日本の政府が少子化対策に取り組み始めて、もう20年に及ぼうとしているが、合計特殊出生率は思うような回復をみない。そこで、安倍内閣は6月14日、4年ぶりとなる「骨太の方針」(正式名称:経済財政運営と改革の基本方針)を閣議決定、女性の活躍促進や少子化危機突破に向けた方針を盛り込んだ。ハフィントン・ポストでは、これらの対策をまとめてきた森雅子少子化対策担当大臣に、ユーザーの方から募った質問もまじえて取材。前編では、多岐にわたる少子化対策の全容について聞いた。中編では、「育児休業3年」や「待機児童解消」など国民の間でも注目を集めている政策を具体的にどう進めていくのかをたずねる。
■「育児休業3年」は実現可能か?
――安倍首相が発表した「育児休業3年」ですが、その実現性をめぐって、国民の間でも議論になりました。実現に向けて、具体的にどのように進めていくおつもりか、お聞かせください。ユーザーの方からは下記のような質問がありました。
【41歳女性からの質問】
母子家庭の母です。育児休暇、どれだけの女性が法律どおりに子育てし職場復帰できているでしょう? 実際には上場企業や公務員だけで、中小企業では育休なんて取れない方がほとんどではないでしょうか。期間が3年になろうが何年になろうが、取れない会社では取れない。実際はほぼ大企業と公務員だけ、この現状はそのまま?
森大臣:「3年育児休業」も誤解が大きいと思います。まず「3年間フルで休む」ということを言っているわけではありません。育児と仕事を両立させながら、たとえば、1年間フルで育児休業を取った後、フルで仕事を再開するのはなかなか難しいので、勤務時間を短くしたり、お父さんに育児休業をとってもらったり、週に3回だけ出勤するとか、多様な働き方を可能にしていきましょうということです。今、M字カーブといって、第1子ができた時に仕事を辞めてしまう女性が6割もいるんですね。どうして辞めるかというと、柔軟な働き方がないからです。子供が小さいのにいきなりフルで働くのはどうしても無理です。ぽきっと折れて仕事をやめてしまうことがないように3年間は柔軟な働き方を組み合わせて、親と社会で子供を育てていきましょうということです。
――制度があっても、運用が難しいという現実もあります。ユーザーの方からはこんな質問もありました。
【34歳女性からの質問】
私は大学を卒業してから今まで医療系5社で営業の仕事をしてきました。今年結婚し、妊娠5カ月です。今の会社に入るまで大企業で福利厚生やハラスメント対策、産育休が充実している会社に在籍していました。そういった会社はどこも、産育休などは建前で、一度前線から外れたら元には戻れない空気がありました。そのため、ベンチャーへ転職し、給与は3割下がりましたが、自分のライフスタイルに合った仕事に変わり、ようやく妊娠することが出来ました。
社会人12年目でようやくここへきたという感じでした。先の女性手帳のような早く子供を産めという事を示唆するような政策には正直、悲しみを感じました。
現在、生活は非常に苦しく、妊娠して改めて人としての幸せを感じはしても、今の日本で生活して行く上で子供を持つということは、経済的な負担増かつ労働の足かせになることを実感しています。
大臣が推し進められている少子化対策として、子育て女性をサポートすることは既に当たり前であり、これから先、男性主権、男性主導の社会を変えていかなければ本質的な少子化対策、女性の労働力の確保にはつながらないと思います。私は、制度ばかりが整っても、運用する男性に理解がなければ結局形ばかりで何も生み出さないと思います。政治家の世界でさえ、実現されていないことが、一般の社会で、会社で、理解され運用されていくとお考えでしょうか?また、先に述べたように、男性への啓蒙等はなされるお考えはあるのでしょうか?
