政府は雇用の流動化を促す「特区」の設立について検討を進めている。この特区においては、労働者に一定の金額の報酬を支払えば、労働時間の縛りを無くしたり、企業の判断で従業員を解雇しやすくするとされる。
安倍首相は9月20日に開かれた産業競争力会議の課題別会合において、10月から開かれる臨時国会で提出する特区関連法案の中に、具体的な規制改革成果を盛り込みたいと述べた。「雇用の流動化を促す特区」とはどのようなものか。
安倍首相は成長戦略の一環として、「世界で一番ビジネスのしやすい環境」を作ろうと「国家戦略特区」の創設を位置づけた。国家戦略特区とは、地域を区切ったなかで税制の優遇措置や大胆な規制緩和を行うというもので、広く自治体や民間企業からも特区の案を募集している。
これを受け、大阪府と大阪市は9月11日、共同で「チャレンジ特区」を提案。一定額以上の年収のある人を対象に、法律でしばりのある労働時間の上限規制(1日8時間、週40時間)をなくしたり、解雇を回避するための努力を行った後でしか解雇できないとしてきた規定を除外するなどが盛り込まれた。
これらの募集案などを元に、政府は、国家戦略特区ワーキンググループなどで項目を絞り込み、10月中旬に特区地域を指定。秋の臨時国会で提出予定の特区関連法案に盛り込む予定だ。
現在、国家戦略特区ワーキンググループで検討されているのは、特区内の事業所の中で、外国人比率の高いところや、開業5年以内などの事業所を対象に、解雇の要件・手続きを契約条項で明確化したり、休日や深夜労働の労働条件の緩和に関するの内容だ。
これに対して厚生労働省は「そもそも、雇用は特区になじまない。労働者の公平、企業の公正競争に関わるので、全国一律でなければならない」「労働者に対し、無期転換権(期限を決めずに雇用される権利)を放棄するよう、使用者が強要する可能性があるため、不可」などの見解を出していた。
朝日新聞デジタルも雇用規制緩和について、次のように指摘する。
今の解雇ルールでは、やむをえない事情がなければ、経営者は従業員を解雇できない。特区ではこれを改め、働き手と企業との契約を優先させる。例えば、「遅刻をすれば解雇」といった条件で契約し、実際に遅刻をすると解雇できる。立場の弱い働き手が、不利な条件を受け入れ、解雇されやすくなりかねない。
(朝日新聞デジタル「「解雇しやすい特区」検討 秋の臨時国会に法案提出へ」より。2013/9/20/ 22:49)
しかし、国家戦略特区ワーキンググループでは、「『特区になじまない』といったら、およそ特区は成立しない」「不当労働行為や契約強要・不履行などに対する監視機能強化を特区内で行うなら、検討可能」等の見解を示している。
大阪府の松井一郎知事も、大阪府・市が提出した「チャレンジ特区」について、「低所得のかたは対象外」などと、高度人材のための制度であることを強調している。
しかし、松井知事は「これまで高収入だった人が対象というわけではなくて新たにチャレンジ特区の企業に就職した人が対象」と話していたが、国家戦略特区ワーキンググループで検討されている案には、「開業5年以内」の事業所が対象とされるなど、まだどのような人が対象になるかは具体的になっていない。
ワーキンググループの検討材料の中で「一定の要件(年収など)を満たす労働者」が対象になると書かれている項目は「労働時間」に関する内容であり、解雇期間についての箇所ではないため、解雇条件について年齢制限がどのように設けられるかは、今後注意する必要があるだろう。
なお、大阪府・市のチャレンジ特区について、ハフポスト日本版で紹介したところ次のような意見が出ている。
高度人材の解雇規制緩和には賛成です。
企業の成長、日本の発展に必要なのは「有能な人材が適材適所で活用される」ことですが、現状は「有能な人材が大企業に集中し、有能でなくてもできる仕事を淡々とやっている」という状態ではないでしょうか。
解雇規制緩和は、企業が高度人材を雇用するリスクを下げ、人材を流動化させるのに有効でしょう。
労働時間規制適用除外については「労働基準法第41条(労働時間規制の適用除外)に追加」と書かれているだけで内容が見えません。「所轄労働基準監督署長の許可」を省略したいだけなのか、勤務体系を自由にしたいのか、長時間労働できるようにしたいのか...
もし、長時間労働を望んでいるなら反対です。
今以上の長時間労働をした上で、仕事の効率的を上げることは難しいと思うからです。
また、特区として実施するのは有効だと思います。
もし混乱が発生しても大阪だけに留めることができるからです。
あと、追加で必要なのは「起業支援」ではないでしょうか。
「有能な人材が大企業に集中し、有能でなくてもできる仕事を淡々とやっている」という状態ではなくて、有能な人材にはどんどん起業してもらい、イノベーションを創出すべきと思います。
私個人の人生経験だが。
実力主義を主張する人間は、中小企業に勤めていたり、所得の少ない人が多い。
逆に、実力のある人や、大企業に勤めている人は労働者保護の立場を取っている人が多い。
逆説現象だ。
おそらく心理的なものだろう。
結局、
能力主義特区には能力の無い人が集まるのではないだろうか。
むしろ、
労働者保護を強化した方が、
世界から多くの優秀な人材が集まるのではないだろうか。
日本の経済の停滞は多くの場合「優れた人材」がいるかいないか、と言う問題ではありません。もともと「優れた人材」はそれぞれが専門家として多様な能力に秀でたものを持っており、それぞれのフィールドで特別に他の人より高い能力を示します。
しかし、日本の役所や企業の組織がそういう、「ときには外れ者になる人達」を持て余している場合も、多くあるように思います。経営者が自分の能力以上のものを持っている人間を使い切れず、適当に遊ばせている、という例もよく見ます。
組織として、その人を活かす場が提供できないのです。結果として今の日本は「適当にできる人間」を望んでいることが多いのではないかと思います。他人をさしおいた特別な力のある「専門家」は、経営者や組織さえ脅かしかねない、という危惧を組織の長が持つからです。
つまり、日本という国を特に経済で活性化させるのは、ちゃんと能力のある人間を使いきれるほどの組織にすること。組織の作り直しによるほかないのではないでしょうか?であれば、この「能力主義経済特区」は、そういうエキスパートを100%以上活かせるあらたな組織が集う場所として作られるのであれば、それなりの効果を上げられるのではないでしょうか?日本の将来のためにも、本格的に取り組んでいただければと思います。
また、一連の報道に対してインターネットでは、次のような意見が出ている。
雇用の流動化を促す特区について、あなたはどう考えますか。引き続き、ご意見をお寄せ下さい。
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