自主憲法制定を党是に掲げる自民党。安倍首相は、参院選後に公明や維新だけなく、民主党内の改憲派も取り込んで憲法改正を目指すと意気込む。2012年10月に憲法改正推進本部が発行した「日本国憲法改正草案Q&A」というものがある。興味深い内容なのでこの機会に読んでみたい。
Q&A集の一番初めに書かれている質問は
「なぜ、今、憲法を改正しなければならないのですか?なぜ、自民党は、『日本国憲法改正草案』を取りまとめたのですか?」
というもの。これに対する答えは2ページ(図表つき)に及ぶが、その最後の方に
「世界の国々は、時代の要請に即した形で憲法を改正しています。主要国を見ても、戦後の改正回数は、アメリカが6回、フランスが27回、イタリアは15回、ドイツに至っては58回も憲法改正を行なっています。しかし、日本は戦後一度として改正していません。」
という説明がある。
これらの数字の比較の意味については言及がないが、諸外国に比べて戦後一度も憲法を改正していない日本はちょっとおかしいということなのだろうか。もしそういうことであるならば、諸外国がなぜそれほど頻繁に改正をしているのかを調べることは意味があるだろう。資料で挙げられている国のうち最多の58回を誇るドイツの状況を見てみたい。
■ドイツ、改正「58回」の意味
厳密に言えば、ドイツに「憲法」はない。憲法にあたる法律として「ドイツ基本法」というものがある。
1949年に西ドイツで制定され、正式な憲法は東ドイツとの統一後に制定するとされたが、1990年の統一後もこれが事実上の憲法の役割を果たしている。ドイツ連邦共和国基本法。ボン基本法。
(デジタル大辞泉より)
西ドイツで制定された基本法は前文と11章146条からなる。第二次世界大戦でのナチス・ドイツによる侵略戦争の反省から、第1条で「人間の尊厳の不可侵」を、第20条で「ドイツは国民に主権がある民主国家である」ことを掲げている。この二つの条文についての法改正は一切認めていないが、それ以外の基本法については58回改正されている。
■なぜそんなに頻繁に改正?
この58回という頻繁な改正をどのように考えればいいのだろう?参考になる報告として、2001年11月7日に開かれた「第153回国会 参議院憲法調査会 第2号」というものがある。ここではドイツ、スペインに派遣された各党の参議院議員による報告がまとめられている。その中でドイツの憲法改正回数について触れている箇所があるので紹介したい。(各氏の肩書きは当時のもの)
ドイツの基本法がなぜ四十八回も改正されたかについてですが、基本法は、制定当初は、統一も近い将来可能であり、そのときに正式な憲法を制定すると考えていたので、必要不可欠な規定のみを置いた簡単なものでした。しかし、統一が遠のくにつれ、改正によって基本法を補足していかなければなりませんでした。ただ、改正には技術的な事項が多く、基本的な内容、すなわち人間の尊厳の不可侵及び基本的人権の保障という本質は制定時と変わっていません。
(自由民主党・野沢太三参院議員)
最後は、憲法改正とのかかわりの問題でありますけれども、ドイツでは憲法を四十八回改正したということで、憲法改正が不可欠だという代表例として私は説明されていると思いますが、基本法自身が憲法の擁護を国民に求めていること、また、今回の調査でもショルツ、ドイツの上院憲法委員会委員長とお会いしましたが、この方の発言では、改正の回数は多いが重要でない事項が多く、基本的な内容は制定時と変わっていないというふうに発言していたことが印象的でありました。このことは、ドイツ憲法を研究している多くの学者が、技術的改正が少なくないということを指摘している点からも、この四十八回の改正の特徴はそういう点にあるというふうに思います。
(日本共産党・小泉親司参院議員)
■回数よりも中身
二つの報告から読み取れることは、ドイツの憲法改正回数が多い背景には、時代の変化に合わせた技術的事項の変更があったということであり、他方で基本的人権の保障などの憲法の根幹はほとんど変わっていないということもわかる。
「諸外国は何度も改正しているから日本も」というロジックにとらわれず、自民党をはじめ各党の改正草案と現行憲法を見比べ、時代の要請に応じて変えるべきところと、普遍的な価値として変えるべきではない部分を注意深くチェックする必要があるのではないだろうか。
■ハーバード大学・ライシャワー日本研究所、ヘレン・ハーデーカー(Helen Hardacre)教授による日本国憲法改正についての講演
(2009年6月、ジャパン・ソサエティ・ニューヨーク)
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