減り続ける人口をどうするか。竹中平蔵氏の移民に関する提案が話題になっている。現代ビジネスに掲載された田原総一朗氏と竹中平蔵氏の対談記事のなかで、竹中氏が「本当に10年、20年のタームだと、移民を受け入れればいいんですよ。それで、普通はアメリカでもオーストラリアでも成長戦略を議論する場合には、必ず最初に移民の問題を議論するんです」と発言していることが発端になっている。
竹中氏は、「人口減社会で国が成長するなんてありえない」というアベノミクス反対派に対し、人口減社会でも成長できるとして、その方法の一つに、移民受け入れを挙げている。竹中氏は今回の安倍政権において、アベノミクスの成長戦略の実現方法を探る目的で設置された、政府の産業競争力会議に民間議員として参加し、規制改革などについて持論を展開していた。
移民政策については、竹中氏は5月29日に開かれた第10回の会合の中で、移民という言葉を使わずに、下記のように述べている。
「私は、経済成長に必要な人材確保のための人材交流について、官房長官の下で全省的に基本的な議論をする場を作っていただきたい、それが、日本の成長戦略に対する日本の本気度示す重要な指標になるということを何回か申し上げてきた。」
(「第10回産業競争力会議議事要旨」より2013/05/29)
竹中氏の発言は、高齢化社会になり十分な労働力が得られない状態では成長もできないから、労働力確保のために移民を受け入れるようなプランを議論してはどうかということを言っているようだ。
産業競争力会議では、竹中氏以外の議員も、外国人材の登用について「高度人材ポイント制」などについて、言及している方がいる。
(長谷川閑史議員)
(人材)ポイント制については、11 ヶ月で 430 人増ではあまりにも少ない。法務省はポイント制の設計そのものの担当ではあろうが、そもそも優秀な人材を海外から如何に集めるかということについて、積極的に推進する立場での担当部門・責任部門がクリアになっていない。そこを明確にした上で、具体的な KPI や工程表に落とし込んで担保していく必要がある。
(「第11回産業競争力会議議事要旨」より。2013/06/05)
(谷垣法務大臣)
人材力強化・雇用制度改革というテーマだが、我が国では、昨年5月7日から外国人高度人材の受入れを促進するため、外国人高度人材に対しポイント制を活用した出入国管理上の優遇措置を講ずる制度を導入したが、実施状況を踏まえ、関係省庁、経済界、労働界を交えて制度の見直し等について検討していくこととなっている。私的懇談会、出入国管理政策懇談会を設けて、労働界、経済界の代表にも参加して頂いて、外国人高度人材に対するポイント制の問題についても早急に議論を開始して頂くこととしている。
移民政策について検討を開始せよとの提言も頂いた。人口減少時代の到来に直面する今日、外国人の受入れの在り方については、我が国の産業、治安、労働市場への影響等国民生活全体に関する問題として、国民的な議論を踏まえながら多様な角度から、幅広く検討していく必要があると考えている。国民的な議論を活性化し、国全体としての方策を検討していく中で、出入国管理行政を所管する法務省においても、その方策の検討に積極的に参加していく。条件付き単純労働者としての外国人の受入れについても、従前より、我が国の産業・労働市場への影響等を勘案し、国民的議論を踏まえて政府全体で検討する必要があるとされてきており、この検討に積極的に参加していく。その結果,そのさらに受入れ範囲を拡大するという場合には,適切に対応していく。
(「第4回産業競争力会議議事要旨」より。2013/03/15)
人材ポイント制度は2012年5月に導入された制度で、学歴、職歴、年収などを項目ごとにポイントで評価し、一定の水準を満たした人に対して、優遇措置を行うもの。優遇措置の中には、出入国管理上の優遇措置を講じたり、永住権に必要な在留期間を短縮したりというものがあるが、成長戦略では、永住権が許可されるための在留歴を5年から3年にするなど、優遇制度の見直しを行うとしている。
なお、「高度人材ポイント制」は英語では「points-based preferential immigration treatment for highly skilled foreign professionals」と、「 immigration(移民)」という言葉を使って訳されている。英語表記では当たり前のように「移民」という言葉を使用しているのに、日本国内向けには移民という言葉を使わない。
この「移民政策」内容について、ウォール・ストリート・ジャーナルでコラム「ビジネス・アジア」の編集を行なっているジョセフ・スターンバーグ氏は、安倍首相の日本経済再生プログラムで象徴的な改革を1つ挙げるとするならば、移民政策だとするコラムを寄せている。スタインバーグ氏は、ソフトバンク創業者の孫正義氏の家族のことを例に上げながら、移民を受け入れなければならないとしている。また、女性の労働参加についても、下記のように書いている。
移民政策研究所の坂中英徳所長によると、日本が人口の自然減を相殺するためには、2050年までに1000万人もの移民が必要だという。安倍首相が掲げる他の目標の多くも、最終的には移民にかかっている。たとえば安倍首相の計画は、母親の仕事復帰を促すために開設される数千もの託児所で働き手が確保できるのかという疑問に答えていない。その最も妥当な解決策は移民であろう。
(ウォール・ストリート・ジャーナル「【オピニオン】アベノミクスに欠けている矢―移民政策」より。 2013/06/27 17:06)
ウォール・ストリート・ジャーナルの他、ブルームバーグが「日本人以外の外国人をもっと雇うべきだ」とする記事を、またシンガポール最大の新聞 THE STRAITS TIMESも、移民政策の改革が必要とする記事を掲載している。それぞれが、日本の回復には移民政策が必要だとする論調である。
移民を受け入れている海外の国々は、どのような状況になっているのだろうか。
ロイターによると、オーストラリアの毎年約25万人に上る移民の受け入れが、他国を凌ぐ経済成長の要因の一つであると報じている。また、アメリカでは、不法移民へ市民権を付与することで、年間20億ドルの税収増につながる可能性があるとの調査も報じられている。
しかし、移民の流入によって、国内の雇用が移民の仕事に変わっているという指摘もある。アメリカでは、2000年の第1四半期から2013年第1四半期の約13年間で、仕事に付いている生粋のアメリカ人の数は130万人減ったが、同じ時期における働く移民の数は530万人増加したとの報告が出ている。
先述のウォール・ストリート・ジャーナルの記事では、日本に移民が増えることの懸念として、「快適な日本の生活習慣に移民が大きな混乱をもたらすことである」としている。冒頭の竹中氏の発言記事に対しても、反対を唱えるツイートが多い。
産業競争力会議の中には、移民政策よりも、少子化対策を訴える議員もいる。ローソン代表取締役の新浪剛史氏は、下記のように述べている。
人材雇用について、日本のように、人口構成がいびつな状況で、本当に出生率を上げずにイノベーションをやり続けられるのか。優秀な外国人を入れることも重要だが、出生率を上げて、若年層が次から次へとつながっていくことが大事。早急にロードマップを作り、合計特殊出生率 2.1 をクリアできるようにすべき。少子化対策は、我が国における一丁目一番地であり、長期にわたってコミットしないとできない。10 年、20 年ときちんと腰を据えてやるべき。国としてここで本気度を示すべく、合計特殊出生率 2.1 をクリアすることをビジョンとして掲げてほしい。
(「第4回産業競争力会議議事要旨」より。2013/03/15)
日本に移民政策は必要だろうか。あなたの意見をお寄せください。