マウスの万能細胞「胚性幹細胞(ES細胞)」から、精子や卵子のもとの生殖細胞を生み出すのに必要な3種類の遺伝子を発見したと、京都大大学院医学研究科の斎藤通紀教授や院生中木文雄さんらが4日付の英科学誌ネイチャー電子版に発表した。時事通信が伝えた。
NHKによると、斎藤通紀教授の研究グループは、マウスの体内で精子が作られる際に活発に働く3つの遺伝子に注目し、あらゆる組織や臓器になるとされるマウスのES細胞にこれらの遺伝子を入れた。
その結果、およそ80%という高い確率で精子の元となる細胞ができ、この細胞をマウスの精巣に入れると、正常な精子が作られたという。
これは、人工多能性幹細胞(iPS細胞)でも実現可能とみられ、研究成果はヒトのiPS細胞を使って生殖細胞ができる仕組みを明らかにし、不妊症の原因を解明するのに役立つと期待される。
斎藤教授は「これまで謎だった生殖に関わる細胞が出来る過程を解き明かすきっかけとなる」と話している。
■ 用語
ES細胞
万能細胞の一種。さまざまな異なる細胞に分化し、増殖する能力を持つ、発生初期の胚由来の細胞。受精卵の一段階である胚盤胞から取り出した内部細胞塊から樹立される。再生医療に役立つとして研究されている。ES細胞の採取は受精卵を殺すことになるので倫理面の問題がある。胚性幹細胞。
(コトバンク「ES細胞」より)
iPS細胞
皮膚や血液などの細胞に特定の遺伝子を導入し、心臓や神経、肝臓などさまざまな細胞になれる能力を持たせた細胞。一定条件で培養すれば、無限に増やすことができる。再生医療のほか、病気の仕組みの解明、創薬研究など幅広い応用が期待されている。山中伸弥・京都大教授らが2006年にマウスで、07年にヒトの細胞で作製に成功し、山中氏は昨年、ノーベル医学生理学賞を共同受賞した。誘導多能性幹細胞。新型万能細胞。人工多能性幹細胞。
(コトバンク「iPS細胞」より)
ES細胞とiPS細胞の特徴
ES細胞は、受精卵からつくるので「生命の始まり」を壊すことへの抵抗がある。他人の細胞であるため移植時には拒絶反応の心配もある。一方、iPS細胞は、皮膚などの体細胞に遺伝子を入れてつくるので、自分の細胞ならば拒絶反応は抑えられるが、遺伝する病気を持つ人の場合、治療には使いにくい。がんを引き起こすウイルスを作製時に活用するので、安全性の課題も残っている。
(コトバンク「ES細胞とiPS細胞の特徴」より)