万円を超えたら、1人の飲食に対して数百円程度の税を課す案などが浮上している。対象を高額代金に絞り込むことで低所得層の負担を避け、高級な食材やワインなどを楽しむ富裕層からの税収増を見込む。
(MSN産経ニュース「高額飲食に新税検討 政府・自民「1人1万円超」で調整」より 2013/11/30 08:53)
なぜ今、高額飲食税の案が自民党から出てきたのか。その背景には、自民党と連立政権を組んだ公明党が推進する「軽減税率制度」を巡る議論があるようだ。軽減税率までは導入したくない自民党が、代替え案として「高額飲食税」の案を出してきたとみられる。そこには公明党に対する配慮があるようだ。
■自民党と公明党の「軽減税率」に対する亀裂
自民党と公明党の連立政権になって、翌年度以降に税制をどのように変えるかを示す「改正大綱」を作るのは、両党で作る与党税制協議会となった。しかし、両党の間で現在、税制について意見が割れているものがある。「軽減税率制度」に対する考え方である。
政府与党は、2013年度与党税制改正大綱において、消費税率の10%引き上げ時に、生活必需品などの特定の品目に対して消費税率を低く抑える「軽減税率制度」を導入することをめざすとした。消費税率が高くなるほど、所得の少ない世帯の負担が重くなる「逆進性」の問題が指摘されているためだ。
しかし、公明党が酒類や外食を除く食料品や、新聞・書籍などは低税率の対象とすべきと主張するのに対し、自民党は税を徴収する際に発生する経費がかかると反対。まだ意見が割れている状態だ。
(11月29日の与党税制協議会では)軽減税率を導入した場合の納税事務負担について協議。自民党は軽減税率を導入すれば税率が複数になるため、商品ごとに税額や税率の明細を記載したインボイス(税額票)の導入が不可欠となり、納税事務負担が増えると主張した。
これに対し、公明党はインボイスを導入しなくても、現行の帳簿方式で用いる請求書に商品ごとの税額などを追加記入する簡易な手法で対応できると反論。同時に「(インボイスと比較して)納税事務の負担は全く異なる」として、新たな負担は限定的なものになるとの見通しを示した。
(MSN産経ニュース「自公、軽減税率でヒアリング実施へ 溝埋まらず、12月9日に」より 2013/11/29 21:35)
経団連や日本商工会議所など6つの経済団体も、何が生活必需品にあたるのかという線引が難しいなどの理由で、複数税率導入に反対する意見を11月20日に発表。東京商工会議所は、生活必需品の線引について、次のように指摘している。
一言に「水」といっても、水道水だけなのか、ミネラルウォーターは対象となるのか、「米」であれば、一般白米だけなのか、高級ブランド米は対象となるのかといった点で、線引きが非常に困難であると考えられます。
(東京商工会議所「複数税率導入への反対について 3.対象品目の線引き等で国民や事業者に大きな混乱を招く」より。)
■公明党が推進する「交際費」への課税率の軽減
大企業が加入する経団連が消費増税に賛成したのに対し、消費増税に反対してきたのが、チェーン店ではない飲食店や理容、クリーニング、ホテルなどの生活衛生関係営業(生衛業)である。生衛業の店舗などが加入している全国生活衛生同業組合中央会は2012年6月、消費増税になった場合は軽減税率制度を導入するなどを求める要望書を政府に出している。
生衛業が求めているのは、軽減税率制度だけではない。「高額飲食税」とセットで導入を検討されるとされる企業の交際費の一部を非課税にする案もその一つ。現在は資本金1億円以下の中小企業についてのみ、年800万円までの交際費を経費として認めているが、これを大企業にも広げるとする内容だ。
大企業にも拡大するのは、中小企業より大企業のほうが交際費を使うためだ。1億円以下の企業と、1億円超の企業を比べると、1社あたりの交際費金額がかなり違うことが分かる。しかも中小企業については年800万円まで経費として認めるとしていたが、相当下回っている状態となっている。
交際費を経費にすることが認められれば、飲食店などは自分の店の売上が増えるのではないかと考える。しかし、大企業においては交際費が経費として認めらえていない。そのため、生衛業は、自分たちの店を利用してもらうために、大企業の交際費を認めてもらいたいと要望するのだ。
現在、大企業に対しては一人当たり5,000円以下の飲食代については、会議費という名目の経費として、一部認められている。生衛業はこれを引き上げることも提案している。東京などの都心部においては、飲食代が5,000円を超えることはしょっちゅうで、なかなか接待としては使えないということもあるからだ。
実務の現場は何を考えるかといいますと、特に業務営業部署は、一人当たり5,000円以下の飲食代の交際費除外措置を活用して、会議費としての予算を活用するのです。ところが、一人当たり5,000円以下の制限になっているため、地域によっては十分な単価かもしれませんが、都市圏で5,000円以下の単価で接待を行う場合には、やや不足するという事情がしばしば起きてしまいます。
(中略)
都市圏では5,000円では足らないのです。飲食店を活性化させようる(原文ママ)ためには、5,000円では不十分であるということを考えるべきだと思います。
(厚生労働省「生活衛生関係営業活性化のための税制問題ワーキンググループ審議会議事録」より 2013/07/29)
しかし、交際費が経費として認められなかった背景には、増え続ける交際費を抑制してきたという歴史もある。また、銀座のクラブなどの一部のお店が儲かるだけで、地方の小さな飲食店には、お金が回らないのではないかという指摘もある。
そのため、交際費の上限を引き上げつつも、あまりに高額な場合には税金で歯止めをかけるというのが今回の「高額飲食税」案とみられる。
なお、この交際費を経費として認めるという考えは、公明党の主張でもある。山口那津男公明党代表は、2008年に自身のホームページにおいて、次のように述べている。
全国生活衛生同業組合中央会など関係16団体は、交際費課税の廃止を要請。廃止が困難な場合、損金算入限度額を大幅に引き上げるとともに、資本金額制限の撤廃を求めた。また、パートタイム労働者の所得税法上の非課税限度額を120万円(現行103万円)に引き上げることなどを要望した。公明党側からは「税制改正の中で、公明党が体を張って中小企業や業界を守っていく」と決意を述べた。
(山口なつお オフィシャルサイト「各種団体から要望を聞く〜来年度予算・税制で産業振興へ〜」より 2008/11/19)
■野党の怒りは何が理由?
このように「高額飲食税」の構想は、「交際費の非課税化をどこまで進めるか?」という自公両党による駆け引きの副産物だとも言えそうだ。しかし、高額飲食税については、中小企業対策であるということを知ってか知らずか、怒っている元国会議員もいるようだ。
「高額飲食税」の導入についてあなたはどう考えますか?ご意見をお寄せください。