構造改革を進める上で必要な、規制改革の調査審議を行なっていた政府の規制改革会議は、5日、答申をとりまとめ安倍晋三首相に提出した。答申は、「エネルギー・環境」「健康・医療」「雇用」「保育」「創業」の五つを重点分野として提言。雇用分野の規制緩和については、“ジョブ型正社員”を普及させるための雇用ルールづくりを盛り込んだ。政府はこれを受けて、実施計画を作成した後、14日に閣議決定する。
ジョブ型正社員は、限定正社員とも言われ、勤務地や職種、労働時間などを限定した雇用のかたち。勤務地や職種を限定する代わりに、正社員より賃金は安くなるが、正社員と同様福利厚生が受けられ、雇用期間にも定めがない。
規制改革会議のなかにある、雇用ワーキンググループの4月19日の資料として提出された、鶴光太郎慶応大教授のレポート「就業の場所及び従事すべき業務が消失したこと」では、「限定正社員」の反意語として、「無限定正社員」という言葉が使われ、「(1)職務、(2)勤務地、(3)労働時間、などの制約、限定がない社員。つまり、将来、職種、勤務地の変更、残業などの命令があれば基本的に受け入れなければならないという「暗黙の契約」が上乗せされている社員。」と定義されている。また、日本における正社員は、この無限定正社員の性格が強いと指摘している。
同レポートで、鶴氏は、これまでの日本社会においては、正社員の条件として「無限定な働き方が要請、期待されてきたため、特に既婚女性にとっては不利であった。」とも指摘し、正規・非正規というように、労働市場を二極化するのではなく、多様化することが必要としている。
総務省のデータによると、現在の非正規社員は、労働者の35%を占めるが、そのうち2〜3割が正社員を希望している。ジョブ型正社員は、正社員に比べ賃金が低いため、非正規からの正社員転換へのハードルが低いとも考えることができる。また、子育てから復職したいと考える女性や、介護などで住む場所を離れられない人の雇用につながればとの考えから、雇用ワーキンググループで議論が進められてきた。
しかし、限定正社員については、安易な解雇につながる制度なのではないかという疑問がある。例えば、勤務地を限定した場合、その勤務地がなくなった場合どうするのか。
5月24日の衆議院厚生労働委員会で高橋千鶴子議員は、雇用ワーキンググループで鶴氏が提出した前述の資料の中で、ジョブ型正社員の人事処遇ルールについて「就業規則の解雇事由に「就業の場所及び従事すべき業務が消失したこと」を追加することが可能であること確認してはどうか。」と書かれていることを指摘している。
また、高橋議員は、2012年3月に厚生労働省から発表された『「多様な形態による正社員」に関する研究会報告書』には、既に5割の企業が限定正社員の仕組みを導入していると指摘。子育て中などの理由で、通常8時間の勤務を6時間にするなどを行なっており、問題は起きていないにもかかわらず、わざわざ法を制定するということは、法の名のもとに解雇しやすくするためではないかとも発言した。
田村憲久厚生労働大臣は、限定正社員については、決して今の正社員の方を、無理に限定正社員にすることはなく、もし無理に行うならば、それは法律違反だとし、限定的な働き方のモデルのなかで、うまくいっている例を周知徹底していくことが目的と説明。また、法の整備については、厚労相自身は、意味が無いのではないかと考えていると回答した。また、中野雅之労働基準局長は、鶴座長が提出した資料に沿って雇用ワーキンググループでは議論がされているが、この資料によると、法改正も視野に入れているという記述も見られるが、最終的に法定事項として立法するのが難しければ、法解釈通達などで明文化してはどうかとあるなど、規制手法や内容については、これからの議論と思われると回答している。
この、労働契約や就業規則に盛り込むようなルールを法律で決めるのかどうかについては、今回の答申案では、下記のように盛り込まれている。
労働契約や就業規則における内容の明確化、無限定社員との間の均衡処遇、人事処遇全般の在り方に関するルールの確認・整備を行う必要がある。
(「規制改革に関する答申(案)」より。2013/6/5)
ただし、この内容を盛り込んだ理由としては、「ジョブ型正社員が、労働契約や就業規則で明示的に定められていないことが多いため、人事上、その特性に沿った取り扱いが必ずしもなされていないか、明確化されている場合でも実際の運用が徹底されていない可能性がある」と書かれている。
法整備するのかどうかはこの内容ではわからない。14日の骨太の閣議決定でどのように決まるのかに注目したい。