ゴールドマン・サックス証券、馬場直彦氏「消費税増税を決断できなければ海外投資家は失望」【争点:アベノミクス】

ゴールドマン・サックス証券、日本経済担当チーフ・エコノミストの馬場直彦氏は、安倍晋三政権が、消費税増税を決断できなければ海外投資家は失望すると指摘する…
Naohiko Baba, chief economist at Goldman Sachs Japan Co., speaks at the Bloomberg Link Japan Conference in Tokyo, Japan, on Wednesday, Oct. 19, 2011. The Bloomberg Link Japan Conference brings together government officials, policymakers, finance executives, business leaders and Japan watchers to examine the full impact of Japan's triple disaster and the country's way forward. Photographer: Kiyoshi Ota/Bloomberg via Getty Images
Naohiko Baba, chief economist at Goldman Sachs Japan Co., speaks at the Bloomberg Link Japan Conference in Tokyo, Japan, on Wednesday, Oct. 19, 2011. The Bloomberg Link Japan Conference brings together government officials, policymakers, finance executives, business leaders and Japan watchers to examine the full impact of Japan's triple disaster and the country's way forward. Photographer: Kiyoshi Ota/Bloomberg via Getty Images
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ゴールドマン・サックス証券、日本経済担当チーフ・エコノミストの馬場直彦氏は、安倍晋三政権が、消費税増税を決断できなければ海外投資家は失望すると指摘する。

特にロングタームで資金を運用する海外の長期投資家にとって日本の財政問題は大きなテールリスクだという。効果的に補正予算などを編成すれば景気の腰折れは防げるとの見方を示している。

21日午前にロイターの取材に応じた。

──QE3縮小への懸念からマーケットが揺らいでいる。世界経済の見通しは。

「米経済は7─9月期から立ち直ってくるだろう。住宅バブルの後遺症が治り、債務負担が軽くなっているほか、今後、財政の下押し圧力が軽減されてくる。消費が立ち直る素地が出来上がっている」

「新興国は経常赤字など構造問題を抱える国も多く一概には言えないが、アジア全体でみれば、1997─98年の通貨危機を経て外貨準備などを厚く持つようになっており、再び大きな危機が到来するとはみていない」

──実際にQE3縮小が決定された場合の影響は。

「9月のFOMCで決定されるというのが標準シナリオだ。短期的にはマーケットのかく乱要因になるが、金融政策の過渡期であり、多少の混乱は起きたとしても、QE3縮小と次期FRB議長が決まれば落ち着くのではないか」

──とはいえ、世界経済は不安定。この時点で消費税増税を決定すべきか。

「やるべきだろう。安倍政権は社会保障費を大きく減らす方針ではないようだ。かつ2020年までにプライマリー・バランスの改善を公約している。とすれば消費税増税で手当てするしかない」

──増税断行で景気腰折れの可能性もある。

「一番怖いのは駆け込み需要の反動だが、補正予算を効率的に実行することである程度は下支えられるだろう。赤字国債を発行しない5兆円程度であれば、増税との整合性もとれる」

──増税方法はどうすべきか。

「1年ずつ消費税を上げるのは、実は評判が良くない。安定政権と言っても選挙は3年後に来る。1年ずつ上げていくのでは2回ぐらいしかできないかもしれない。2%─3%の順番に変えても同じことだ」

──法人税減税には政府内でも否定的な意見が多い。

「いずれはやるべきだろう。国内企業にキャッシュがないわけではないので、設備投資が大きく増えるわけではない。ただ、安倍政権は外資を積極的に導入しようとしており、中国や韓国とイコール・フッティングにしないと現実的ではないということになってしまう。ただ、いまは財源がないので、将来的な課題だ」

──今後、必要な成長戦略は。

「設備投資を増加させたいと本気で思うなら、潜在成長率を上げなければならない。そのためには労働投入量を増やす必要がある。女性や移民などの活用が欠かせないほか、解雇基準といった労働市場改革にも取り組まなければならない」

「これまでは雇用調整を賃金カットで行ってきたためにデフレ圧力につながっていた。解雇制度の見直しはデフレ脱却の後押しにもなる。5年後には需要減少が予想されるような場合でも、柔軟な雇用制度であれば工場も建てやすい。短期的に失業が多くなったとしても旧産業から新産業へのスムーズな雇用の移行などを通じて日本経済にとって長期的にプラスだ」

──消費税増税を後押しするような日銀の追加緩和はあるか。

「消費税を増税するから追加緩和をするというロジックは難しい。CPIが日銀の想定ペースほど上がってこないような場合に追加緩和に動くということになろう。それが消費増税のタイミングと合致することはあるかもしれない。9月くらいまでは食品やエネルギーの価格上昇でCPIは高くなりそうだが、秋口以降はモメンタムが弱ってくる可能性があるため、来年の1─4月がカギになろう」

──追加緩和の方法は。

「あまり方策は残ってないが、一つの方法はリスク性資産を買い増すことだ。比較的買いやすいETF(上場投資信託)の枠を現在の3.5兆円程度から倍増するくらいはあるかもしれない。一方、JGB(日本国債)を買い増すのは悩ましい。政府の財政再建への意欲を失わせてしまいモラルハザードを起こす可能性があるためだ」

「フォワード・ガイダンスの立て直しもありうるだろう。一応、2年でインフレ率2%というのがそれに相当するが、達成できるか微妙で市場の信頼度はちょっと低い。2%のインフレ率が安定的に推移するのを見届けるまで緩和を続ける、と変えれば、長めの時間軸を定着させることができる」

──日銀の大量国債購入で流動性が低下した日本の国債市場はショックに弱くなってるのか。

「セカンダリー市場の取引量は減っているほか、日銀の大量オペに合わせて回っているだけで、マーケットとしての機能は低下している。ショックを吸収する厚みは減少しているといえる」

──ショック時に日銀がさらに買えば金利は上昇しないのか。

「ショックが起きて金利上昇圧力が強まり、市場が対応できない時に日銀がさらに買うということを繰り返せば、『出口』は遠くなる。これが際限なく続くと市場が感じれば、日銀総裁が何を言ってもマネタイゼーションと受け止められてしまうかもしれない」

「また日銀が大量にJGBを買って無理やり市場を落ち着かせたとしても、ヘッジファンドが株や円を対象に日本売りを仕掛けてくる可能性もある」

──安倍政権のこれからのリスクは。

「安倍首相が憲法改正や集団的自衛権の問題にのめり込みすぎるのは大きなリスクだ。TPPや構造改革、規制緩和などは厳しい交渉が求められるタフな仕事であり、憲法改正などに力を割きすぎると危険だ。海外勢は、参院選で圧勝し安定政権となった安倍政権が強いリーダーシップを確立したとみている。それが経済ではなく違う方向に向いてしまったら期待は失望に変わる」

「消費税増税をなかなか決められないのもリスクだ。欧州の消費税にあたる付加価値税(VAT)は20%程度。5%から8%に何故引き上げられないのかと失望してしまうだろう」

「日本株に投資する海外投資家にとって、日本の財政問題は大きなテールリスクだ。日本には日銀の大量購入や、民間の貯蓄が国債に回っているという特異な構造があるとしても、リスクはリスク。特に長期投資家にとっては、このままでは何年か後に破綻してしまうかもしれないという日本の財政は大きな関心事。消費税増税は短期的には日本株の下押し材料になるかもしれないが、これができなければ、海外勢には失望されてしまうだろう」

(伊賀 大記)

[東京 21日 ロイター]

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