安倍晋三首相は5日昼、内外情勢調査会で講演し、「国家戦略特区」の創設や対日投資の加速策などを盛り込んだ成長戦略の第3弾を発表した。成長戦略を実現することで「10年後には1人あたりの国民総所得(GNI)を現在の水準から150万円増やすことができる」という。
首相は講演の冒頭から「株価が下がったらアベノミクスは終わりという人までいる。日本は深い自信喪失という谷に落ち込んでしまったと痛感する」と最近の株価動向に言及。成長戦略で「国籍を超えたイノベーションを日本で起こす」と表明し、「世界経済の健全なサイクルを再び作り出す」などと訴えた。
成長戦略の具体的策として「対面でもネットでも消費者の安全性と利便性を高める」ことを目指し、一般医薬品のネット販売解禁や参院選から導入されるネット選挙などに言及。「今後もIT戦略は成長戦略の大きな柱」と述べた。
国家戦略特区については、外国人医師の受け入れや、容積率規制の緩和などを通じて「ロンドンやニューヨークといった都市に匹敵する国際的なビジネス環境を作る。世界中から技術、人材、資金を集める都市を作りたい」と狙いを説明した。
エネルギー政策では、小売りの全面自由化と発送電の分離によってイノベーションの可能性を引き出すとしたうえで、電力関係投資を今後10年間で、過去10年の1.5倍にあたる30兆円規模に引き上げる方針を発表。石炭火力発電や再生可能エネルギーへの投資を加速させる。
インフラ投資にも前向きな姿勢を示した。笹子トンネルの事故の例を挙げ「最新技術を活用し、コストを押さえながら安全性の向上を図る」として、今秋にインフラ長寿命化基本計画をまとめる。さらに、民間資金を活用してインフラ整備を進めるため、今後10年間で過去10年の実績の3倍にあたる12兆円規模のPPP/PFI事業を推進するとした。
こうした成長戦略により、この数年で失われた50兆円に及ぶ国民総所得を、当面3年間で取り戻せるはずだと主張。成長シナリオが実現できれば一人あたりの国民総所得は最終的に年3%を上回る伸びとなり、10年後には現在の水準から150万円増やすことができるとした。
首相は4月と5月に成長戦略の第1弾(再生医療実用化、子育て支援など)と第2弾(設備投資増加、農業改革など)を発表済。今回の第3弾も含めて「年限を明確にする」として、今後3年間で民間投資70兆円回復、2020年に対日直接投資残高を35兆円、インフラ輸出を30兆円へ拡大させることなどを列挙し、「目標を達成するまで政策を打ち続ける」と力説した。[東京 5日 ロイター]
(石田 仁志、基太村 真司 編集;田巻 一彦 宮崎大)
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