国際原子力機関(IAEA)の除染チームが、日本政府の要請に応じて10月14日に来日する。福島第一原発の事故に伴う除染の実施状況を点検するためで、16〜18日には福島県で現地調査を行い、21日にレポートが提出される予定だ。
IAEA除染チームの来日は、2011年10月に続き2度め。前回の来日の際には、12点の助言を含む報告書が、日本政府に提出されている。報告書には、過剰な除染は効果的ではない点や、農地の除染が慎重すぎる点、森林などの除染を行うよりは他の部分に取り組むほうが効果的などのアドバイスが含まれていた。
最初の視察から2年。除染の現状には、解決しなくてはならない課題が山積みの状態だ。
【除染・関連記事】
■政府の除染計画に遅れ
政府は2011年11月、除染に関する考えをとりまとめた。年間被ばく線量が20ミリシーベルト以上の地域については、除染で迅速に縮小させることを目指すとし、20ミリシーベルト未満の地域では、長期的に年間1ミリシーベルト(毎時0.23マイクロシーベルト)以下にするとした。
年間20ミリシーベルト以上の地域や福島第一原発から半径20km圏内の地域は「除染特別地域」と指定され、国が主体となって除染を行うとされた。また、年間1ミリシーベルト〜20ミリシーベルト以下の地域は「除染実施区域」に指定され、市町村が除染を進めることになった。
除染実施区域では、長期的には年間被ばく線量が1ミリシーベルト以下になることを目指すとしているが、具体的な目標としては、2013年8月末までに、2年前と比べて半分にすることを目指すという記述に留まっている。当然住民からの反発も強く、除染で年間1ミリシーベルト以下にしてほしいとの希望が出ている。
また、現時点で除染が完了したとされるのは、除染特別地域では福島県田村市の1市のみで、除染実施区域も4市町村にとどまる。当初は2013年度中に完了するとしていた除染特別地域の除染計画だが、環境省は9月10日に、除染計画を2014年度まで延長すると発表している。
■除染にかかる費用の増大
直ちにすべての地域において、年間被ばく線量を1ミリシーベルト以下にすることが望ましいが、現在の除染技術や費用の面を考えると難しい。各自治体では、除染にかかる費用を抑えるために、工夫をこらしている。福島県の伊達市では、空間放射線量に応じて市内をA、B、Cの3つのエリアに分け、除染の作業内容を変えて対応した。
年間積算放射線量が10~20ミリシーベルトになると推計され、真っ先に除染したAエリア(2555世帯)は約150億円を投じた。Bエリア(3496世帯)は年間5ミリシーベルト以上の地域で、約90億円。局所的な除染を進めているCエリア(約1万5000世帯)は約10億円で足りると見込んでいる。
仮に、比較的線量の低いCエリアをAエリアと同じように面的な除染をした場合、約880億円もかかる。線量の高い低いにかかわらずに一律の手法で除染している他の市町村に比べれば、単純に870億円が浮く計算だ。
(福島民報「第四部 岐路に立つ除染(5) 1ミリの呪縛 現実的な目標再設定を」より。 2013/09/19 11:19)
ところが、この取り組みを始めた当初は、住民からのクレームが相次いだという。
「ニュースでやってるように高圧水洗浄機で屋根や壁を洗ってほしい」
「あそこは表土を5センチ剥いだが、ここは3センチだけか。どこの家も同じように除染してもらわないと」
(福島民報「第四部 岐路に立つ除染(3) 1ミリの呪縛 理想と現実にもがく」より。 2013/09/17 11:18)
■除染費用の負担を渋る東京電力
除染費用の負担については、除染特別措置法において東電が全額負担するとなっていた。しかし、東電側は支払いを渋っている。
政府は昨年11月から計404億円を東電に請求したが、支払い済みは67億円。法律で決まっている東電の負担範囲があいまいで東電が支払いを渋っている面がある。広瀬直己社長は「東電1社ですべてを負担するのは相当無理がある」とし、国に肩代わりを求めたい考えをにじませる。
(朝日新聞デジタル「除染終了時期、示せず 福島7市町村で作業延長」より。 2013/09/11)
除染の費用負担に関しては、自民党からは国が一部を負担すべきとの検討が行われている。
自民党は8日、東京電力福島第1原発事故の除染費用の一部を国が負担し、廃棄物の処理方法を含めて除染計画を見直すよう求める提言案をまとめた。東電が全額負担するとした特別措置法を改正して国の関与を強めることで、遅れている除染作業を加速させる必要があると判断した。
(47ニュース「自民、国の除染費用負担を提言 復興加速へ新特措法も」より。 2013/10/08 19:56)
除染費用を国民の税金でまかなうことについては、批判もある。東電に資金を提供し続けてきた金融機関に責任はな無いのかとする意見も出ている。
臨時国会で徹底議論すべき。国費投入なら、当然すべき議論だ。それは、東電に資金提供し続けている金融機関の責任と株主として配当を受けてきた株主責任だ。これが放置されたままになっている。国会議員からも提案のある『東電の破たん処理』を真剣に検討すべきだ。
(EconomicNews「除染も国費 それでも破たん処理せず」より。 2013/10/12 13:14)
■認められない再除染
また、除染しても放射線が下がらない場所の再除染についての問題もある。環境省は各地から出ている再除染の要望について、各地の除染が一通り終わってから判断するとしており、実質、再除染が認められないという状態になっている。なかには、自費で再除染を行う自治体も出てきているという。
福島県外には国の対応を待てず、自費で再除染をする自治体もある。千葉県松戸市は環境省から「費用は1回分しか出ない」と言われ、28カ所の公園を独自に再除染した。茨城県日立市も1億円超を投じて局所的な再除染を予定するが、環境省は支出を拒んでいる。
(朝日新聞デジタル「費用・期間「いつかは見直し必要」 除染、透ける本音」より。 2013/06/16)
除染の遅れや、増え続ける費用。現在の除染の取組は、IAEAにはどのように映るのか。民主党から自民党政権に変わって、進展は見られたとされるのか。最終日に発表されるレポートの内容に注目したい。
国や自治体の除染への取り組みについてあなたはどう考えますか。ご意見をお寄せください。