『大豆(遺伝子組み換えでない)』という表示を見たことがあるだろうか。いま、この遺伝子組み換えでない大豆が、ピンチに陥っている。供給量が足りないのだ。
自給率が2割を切る大豆は輸入に頼っているが、輸入価格はこの10年で倍。さらにアメリカではすでに遺伝子組換え大豆が主流で、生産性の落ちる非遺伝子組み換え大豆を手に入れるのが難しくなっている。
円安の影響で、大豆の輸入価格が高騰している。十年前に一トン当たり約二万七千円だったが、世界的な需要の増加もあり、六月には平均五万六千五百円と近年で最高値を記録。さらに主要生産地の米国とカナダで、納豆や豆乳など大豆加工食品の原料となる非遺伝子組み換え(ノンGM)大豆を作付けする農家の生産意欲が低下しており、ノンGM大豆の入手が困難になりつつある。
(TOKYO Web「東京新聞:輸入大豆 高騰 円安直撃 不作などが追い打ち」より)
日本は遺伝子組み換え作物の輸入量が世界一。だがなぜ、非遺伝子組み換えの大豆が求められているのだろうか。
【遺伝子組み換え作物関連の記事】
■輸入大国一位だが国内生産はなし
遺伝子組み換え技術は、作物同士を掛け合わせていく品種改良とは異なり、虫に強い、など性質に関わる遺伝子のみを取り出して、組み込む点が特徴だ。
現在日本国内では、販売・流通が認められている作物は大豆、じゃがいも、なたね、とうもろこし、わた、てんさい、アルファルファ、パパイヤの8種類。病気に強い、害虫に強い、特定の除草剤で枯れない、といった性質を組み込んだものを認めている。安全性のチェックは厚生労働省が取り仕切っており、内閣府の食品安全委員会の調査を経て、お墨付きを与える形になっている。
厚生労働省はこうした認可プロセスを通して、消費者に安全性を訴えているが、遺伝子組み換え作物の国内生産はどうかというと、現在、生産実績はない状態だ。アメリカ、カナダといった遺伝子組み換え作物の先進国から、国内農業を守る立場の農林水産省も、プロジェクトを立ち上げて実験は行っているものの、非遺伝子組み換えの作物との交雑についての研究が中心で、大規模生産を前提としたものではない。
今、問題になっている大豆についても、「遺伝子組み換え大豆は取り扱わない」という基本方針に代わりはない。
全国農業協同組合連合会及び全国主食集荷協同組合連合会は、国内における遺伝子組換え大豆の生産・販売が消費者のニーズに反するだけでなく、国産大豆の流通に混乱を来すとの観点から、農家から販売委託を受ける大豆については遺伝子組換え大豆を除くこととしています。
(農林水産省「国産大豆と遺伝子組換え技術」より)
■遺伝子組み換え作物には発がん性がある?
遺伝子組み換え作物をめぐっては、反対派が健康被害などのリスクを訴え、国や企業の調査機関がそれを否定する、というサイクルがここ数年続いているが、遺伝子組み換え作物によって健康被害がもたらされた事例は、現在のところない。
安全性を危ぶむ意見の根拠となっているのが、2012年、フランスのカーン大学の研究チームが発表した、遺伝子組み換えトウモロコシをラットに与えて、発がん性があると結論付けた研究だ。
フランス政府はこの発表を受けて即座に調査に乗り出し、該当の品種の輸入停止に備えた。しかし、EU各国の公的機関が調査を進めた結果、実験方法がずさんであったことが発覚。さらに研究者と反バイオテクノロジーの団体との関係も示唆されるなど、研究そのものの信頼性がないことがわかった。
NK603は米国やEU、日本で安全性評価が行われ、「問題がない」として認可されている。それが発がん性あり、というのだから、本当であれば一大事だ。しかし、この研究は発表後、すぐさま多くの研究者から反論が上がった。実験がさまざまな条件を満たしておらず、信用に値しない、というのだ。科学者らが次々に実験の欠陥を明らかにして、最初は騒いだマスメディアも急にトーンダウン。最終的に、EUで食品の安全性についてリスク評価を行う「欧州食品安全機関」(EFSA)が11月、「実験設計と方法論の深刻な欠陥があり、許容できる研究水準に達していない。したがって、これまでのNK603のリスク評価を見直す必要はない」という見解を明らかにした。6つのEU加盟国も独自に評価して同じ結論に達した。フランス政府も結局、動かなかった。
(FOOCOM.NET「消費生活センターを、ゆがんだ情報提供の場にしないために」より)
この研究については、EUだけでなく日本の公的機関である食品安全委員会も、「安全性を再評価する必要なし」と信頼性を否定している。
遺伝子組み換え作物については、反対する勢力も多く、米国では関連する研究をまとめて、PDFで配布している団体もある。今後も安全性についての議論はまだまだ続きそうだ。
■TPPにも大きく影響
日本もTPPの交渉を開始したが、遺伝子組み換え作物の扱いもこの影響を大きく受けることは間違いない。特に焦点となっているのは、遺伝子組み換え作物かどうかの表示義務だ。輸出大国であるアメリカは、義務化を渋っていたが受け入れる方針だという。
TPPにおける遺伝子組み換え食品の表示義務化については、豪州やニュージーランドが賛成の立場を表明。米国は遺伝子組み換え食品の輸出大国として義務化には反対だったが、TPP交渉全体の進展を重視し妥協を受け入れた格好だ。
米国にとっては厳しい表示義務が導入されれば、消費者の抵抗感が残る遺伝子組み換え食品の売り上げ減につながる恐れがある。また、大豆やトウモロコシなど生産・流通段階から遺伝子組み換えとそうではない作物を細かく管理する必要があり、コスト増のデメリットも抱えることになる。
(MSN産経ニュース「TPP交渉、米が遺伝子組み換え表示を容認 「食の安全」への懸念払拭」より 2013/06/16)
※輸入大国でありながら、国内では忌避ムードのある遺伝子組み換え作物。TPPと大豆高騰でおおきな岐路を迎えていますが、みなさんのご意見をお聞かせください。