日銀の黒田東彦総裁は11日の金融政策決定会合後の記者会見で、減速懸念が強まっている中国経済について、世界経済への影響が大きく今後の動向を注視していくと強調した。
景気判断を「緩やかに回復しつつある」と引き上げたのは「底堅い内需と外需の持ち直しで経済の水準が緩やかに高まっているため」と説明した。
中国経済について「政府が成長のスピードよりも質を重視する政策を進め、成長率が数年前より低め」だが、「先行きは内需を中心に安定した成長を続けることは十分見込める」と述べた。一方、「政府が打ち出している構造改革などいろいろな政策に対する市場の受け取り方に不確実性が残っている」と指摘、構造改革の効果の範囲と程度についても「一定の不確実性があり、シャドーバンキング(影の銀行)などの事象について十分注視していく必要がある」と警戒。「中国は世界第2の経済大国でアジア、世界経済全体に影響が大きく、十分経済動向を注視していく」と強調した。
決定会合では4月に公表した2013、14年度の実質GDP成長率や消費者物価指数の上昇率について、わずかながら下方修正したが、「4月時点の想定と比べ内需はやや強め、外需は弱め」と総括した。
2日間の決定会合で「中国を含む新興国経済について議論し、それを踏まえて審議委員も2013年度から15年度の成長率や物価見通しを出した」。物価見通しの下方修正は、「エネルギー価格の下落の影響を考慮した」。
大方の委員が「物価上昇率が2%程度に達する可能性が高いと予想した」が、「複数の委員が4月同様物価の見通しに慎重な見方を示した」という。
<財政健全化めぐるIMF局長懸念「よく理解できる」>
5月の消費者物価指数がマイナスを脱却し、円安やエネルギー価格が物価を押し上げている点について「景気回復が明確になる中、悪い物価上昇にはならない。バランスのとれた物価目標達成に向かっている」との見解を示した。
金融緩和により、「実体経済や金融市場に前向きな動きが働き、人々の物価の見方は好転」「期待インフレ率は明らかに上昇しており」、物価と成長率・失業率の相関を示すフィリップス曲線も「上昇していると思う」と述べた。
また「2%の物価安定目標を2年程度で達成するため必要で十分な政策を取った」とあらためて強調し、市場に消えない安易な追加緩和観測をけん制した。
4月の異次元緩和導入直後に乱高下した長期金利の動向について「米欧長期金利が上昇している中で、日本は極めて安定している」と指摘。日銀が毎月平均で7兆円超の長期国債を買い入れることで「下押し効果がかなり効いており、今後も効果は累積的に高まる」との見方を示した。
「財政健全化が進まなければ、市場から不信任とみなされるということで、金利が上がる懸念もあり得る」と警告。国際通貨基金(IMF)のブランシャール調査局長がアベノミクスで中期的な財政健全化策が伴わなければリスクと指摘した点について「懸念はよく理解できるし、そういうものが潜在的にはあると思っているが、今のところ日本政府は懸念を理解して努力している」と強調した。
来週モスクワで開催される20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議では「リーマン・ショック後に検討を重ねてきた金融規制の問題も議論される」と述べた。
米金融政策の出口議論による新興国からの資本流出懸念について「米国経済の着実な回復自体は世界経済全体にプラス」とし、金融政策の動向が「新興国の金融市場にどう影響を与えるか引き続き注意深く見ていく必要がある」と強調した。
*内容を追加して再送します。
[東京 11日 ロイター]