製薬大手ノバルティスの高血圧治療薬ディオバンをめぐる一連の論文不正事件で、京都府立医大に続き、東京慈恵会医大でもデータ操作などの不正が確認された。同大は30日に会見し、臨床研究の論文でノバルティスの元社員によりデータが人為的に操作されたとする調査結果を発表した。ディオバンをめぐっては、ほかに滋賀医大、千葉大、名古屋大を含め5大学が薬効を調べる臨床研究を行っており、いずれも同じ元社員が関与していた。
そもそもどんなデータを改ざんしたのか?正しいデータを使うとディオバンの効能は変わるのか。医療現場はただちにディオバンの使用をやめるのか?
朝日新聞デジタルが報道した慈恵医大の調査報告では、大学が保有していた671人分のデータと最終統計データを比べると、血圧値に86件(12.8%)の食い違いがあった。統計解析の段階で操作されたと考えられるが、解析は「大学の研究者は関与せず、元社員がすべて行った」という(朝日新聞デジタル「慈恵医大でも論文不正」より。2013/07/31)。
ディオバンは国内売り上げが年間1千億円を超えるノバルティスの看板商品で、同社はこうした論文を医師向けの説明文などに引用して宣伝に使ってきた。論文に社員の名前が掲載されていたが社員とは明記せず、肩書も非常勤講師だった「大阪市立大」と記載していた。朝日新聞デジタルの記事は、こうしたやり方を「利益相反の疑いがある」と指摘する(朝日新聞デジタル『製薬大手社員、臨床論文に不適切関与 研究の中立に問題』より。2013/05/23 05:02)。
どんな目的で操作したのか。朝日新聞デジタルの解説記事によれば、患者が薬を飲み始めて半年後、1年後の血圧値が操作されていた。実際には、ディオバンを飲んだ患者の平均血圧はそれ以外の薬を飲んだ患者よりも低かった。このままだと、脳卒中などが減った原因がディオバンの効果か、単に血圧が下がった効果かがわからないため、血圧値をほぼ同じに操作することで、ディオバンには病気を防ぐ効果があるということも主張しやすくなる。
一連の事件が、医療現場に与える影響は大きい。慈恵医大は、世界で最も権威ある医学誌の一つである英国のランセットに掲載された論文を撤回するという。論文は日本高血圧学会の高血圧治療ガイドラインにも引用され、医師への影響も大きい。ガイドラインが見直されると、どの薬を使うかなど、診療現場への影響があるのは必至だ(朝日新聞デジタル『製薬会社へ深まる不信 慈恵医大でも論文不正 大学側「元社員に責任」』より。2013/07/31)。
医療現場には、ディオバンの使用をとりやめる動きも出ている。東京都済生会中央病院は、病院としてディオバンの使用をやめるとするいっぽう、脳卒中や狭心症の血圧を下げる効果は認められるとホームページで明らかにした。
兵庫、大阪、東京で6病院を経営する伯鳳会グループも、「患者、病院、企業の関係を根底から覆すものだ」として、使用中止を決めた。実際には各病院で、患者の希望などに応じて別の薬に切り替えるか、使い続けるか判断しているという。
ただ、薬の安全性が否定されたわけではないので、中止を決めた病院も、自己判断で急に使用をやめたりせず、切り替えまでは使い続けるよう求めている。ノバルティスは29日、ホームページ上で「問題となっている臨床研究は、薬の承認後に実施されており、降圧剤としての有効性、安全性は確認されている」とするお詫びと見解を掲載した。