TPP 重要5品目はいかにして選ばれたのか

TPPで「聖域」と呼ばれる「農産物5品目」。何故この5品目が選ばれたのか?
A man working and planting inside of a rice field in Japan.
A man working and planting inside of a rice field in Japan.
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日本が初めて参加する環太平洋経済連携協定(TPP)の初会合がマレーシア随一のリゾート地、コタキナバルで開催中だ。交渉が本格化する前に、改めて「聖域」と呼ばれる「農産物5品目」についておさらいしておきたい。

5品目とは、コメ、麦、牛肉・豚肉、乳製品、サトウキビなど甘味資源作物のこと。政府試算では、TPP加盟で国内の農林水産業の生産額は3兆円も減るという。農家の暮らしを守るため、政府はこの5品目は関税撤廃の例外にする方針だ。そのかわり、消費者にはTPPに入るメリットが減ることになる(朝日新聞デジタル「(教えて!TPP)食、医療…暮らしに影響 牛肉や革靴は値下げか 基準緩和も」より。 2013/04/13)。

このうち、「コメ」は誰もが認める日本人の「主食」だが、ほかの4品目はどうだろう。たとえば、牛肉をみてみよう。朝日新聞デジタルの報道では、「和牛と言えば、サシ(脂分)が多くて高級品という印象だが、健康や価格を意識する人も増え、最近では弱点にもなっていた」として、サシが少ないホルスタインを肉用に育てている農家を紹介している。この農家は、消費者の嗜好の変化にあわせ、「低脂肪牛」として1年前に売り出した。だが、もし輸入牛にかかる関税がなくなると、サシが少ないオーストラリア牛が安く入ってくることになり、大打撃だ。たとえば、群馬県の赤城山麓には畜産・酪農家が約500戸。地域経済への影響を懸念している。

また、砂糖の原料となる甘味資源作物が作られているのは、テンサイなら北海道、サトウキビなら沖縄や鹿児島県の南西諸島だ。この地域の主要作物が安価な輸入品の流入で打撃を受ければ、地域経済は疲弊する。他国の領海と接する北と南の端で地域が疲弊することは、安全保障上も得策ではない。TPPをめぐる議論は、日本人の健康問題や経済の問題だけでなく、食糧の安全保障にもかかわってくる。

一方で、「王道」とされるコメについては政治家や政党間でも意見が分かれる。日本では1970年から減反政策がとられ、コメ農家の収入を確保するため、政府が毎年コメの価格が下がらないように生産量をしぼってきた。この政策が、安いコメをつくって輸出を増やしたり、麺や菓子など別の食品の原料として消費を増やしたりする農家の自助努力を妨げてきたと批判されているのだ。「日本のコメのブランド力は高いから国際競争にも打ち勝てる」という声もある。だが、農協は減反廃止に強く反対してきた。コメの価格が下がれば、農業をやめる人が増え、農協の組合員も減ってコメの販売手数料や肥料・農薬の販売も減ってしまうからだ。

さまざまな業界の思惑がうごめき、政治の世界で「TPP」はきわめてセンシティブな問題だ。石破茂・自民党幹事長は今年3月、5品目について「関税の税率を1%たりとも下げないという議論に直結するわけではないが、今の税率の維持が眼目だ」とも語っている。また、自民のTPP対策委員会は「聖域の確保を最優先し、できないと判断した場合は脱退も辞さない」と決議して安倍晋三首相に申し入れている。圧倒多数の与党となった自民党とはいえ、TPP推進派の首相周辺に対し、JAなど農業団体を票田に持つ地方選出議員たちは反対の急先鋒に立っており、党と政府の意向は大きく食い違っている。どこに落としどころを見つけるのか。攻防は始まったばかりだ。

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