安倍晋三首相は、7月12日に行われ15日に放映された長崎国際テレビの番組インタビューで、憲法9条の改正に意欲を示した。共同通信が報じた。インタビューでは「われわれは(憲法)9条を改正し、その(自衛隊)存在と役割を明記していく。これがむしろ正しい姿だろう」と述べ、自衛隊を軍隊として位置づける必要性を強調したという。
まず、現行の憲法9条を確認しよう。
第二章 戦争の放棄
第九条 日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。
2 前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。
これに対して、2012年4月27日に発表された自民党の憲法改正案の9条では、「戦争の放棄」という文言を削除し「安全保障(平和主義)」と変更。国防軍や領土等の保全等を盛り込んだ内容となっている。
第二章 安全保障(平和主義)
第九条 日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動としての戦争を放棄し、武力による威嚇及び武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては用いない。
2 前項の規定は、自衛権の発動を妨げるものではない。
(国防軍)
第九条の二 我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全を確保するため、内閣総理大臣を最高指揮官とする国防軍を保持する。
2 国防軍は、前項の規定による任務を遂行する際は、法律の定めるところにより、国会の承認その他の統制に服する。
3 国防軍は、第一項に規定する任務を遂行するための活動のほか、法律の定めるところにより、国際社会の平和と安全を確保するために国際的に協調して行われる活動及び公の秩序を維持し、又は国民の生命若しくは自由を守るための活動を行うことができる。
4 前二項に定めるもののほか、国防軍の組織、統制及び機密の保持に関する事項は、法律で定める。
5 国防軍に属する軍人その他の公務員がその職務の実施に伴う罪又は国防軍の機密に関する罪を犯した場合の裁判を行うため、法律の定めるところにより、国防軍に審判所を置く。この場合においては、被告人が裁判所へ上訴する権利は、保障されなければならない。
(領土等の保全等)
第九条の三 国は、主権と独立を守るため、国民と協力して、領土、領海及び領空を保全し、その資源を確保しなければならない。
安倍首相はかねてから、憲法改正を訴えてきた。4月5日の衆議院予算委員会でも憲法のことに触れ、サンフランシスコ条約締結前の占領下にあった時代に作られた憲法は、真の憲法ではないと下記のように述べている。
「まさに、これは昭和二十一年でありますが、当時の幣原内閣において、松本烝治担当大臣が案をつくっていたわけであります。甲案、乙案というのを考えていたわけでございますが、これは二月一日に毎日新聞がスクープしたわけでありまして、このスクープした案を見てマッカーサーが激怒して、そして二月の四日にホイットニー民政局長とケーディス次長を呼んで、もう日本には任せておけないから、これは私たちでつくろうという指示をホイットニーとケーディスに出して、そして、ホイットニーがケーディスに対して、委員会をつくってつくりなさい、そして二十五人の委員が、そこで全くの素人が選ばれて、たったの八日間でつくられたのが事実であります。これが原案と言われているわけでありますから。
しかし、そこは、そういう事実も踏まえて、その段階ではそういう事実に対してもみんな目を覆っていたんですよ。ですから、そういう事実をやはりちゃんと見ながら、自分たちで真の独立国家をつくっていこうという気概を持つべきではなかったかということを申し上げたわけでございます」
しかし、5月中旬頃に、安倍首相の憲法改正の主張は柔軟なものとなった。5月14日に行われた参議院予算委員会でも96条に触れて、国民の6〜7割の方が、自分の意志を示したいとしても、国会議員の3分の2の賛成が無いと発議すらできないと指摘し、国民がまず、憲法の議論に参加すべきではないかという発言をしている。
