BBC、ブルームバーグ、佐々木俊尚氏、ハフィントンポストが語る これからの国際ニュースメディアの役割

社会のデジタル化やソーシャルメディア(SNS)の台頭をふまえ、「これからの国際ニュースメディアの役割」をテーマにBBCワールド ジャパンによる「BBC Advertising Forum」が10月8日、開催された。
The Huffington Post

社会のデジタル化やソーシャルメディア(SNS)の台頭をふまえ、「これからの国際ニュースメディアの役割」をテーマにBBCワールド ジャパンによる「BBC Advertising Forum」が10月8日、開催された。登壇者は、来日したBBCグローバルニュースのCEOジム・イーガン氏、ブルームバーグニュースのアジア太平洋を担当するコラムニスト、ウィリアム・ペセック氏、作家・ジャーナリストの佐々木俊尚氏、ハフィントンポスト日本版の松浦茂樹編集長の4人。モデレーターは、BBCニュースレポーターの大井真理子が務めた。激変する国際ニュースメディアのあり方について交わされたディスカッションをリポートする。

■社会のデジタル化による従来メディアの変化

最初に、佐々木氏が「近年、TwitterやFacebookなどのSNSの進化によって、以前は閉鎖的だった取材プロセスのオープン化が進んだ」ことに触れた。インターネットやSNSといったテクノロジーによって、取材プロセスが可視化されるようになり、その基盤に従来のジャーナリズムは飲み込まれるようになってきたという。

ブルームバーグのペセック氏は、インターネットの台頭により、どんな国の地方の小さなコミュニティ誌も世界中で読むことができるようになった例を挙げて、「EメールやFAXがなかった時代から、世界中がつながることができたようになった意義は大きい」と話した。

■インターネットメディアがもたらした議論の場

また、SNSやインターネットメディアの台頭により、一方的にニュースを伝えるだけだったユーザーとの関係が、双方向の関係に変わってきたことに注目。

ハフィントンポストの松浦編集長によれば、「インターネットメディアのハフィントンポストでは、ユーザーにニュース記事を提供するだけでなく、ユーザー同士が意見を交わす議論の場を提供している」という。アメリカでは1記事に対して万単位のコメントが寄せられることもあるという。

ソーシャルネットワーク上のコメントは、ネガティブなものが多くなりがちだが、松浦編集長は「ハフィントンポストでは投稿されたすべてのコメントを事前に確認し、建設的でないコメントや、誹謗、抽象は掲載しないようにしている」と語る。ニュースサイトとして、記事と議論の場とセットで提供する「空間編集」をしているという。

■ソーシャルネットワークの匿名性が持つ社会的な意義

ペセック氏も「95%はネガティブ」というほど、ネガティブな発言が多いソーシャルネットワークの匿名性。一方で「匿名性がプラスに働くこともある」とBBCのイーガン氏は語る。

イーガン氏は「ここ数年で革命が起こった、チュニジアやバーレン、アジアのミャンマーは、匿名による民衆の声が革命の原動力となった。匿名性が、重要な役割を果たすこともある―—社会の発展度合いによって、匿名性の意義は変わってくる」と述べた。

Twitterなどを通じて個人で情報を発信している佐々木氏は、ネガティブなコメントに対しては「ヘイトには、ヘイトでこたえないこと」とポイントを語った。

佐々木氏は、「すごくネガティブな声に動揺すると、罵詈雑言で返してしまいがちだが、そのやりとりを多くのサイレントマジョリティが見ている。実際に声を上げている人ではなく、黙って見守っている人たちに向けて意見を発信するようにすることで、サイレントマジョリティの理解を得ることができ、極端にネガティブな発言をする人も減ってきた」という。

■ユーザー生成コンテンツ(UGC)との連動

すべての人がポケットにビデオカメラを持つようになった時代。カメラクルーが到着する前に、ユーザーが直接、現場を撮影することができるようになり、速報において一般市民が担う役割は増した。

ただユーザー生成コンテンツ(以下、UGC)は、時として「やらせ」である可能性を否定できない。このUGCを、ニュースメディアはどのように捉えていくべきか。これに対して、BBCのイーガン氏は「UGCは、通常の編集コンテンツと同じ基準で判断している」と答えた。

その事例として、3ヶ月前に、シリアでひとりの男性が生き埋めになったという動画がインターネット上に流れた例を挙げた。他のニュースメディアで報道された映像だったがBBCのアラビア語のスタッフとともに確認したところ「劇的すぎる」「背景の声がシーンに合っていない」などの疑問点がいくつかあり「作られたもの(やらせ)」の可能性があると判断したという。 

ハフィントンポストの松浦編集長は、「先月に日本各地で台風の被害があった際も、UGCを一次情報に使った。その際は、Twitterを通じてユーザーに連絡している」と話す。ユーザーからのボトムアップの情報は大切なので、ユーザーに近いメディアとして日頃からコミュニケーションをとっていくことが大切だと話した。

■今後、国際ニュースメディアが担う役割

佐々木氏は、「シリアの報道のように、権力に対するメディアの調査報道の必要性は変わらない。ただ、以前と比べてBBCが撮らなければならない報道は変わっていくだろう」と語った。

2年半前の東日本大震災の際は、津波や震災の様子を撮影したUGCがYoutubeにアップされ、SNSで拡散されて多くのユーザーに視聴された。

「YoutubeやSNS、新聞やテレビなどのメディアは、モジュール化され組み合わさっていくだろう。ニュースメディアは、視聴者から上がった情報をオーソライズして、発信していく報道が望まれている」と佐々木氏は話す。

もし間違った情報が発信されたとしても、SNSは拡散を止めることができない。ニュースメディアは、その情報がデマであると発信する役割がある。ユーザーから寄せられた一次情報の有用性を認めた上で、正確な情報を伝えていく姿勢が求められるだろう。

イーガン氏は、「SNSは、従来のメディアの中核的な役割を変えているわけではない」とし、速報、調査報道ともに正確な情報を伝えていく国際ニュースメディアの本来の役割と、これからのあり方を総括した。

※これからのニュース報道のあり方について、どう思いますか? 今後、ユーザー生成コンテンツの役割は増していくと思いますか? あなたの意見をお聞かせください。

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