エジプト全土に非常事態宣言 モルシ派を強制排除、死者278人に

エジプト治安当局は8月14日朝(日本時間同日午後)、首都カイロでモルシ前大統領の支持派が続けていたデモの強制排除に踏み切った。7月3日の軍のクーデター以来、最悪の惨事となった。暫定政府は強制排除に着手後、全土に1か月間の「非常事態」を宣言した。エジプト保健省の発表では、同日だけで全土で278人が死亡、約2000人が負傷した。死者のうち43人は警官ら治安部隊側。

エジプト治安当局は8月14日朝(日本時間同日午後)、首都カイロでモルシ前大統領の支持派が続けていたデモの強制排除に踏み切った。7月3日の軍のクーデター以来、最悪の惨事となった。暫定政府は強制排除に着手後、全土に1か月間の「非常事態」を宣言した。朝日新聞デジタルが伝えた。

エジプト保健省の発表では、同日だけで全土で278人が死亡、約2000人が負傷した。死者のうち43人は警官ら治安部隊側と時事通信は伝えている。一方で、BBCによると、モルシ前大統領の支持母体であるムスリム同胞団側の発表では、死者が2000人以上に及んでいるとしている。

NHKによると、治安部隊は14日朝、事実上のクーデターで大統領職を解任されたモルシ氏の支持者が座り込みを続けていたカイロ市内の2つの広場に突入。治安部隊は、ブルドーザーなどでデモ隊を強制的に排除し、2つの広場を制圧したと発表したが、双方の衝突で30人以上が死亡した。また、この強制排除のあと、カイロ市内の別の地区や中部のファイユーム県などでも治安部隊とデモ隊が衝突したほか、政府機関などの襲撃が相次いだ。暫定政府は、混乱の収拾に向けて全土に非常事態宣言を出したのに続いて、14の県で夜間の外出禁止令も出したが、夜になっても各地で双方の衝突が続いている。

地元テレビの映像などによると、首都カイロ・ナセルシティ地区では、鉄条網や土嚢(どのう)でバリケードを築いた同胞団員らが、治安部隊に対し投石などで抵抗を続けた。同地区に先立ち制圧されたカイロ大学前の現場では、小銃を使用する座り込み参加者も確認された

地元報道によると、強制排除への着手後、カイロ南郊ヘルワンや中部ファイユームなど国内十数か所で警察署やキリスト教会が襲撃され、多数が死傷した。内務省は、同胞団指導部の指令によるものだと非難しており、暴力の連鎖と治安悪化につながると懸念されている

■取材中のジャーナリスト3名が銃撃を受けて死傷

首都カイロでは、取材に当たっていた英放送局スカイニュースの男性カメラマンが銃撃され死亡した。スカイニュースなどによると、死亡したのはミック・ディーンさん。同社のワシントン支局やエルサレム支局などで15年にわたり勤務したベテランカメラマンで、同僚のティム・マーシャルさんはディーンさんを「ライオンのように勇敢だった」とたたえた。

また、UAE・アラブ首長国連邦のドバイの新聞、ガルフニュースによると、エジプトに一時帰国していた女性記者、ハビーバ・アブドルアジーズさんが、強制排除が行われたカイロ東部の広場にいたところ、銃で撃たれて死亡

さらに、ロイター通信の女性カメラマン、アスマ・ワギーフさんが、治安部隊による強制排除を取材中に足に銃撃を受けて、病院で治療を受けている。

■暫定政府「国民の安全のため」正当性主張

暫定政府のベブラウィ首相は14日、国営テレビを通じて国民向けの演説を行った。この中でベブラウィ首相は、「抗議デモを解散させようという決断は決して簡単ではなかった。国としては、国民の安全のため介入せざるをえなかった」として、治安部隊による強制排除は正当な行為だったと主張した。そのうえで「夜間外出禁止令はできるだけ早く解除する」と述べ、事態の収拾に努め市民生活への影響を最小限に抑える姿勢を強調した。

暫定政府のエルバラダイ副大統領は、今回の強制排除が大規模な流血の事態となったことを受けて、辞表を提出した。「対話による解決が望ましい」という立場を表明し、暫定政府の中で強制排除に慎重な姿勢を示していたエルバラダイ副大統領は、辞表を提出した理由について「この行動には責任を持つことができない」としている。

暫定政府のベブラウィ首相、バハイッディン副首相が所属する社会民主党の指導者、モハメド・アボルガー氏は、エルバラダイ副大統領の辞任を受けて、「誰も辞任しない。確認する」と、これ以上の閣僚辞任はないと言明した

■アメリカ政府、国連が緊急の非難声明

アメリカ・ホワイトハウスのアーネスト副報道官は14日の記者会見で、エジプト当局によるモルシ前大統領支持派の強制排除で多数の死者が出ていることに対して「強く非難する」と表明した。また、同国大統領府が発令した非常事態宣言にも「強く反対する」とし、基本的人権を尊重するよう求めた。

副報道官は、「暴力はエジプトの安定と民主主義、国民和解への道を困難にするだけだ」と指摘。その上で「エジプト政府と全ての当事者が暴力を自制し、平和的に問題を解決するよう促す」と強調した。

国連のパン・ギムン事務総長は、14日、緊急の声明を発表し、暴力を強く非難。そのうえで「大半のエジプト国民は、デモ隊と治安部隊との衝突によって通常の生活ができなくなっており、事態が平和裏に解決され、民主的で豊かな社会が取り戻されることを望んでいる。暴力は何ももたらさず、エジプト国民は和解に向け全精力を注ぐべきだ」と述べ、平和的な事態の収拾を改めて呼びかけた。

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