また、6月26日の、国会閉幕後の記者会見でも、参院選ではまず与党が議席の過半数を取得し「ねじれ」を解消しないと、デフレは解消されないと述べ、経済政策に取り組む考えを示していた。「経済の力を失った国は国力を維持できませんから、外交・安全保障においても力を発揮することはできません」とした上で、憲法改正についても国民と議論したいと述べている。
「憲法改正は立党以来の理念であります。当然この憲法の改正にも取り組んでまいります。
まず、憲法改正については、私は先の衆議院選挙において96条から始めたいと申し上げました。そのことによっていわば我々が憲法の議論をリードする形ができたことによって、憲法改正、これはあまりリアリティを持った議論ではなかったのですね。初めてリアリティを持った議論、現実にこれは憲法改正というのは、だんだん現実的に政治課題としてこれは表れつつある。国民の皆様にも認識していただいたという意味においては、まず第1段階の目的は私は達成できたと思っているのです。
その上において、次は国民投票法が先の第1次安倍政権において成立をいたしましたが、この国民投票を実施するための投票権を、18歳の年齢に引き下げていくための法整備があります。民法の権利義務との関係も含めてどう考えていくかということを議論していかなければいけないし、あるいはまた国民投票に付するものを、憲法のまさに逐条的な改正案だけに限るのかどうかということも含めて議論しなければいけませんし、公務員の行為規制、この三つの課題が宿題として残っておりますが、まだこれが解決をされていない。これを解決をしない限り国民投票できませんから、これは当然やっていく必要があるのだろうと思います。
その上において、憲法改正というのは、普通の法律は国会で2分の1の議員が賛成すれば、これで完結をしますが、憲法の場合、これは我々の改正案においてもそうなのですが、2分の1の国民の皆様に賛成していただかなければ、投票数の2分の1、過半数がなければ憲法を改正できない。つまり、決めるのは国民の皆様なのですね。これがいわば一般の法律とは基本的に国会で完結をするものと、国民の皆様が直接決めるもの、国会は発議するということでありますから、つまり国民の皆様の中において議論がどれぐらい深く広く、深まっているか、広がっているか、あるいは変えていく方向について共有されていくかということが大切なのだろうと思います。
そういうものをよく見ながら、国民の皆様の理解と平仄を合わせて条文をどういうふうに変えていくか、それが果たしてどの条文なのかということも我々は慎重によく議論をしていく必要があるのだろうと、このように思います」
参院選が公示されてからも、デフレ脱却に向けて「ねじれ」を解消するために、「与党で過半数を目指していきたい」との演説を繰り返していた安倍首相。それが一転、21日の投票を目前に、憲法9条改正に意欲的と報じられたことになる。
何故封印していた憲法改正を、そのなかでも何故9条の改正に触れたのか。産経ニュースは、改憲に向けて、参院選後に「3分の2」確保のための連携先を探さなければならないことからくる危機感と報じている。
産経ニュースは4日に行った安倍首相へのインタビュー内容として、下記のように報じている。
「憲法は一般法と違い、国民投票で決まるんです。国会議員は発議するだけだから、ここを間違えてはいけない。発議要件を変えても、決めるのは国民。国民自身がダイレクトに決めるのがわが国の憲法だ。
発議要件を衆参両院の3分の2から2分の1に下げるのは危険だという議論は、国民を信じていない。国民がもっと憲法の議論に参加できるようにすべきだというのが私の考えです。
改憲には3分2という高いハードルがある。政治は志だから、民主党の議員もこの歴史的な大事に、自分の信念、理念に沿って参加してもらいたい。党の枠組みを超えて呼び掛けたい」
(産経ニュース「単刀直言・党首に聞く 安倍・自民党総裁(首相)「憲法は国民が決める」」より。 2013/7/5 00:22)
安倍首相の発言は、投票日までの残り僅かな期間で憲法に対する安倍首相からの国民への問題提起なのか。それとも、自民党と連携をする政党へ向けた踏み絵なのか。これから21日までの間、各党がどのように発言するのか、そして有権者がどのように反応をするかに注目が集まる。
【※】安倍首相が意欲を示した憲法第9条の改正に読者の皆様は賛成ですか?反対ですか?コメント欄にご意見をお寄せください。
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