安倍首相の私的諮問機関「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会(安保法制懇)」が9月17日に再開される。2月の開合に続き、7カ月ぶり2回目となる。
注目される議論は、「集団的自衛権の行使を憲法解釈の変更によって変更できるか」という点と「集団安全保障まで広げての解釈が行われるか」という点だ。
安倍首相は、憲法を改正するのではなく、憲法解釈の変更によって集団的自衛権の行使を可能としたい考えで、今後積極的に議論を進める意向を示している。安保法制懇での報告書は、年内にも取りまとめられる見通しだ。
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安倍首相は第1次安倍内閣のときにも「安保法制懇」を設置し、日本の集団的自衛権の問題と憲法の関係整理および研究を行っている。安倍首相の辞任によってそのままとなってしまったが、「集団的自衛権の行使の必要は認められるべきであるが、政府の憲法解釈では認められないため、憲法解釈の変更を含めた法制の必要がある」との報告書がまとめられていた。
今回再開された安保法制懇の座長代理で、「安全保障と防衛力に関する懇談会」の座長も務める北岡伸一国際大学長は、現行憲法でも集団的自衛権の行使が許容されるとの立場を取っている。安保法制懇がまとめる報告書では、集団的自衛権の行使に加え、国連安全保障理事会決議に基づく多国籍軍や国連軍への自衛隊の参加も可能とするような「集団安全保障」についても、新たな憲法解釈を提言するとみられている。
自民党の石破茂幹事長は、集団的自衛権に関しては新しい法整備が必要と話している。首相が変わるたびに政府の憲法解釈が変わってはならず、法律で原理原則を決めなければいけないという理由だ。ただし、集団的自衛権の行使については、「実際の行使には国会の事前承認が必要」との考えを示している。
安倍首相は法制についても準備万端だ。「ここの審査をパスしなければ内閣(政府)は一本の法案も国会に提出できない」という内閣法制局の長官人事で、かねてから集団的自衛権の行使に前向きな発言を繰り返してきた小松一郎氏を充てている。
■集団的自衛権には憲法改正が必要とする意見
しかし、憲法解釈の変更については、反対する意見もある。
公明党の佐藤茂樹政調会長代理は、個人的な意見としながらも、「憲法改正という手続きを経て、国民に問わないといけない。それが王道だ」と述べている。
また、公明党の山口那津男代表も15日に出演したテレビ番組において、「(憲法解釈を)なぜ変えるのかきちんと国民に説明して理解を求める必要がある。その中身がよく分からない状況なので、ある程度時間がかかる」と話し、年内に自民党との実質協議を始めるのは困難との認識を示した。
民主党で憲法総合調査会長を務める枝野幸男元官房長官も「都合のよいように憲法解釈を変えては憲法の意味がない」と述べ、憲法解釈の変更によって集団的自衛権を認めることは許されないという考えを示している。
日本維新の会の橋下徹共同代表(大阪市長)も10日、市役所で記者団に対し、「憲法解釈で認めることは可能だ。今の国際情勢をみれば認めなければならない。ただ、憲法の明文ではっきりさせたほうがいい」と述べている。
■集団的自衛権が認められれば、抑止力になるという考え方
坂元一哉・大阪大教授は、集団的自衛権が認められれば日米同盟の強化につながり、抑止力が強大になると述べている。「実際に戦わなくてすむよう、同盟の相互協力をさらに強化する必要がある」と話す背景には、次のような考えがあるからだ。
中国が挑発を強めれば、偶発的な軍事衝突の可能性が高まる。日本は万一に備え、海上保安庁と自衛隊による尖閣諸島の管理および防衛能力を強化しなければならない。
ただ、いったん軍事衝突が起これば、たとえ小さなものでも、日中関係に取り返しのつかない打撃になる。だから、海上保安庁、自衛隊の能力強化と同時に、日米同盟を強化して抑止力の向上をはかり、そうした衝突の発生を確実に押さえ込むことが何よりも大切だろう。
(「大阪大教授・坂元一哉 日米同盟の目的 再確認」より。 2013/01/12 03:08)
■集団的自衛権に米国は冷淡?
一方、集団的自衛権の行使を認めると、アジア諸国との関係が悪化するとの見方もある。米国は日本とアジア諸国との関係悪化を望んでいないと指摘するのは、日本共産党の小池晃氏だ。
「これまでアメリカは集団的自衛権の行使を日本に求めてきましたが、アジア諸国との関係悪化はアメリカも望んでいないでしょう。世界ではいま、戦争ではなく平和的・外交的努力で問題を解決することが大きな流れとなりつつあります。」
(SankeiBiz『【Dr.小池の日本を治す!】「集団的自衛権の行使」の問題点』より。 2013/08/22 05:00)
民主党の「次の内閣」外相の山口壮氏も、アメリカが懸念する内容について「排外主義的な傾向を持つ日本に集団的自衛権の行使を認めて大丈夫かと懸念している。中東戦争と同様に、日中戦争に巻き込まれるのではないかと」と述べている。
実際、ワシントンで10日、公明党の山口那津男代表と会談したアメリカのリッパート国防長官首席補佐官は、「韓国との関係改善はぜひやってもらいたい」と注文している。
■集団安全保障への参加がどう扱われるのか
「行使容認は中国の猜疑(さいぎ)心を招きかねない。もはや米国にとって集団的自衛権は無意味で、日本の動きに冷淡な態度を示さざるを得ないだろう」と話すのは、軍事ジャーナリストの田岡俊次氏だ。田岡氏は、歴代内閣が集団的自衛権の行使を認めてこなかった憲法解釈について、米国から海外派遣を迫られた時に逃げる理屈としても都合が良いからと指摘している。
「憲法にも国連憲章にも、武力による威嚇または武力の行使は国際紛争を解決する手段としては放棄する、とある。米国に『あなたのやっていることは国際紛争を解決するための手段だから加われません』とストレートに断れば角が立つが、集団的自衛権が認められていないから、といえば圧力をそらせる。」
(朝日新聞デジタル「(問う 集団的自衛権)タカ派の平和ぼけ、危険 軍事ジャーナリスト・田岡俊次氏」より。 2013/09/14)
一方、自衛のためではなく、PKOなどの「集団安全保障への参加」を議論することは画期的だと、生活の党の中村哲治氏は指摘する。ところが生活の党の首長は、安倍首相の掲げる内容とは違うという。
中村氏は小沢一郎氏が「国連決議があれば日本は憲法改正を経ずして国連の平和維持活動には参加すべきだ」という立場を採ってきた点を挙げ、国連決議のなかった2003年イラク戦争への自衛隊の派遣を違憲と指摘する。
安倍政権は、イラク戦争への自衛隊の派遣を正当化し、かつ、それに加えてアメリカの世界戦略に全面的に協力できるように、制限なく集団的自衛権の行使を可能にする立場を採ると見るのが妥当でしょう。
(中村哲治氏ブログ「内閣法制局長官人事に見る安倍政権のしたたかさ」より。 2013/08/08)
現在内戦が起こっているシリアについて、安倍首相は、「米国はじめ国際社会と連携を取りながら分析、検討していく。しっかりと少しでも(状況が)改善していくよう対応したい」と述べるにとどめている。
日本としては、国際世論にどういう根拠で発言しているのか。「集団的自衛権が認められてないから」という理由であるならば、世界から不誠実であるとみられてもしかたがないのではないか。