森大臣:「育児休業3年」というのは、女性だけに対するメッセージではなく、男性に対するメッセージでもあります。「育児休業3年」を安倍首相は経団連の米倉弘昌会長に対して要請しました。3年経った時に育児休業を取った人全員が復帰できて、キャリアラインに戻ることができる。ただ職場に復帰できても窓際の仕事に追いやられてしまっては意味がないので、企業へのメッセージでもあります。子育てしている人を雇ったら、目先の利益が下がるとか、生産ラインがまわらないとおっしゃる人もいるのですが、そうした人たちを雇って消費者の目線が企業に入ってくることによって、新しいイノベーションが起こる。日本の場合は、6割の女性が会社を辞めていますが、辞めないで90%の人が働いている国の方が、出生率が高いのです。これをきちんと企業に理解してもらいます。
■育児休業取得が難しい中小企業を支援
森大臣:ご指摘の通り、これは経団連に入っているような大企業は概ね可能です。でも、中小企業は来年の収益が上がらなければ、つぶれてしまう。安倍政権は今回、特に中小企業による仕事と子育ての両立の取り組みを促進する支援を行っていくということで、財政的な支援、それから税制的な支援というものを実施します。3年経った時に誰も辞めないで働き続けているという取り組みをしている企業は、代替要員の確保などいろいろとお金がかかりますので、国が財政的にフォローすることを打ち出しました。これも「骨太の方針」に入りましたので、今後、具体的に政策を作って予算を頂いて、中小企業を支援していくことになります。
具体的に私の頭の中にあるのは、例えば地方の商工会議所などで人材バンクを作って頂き、技術を持っている人が登録して、中小企業で誰かが産休に入ったら行って働く。産休が明けたら、また人材バンクに戻ってきますが、人材バンクできちんと身分保障をする。そのための資金を国が面倒をみましょうというプランです。他にも色々な工夫があると思いますが、現場の皆さんのご意見をいただきながら、中小企業でも3年間は育児と仕事を両立できるようにしていきます。
安倍政権では、女性の労働力を確保したいと思っております。今、少子化で人口減少が進んでいて、50年後には労働できる年齢の人口が現在の50%になるという試算が出ています。働き手がいなくなれば、アベノミクスがどんなに頑張っても、意味がありません。もちろん、少子化対策も進めますが、これは長期的なもので、明日産まれたからといって、働けるようになるまでには20年ぐらいにかかります。ですから、頼りになる労働力はやはり女性なんですね。日本の女性は世界の教育レベルの第4位といわれています。男女ともに高等教育を受けているのに、第1子が産まれる時に女性だけが会社を6割も辞めています。これは、国にとってもったいないことなのです。女性の働く力を活用したいと思っていますので、中小企業を支援することは喫緊の課題になってきます。
■1兆円規模の予算で、待機児童40万人を解消
――国民の間で関心が高い待機児童問題で、40万人の受け皿づくりのための「待機児童解消加速化プラン」を進めていらっしゃいますが、その予算規模を教えてください。また、このプランを進めるためには財源の確保が重要だと思いますが、それは消費税になるのでしょうか?
森大臣:平成27年度からは「子ども子育て支援新制度」が始まり、消費税増税分のうち0.7兆円はその制度にいただけることになっています。その一部を待機児童の解消にあてるわけですが、安倍政権ではそれを2年間、前倒しして、まず20万人、その後の3年間で20万人の受け皿を確保しようとしています。国民の皆さんも、「財源がないのに言っているんじゃないか」と心配されていると思いますが、安倍総理がいつもおっしゃっているのは、「百の言葉より一つの結果」。きちんと結果が出せるものをやっていこうということです。
それに要する費用ですが、国・地方を通じた事業費を試算すると、現時点での粗い見込みとして、施設整備関係費が5年間の合計で約6千億円から7千億円程度と承知しています。また、保育所運営費をはじめ、受け皿の拡大が完成した時点の40 万人分に相当する事業費は、国・地方で年間約3千億円程度と見込まれると承知しています。その財源ですが、厚労省において認可外保育施設や幼稚園、長時間預かり保育支援については、国から交付された交付金を財源に各都道府県で作っている「安心こども基金」を活用できるように検討しています。
また、「子ども子育て新制度」に先立ち、平成26年度に実施する保育緊急確保事業において、保育の量的拡充に取り組むことになっています。これらを活用しつつ、待機児童の解消に国が全力で支援していくことを、総理自身が表明しています。
――保育施設を増やしても、保育士が不足するのではないか、保育の質が低下するのではないかという心配する声もあります。
森大臣:施設だけではなく、保育の質を保つために保育士さんも増やします。保育園で働いている、保育士資格のない人が資格を取れるように、その代替要員への補助金を出したり、認可外保育施設が認可保育園を目指す場合には予算をつけたり、認可保育園と保育士を増やして行く取り組みをします。待機児童の解消そのものは、厚労省が担当ですが、少子化対策全体をどうするか等、国全体は少子化なのに都会の待機児童は増えているという矛盾を解消していくのが、少子化対策担当大臣の仕事です。
子供の地域偏在が深刻化しています。根本にあるのは、若い人の働く場所が地方にないことです。雇用の場を地方に確保しようということで、稲田朋美行政改革担当大臣が中心になって取り組みをされています。それから、新藤義孝総務大臣のところでは、地域活性化プランとして若者の雇用や起業支援をしています。少子化対策担当の私だけではなく、少子化危機突破に役立つことは、それぞれの大臣のもと各省庁が力を入れています。
【後編】に続く
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