インフレが進むと実質的に増税となる「インフレ課税」って何だ?
消費税増税を最終判断する時期が近付いてきたことで、増税の是非に関する議論が活発になってきている。安倍首相は本当に迷っているのか、ギリギリまで増税回避を検討したというアリバイ作りなのか、増税の影響について有識者から意見を聴取する方針を明らかにしている。
最終的な増税判断はともかくとして、仮に消費増税が実施されなくても、日銀の量的緩和が想定以上に効果を発揮し、インフレが加速するような事態になった場合、増税とまったく同じ状況になるという事実はあまり知られていないかもしれない。
財政の世界ではインフレ課税という言葉がある。インフレが進むとそれは実質的に増税したことと同じになるのである。それはどういうことだろうか?
日本政府は現在、1000兆円を超える借金を抱えている。日本政府は国債の購入者に対して1000兆円を返済する義務がある。
この状態でインフレが進んだと仮定しよう。インフレによって名目上の物価が3倍になったとすると、企業の売上げや給料も3倍になり、最終的には国の税収も3倍になる。だがそうなったとしても、借金の額に変化はなく1000兆円のままである。つまり現在の価値に換算すれば、実質的に借り入れが3分の1に減ってしまったことになるのだ。
ではなくなった約700兆円はどこに消えたのだろうか?それは国債を購入した投資家が損をしているのである。国債に100万円を投資した投資家が償還期限を迎えた段階で物価が3倍になっていれば、300万円が償還されないと割に合わない。だが借金の額は変わらず100万円のままだ。この投資家は200万円損し、政府は逆に200万円得した計算となる。つまりインフレになると、国債に投資した投資家から政府が税金を徴収したことと同じになるのである。このため、インフレで借金が帳消しになることをインフレ課税と呼ぶ。
日本はかつてインフレ課税を行ったことがある。終戦後のハイパーインフレである。太平洋戦争の戦費総額は、一般会計予算の70倍以上という無謀な金額だったが、ほとんどが日銀による国債の直接引き受けで調達された。戦争中からインフレは進み、敗戦後には準ハイパーインフレという形で爆発した。消費者物価は100倍近くになり生活は大混乱となったが、膨大な政府の借金は実質的に100分の1になった。日本政府は預金封鎖と財産税の課税を行い、お金をモノに交換できないようにして、紙幣を紙くずにしてしまった。国債の購入者や銀行預金者は資産をほぼすべて失ってしまったが、日本政府は破綻せずに済んだ。
インフレは適切な水準で進んでいるうちはよいが、制御不能になると大変な混乱をもたらす。だが多額の国債を抱えた政府にとっては、インフレは借金を国民に押しつけ、帳消しにするチャンスでもある。この事実は決して忘れてはならないだろう。
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