SmartNewsの本質は「パーソナライズしすぎない」こと――株式会社ゴクロ・執行役員事業開発担当の藤村厚夫氏インタビュー

スマートフォン/タブレット向けのニュースアプリ「SmartNews」が人気だ。人気の理由は、移動中に気になる情報をまとめて気軽に読める設計、思わず身を乗り出すような情報選別機能にあるが、他方で、「情報を作っているメディアのコンテンツにただ乗りしているのではないか」という批判もある。
Kaori Matsumoto

スマートフォン/タブレット向けのニュースアプリ「SmartNews」が人気だ。人気の理由は、移動中に気になる情報をまとめて気軽に読める設計、思わず身を乗り出すような情報選別機能にあるが、他方で、「情報を作っているメディアのコンテンツにただ乗りしているのではないか」という批判もある。

SmartNewsはどう生まれたのか、そして「ただ乗り批判」は正しいのか。同サービスを運営する、株式会社ゴクロ・執行役員事業開発担当の藤村厚夫氏に話をきいた。

「パーソナライズされて狭くなる世界とは、違う視点を届けたい」

藤村氏は、SmartNewsの狙いをそう説明する。コンテンツを個人属性毎にパーソナライズして届けるサービスが花盛りだが、SmartNewsはそうでない。理由は、SmartNews以前にゴクロが展開していたサービスから得られた教訓にある。

ゴクロは、現・代表取締役の浜本階生氏と、取締役の鈴木健氏によって、2012年6月に設立された。しかしその前、2人はSmartNewsの前身ともいえる「Crowsnest」を運営していた。Crowsnestはソーシャルメディアを使い、ニュースを収集するサービス。世界中でツイートされる記事に含まれるウェブサイトのアドレスを分類、その人のソーシャルグラフと組み合わせて表示することで、「パーソナライズされたニュースが簡単に読める」ことを狙った。

「しかし、利用者数が期待通りには伸びなかった。それはなぜか、そこまで含めて考えてモバイルプロダクトとして作り上げたのがSmartNews」(藤村氏)だという。

そこでポイントとなったのが「パーソナライズしすぎない」ことだった。

「パーソナライズが個人の嗜好に適合することだとすると、それが、本当に多くの人々にとって重要なのかどうか。ニュースとは、自分以外の世界で起きている現象を発見することにも大きな価値がある。多様な情報を求めている人は、情報を限定されたがっていない。たくさんの情報発信源があるが、そこから、面白い・関心の高い情報を集める道具が必要」

そう藤村氏は説明する。

SmartNewsでは、Crowsnestが持っている「ツイートをリアルタイム解析する」技術は生かしつつ、単純にパーソナライズするのではなく、多くの人が興味を持っている情報の発信源を見つけ、それをカテゴリーごとに整理して表示する、という発想でサービスが組み立てられている。だが「パーソナライズありき」ではなくなった。現在もCrowsnestはサービスを続けているし、SmartNews内には、自分のTwitterアカウントからパーソナライズされた情報をまとめる「Twitterチャンネル」が用意されているが、ベースとなっているのは「人はより多様な情報を、快適に読みたいと思っている」という方針である。

そうした考えの一端は、SmartNewsの利用形態からも見えてくる。

ウェブのコンテンツを集めるサービスは、多くの場合、まとまったものを「順番に読んでいく」形に落ち着きがちだが、SmartNewsはそうでない。

「SmartNewsの利用者は、ニュースジャンルの間を、チャンネルを移動しながら読んでいるようです」(藤村氏)

すなわち、興味のあるところだけ「拾い読み」しているのだ。これは、大きなニュースサイトや紙の雑誌・新聞での行動に近く、情報が広く網羅されているために生まれる行動様式、といっていい。

こうした読み方を、しかも快適に実現するために、SmartNewsは「操作性」にこだわっている。読み込みやページ送りの快適さはもちろんだが、日本語で見る際の快適さ・自然さも重視している。見出し文字の「改行」が不自然にならないよう工夫したり、入りきらない場合、文字に長体をかけて表示したりもしている。こういった部分は、技術的な制約とコストの兼ね合いもあり、大手ウェブメディアですら軽視している。ゴクロがCrowsnestからSmartNewsへ移行する段階で重視したのは、通信環境が安定しない移動中でも、片手で素早く、短い時間で読めるという「モバイルならではの価値」だった。

「長いエスカレーターを上り切る間に、コンテンツを読めるかどうかが大事な時代」と藤村氏は言う。

だが、そうした方針を貫いたことが、コンテンツ業界との摩擦を生むきっかけにもなった。

SmartNewsには、「Smartモード」と呼ばれる機能がある。これは、収集したニュースをいったん蓄積し、本文や記事の中心になるグラフィックなどをすばやく表示できるように抽出して提供するものだった。読み込みが速くなるため、移動中の閲覧には向く。

だが、コンテンツの中核部分だけを抽出することは、ユーザーには喜ばれても元のメディアが持っていた「広告表示機会」を失わせることにもなる。元のウェブを表示するなら広告価値は元のメディアに生まれるが、中核部分を抽出するだけでは記事を作ったメディアには利益が生まれない。昨年12月には、こうした方針が元で、ネット上で「SmartNewsただ乗り」論争が起きた。

「Smartモードは、内蔵ブラウザーで媒体社さんのサイトを表示するのと並行して、アプリ内部でコンテンツを高速に表示する仕組みですが、媒体社さんによっては『自分たちの手の届かない空間』ができてしまい、ビジネス価値を生まない、と懸念されました。しかしユーザビリティも大切です。そこで我々が行ったのは、システムアーキテクチャを抜本的に変更する対処です。コンテンツをあらかじめダウンロードし蓄積するのを止めました。代わりにプロキシーサーバーを多数配置することで、効率的な読み込みの仕組みを構築し快適さを維持しています。一方、新しく提供しはじめているのは、Smartモードに、元の媒体社さんの媒体ロゴや広告、関連リンクを埋め込むやり方です。この広告の収入には我々は関与せず、媒体社さんに入ります」

すなわち、Smartモードでコンテンツを提供する企業と連携し、価値をたかめよう、という発想だ。このほかにも「チャンネルプラス」という名称で各媒体独自のチャンネルを用意し、ブランド性をより前に押し出した形での協力体制の構築も進めている。実は「チャンネルプラス」には、ハフィントンポストのチャンネルも用意されていて、日々SmartNews経由での読者が増えている。

ただ、これだけのことをしながらも、SmartNewsはまだ収益源を確保できていない。「我々の収益の方向、いま考えているところ。強いビジネスモデルの構築は急がれるとところ」と藤村氏も認める。

強い収益モデル確立にはユーザー数拡大が必須であり、そのためには、情報元であるメディアとの良い関係も必須である。ユーザビリティの向上と「メディアとの共存共栄」は、同社にとって不可分であり、それが現在のSmartNewsの特質でもあるのだ。

■SmartNews

(文・西田宗千佳

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