尖閣諸島の領有権をめぐって、元官房長官の野中広務氏が発言した内容が波紋を呼んでいる。1972年の日中国交正常化した直後に、当時の田中角栄首相から「尖閣諸島の領有権について日中双方が棚上げを確認した」と直接聞いたというのだ。
野中氏は6月3日、北京で中国共産党幹部の劉雲山・党政治局常務委員と会談した際にその内容を伝えたと、会談後の記者会見で明かしている。朝日新聞デジタルは次のように報じている。
野中氏によると、「(日中)双方が棚上げし、そのまま波静かにやっていこうという話だった」という。(略)野中氏は「当時のことを知る生き証人として、明らかにしたいという思いがあった。私としてはなすべきことをしたという思いだ」と述べた。野中氏によると、田中氏は周恩来首相との国交正常化交渉を終えた直後、箱根で開いた田中派の青年研修で「棚上げ」について明らかにしたという。
(朝日新聞デジタル 2013/6/4 5:23)
尖閣諸島の領有権問題について、中国は「棚上げ合意」があったと主張しているが、日本政府はこれまで認めていない。 外務省が公表した「田中角栄首相、周恩来総理会談」では、1972年の第三回首脳会談で、田中氏が尖閣について質問し、周氏が「今、これを話すのはよくない」と棚上げ案を返答したという記述にとどまっている。
田中総理:尖閣諸島についてどう思うか?私のところに、いろいろ言ってくる人がいる。
周総理:尖閣諸島問題については、今回は話したくない。今、これを話すのはよくない。石油が出るから、これが問題になった。石油が出なければ、台湾も米国も問題にしない。
(東京大学東洋文化研究所 田中明彦研究室 「日中国交正常化交渉記録」)
一方で、今回の野中発言を政府は公式に否定。火消しに必死になっている。以下は、朝日新聞デジタルの報道だ。
岸田文雄外相は4日午前の記者会見で「我が国の外交記録を見る限り、そういった事実はない」と否定した。菅義偉官房長官も同日の会見で「棚上げや現状維持で合意した事実はないし、棚上げするべき問題も存在しない」と述べた。
(朝日新聞デジタル 2013/6/4 10:57)
尖閣諸島は、沖縄県の石垣島の約170キロ北方に広がる無人島の一群だ。魚釣島(うおつりしま)など、主に5つの島から成っている。1972年の沖縄返還に伴って、米国から日本に返還されたが、その前後から中国と台湾が領有権を主張するようになった。実効支配している日本政府は「日本領であることは明らか。領有権の問題はそもそも存在しない」という立場を取っている。
2012年9月、日本政府は魚釣島など三島を地権者から20億5000万円で買い取って国有化したことで、中国・台湾の両政府が強く抗議する事態となった。日本政府を威圧する目的で中国当局の船は、尖閣諸島周辺に繰り返し領海侵入しており、昨年9月の尖閣国有化以降では46回にも上った。
強硬路線だった中国政府だが、ここにきて尖閣諸島の棚上げ論が浮上してきた。6月2日には中国人民解放軍幹部の戚建国・副総参謀長が、シンガポールで開かれたアジア安全保障会議で「棚上げ」に言及した。産経新聞の報道は次の通り。
戚氏は「東・南シナ海における中国艦船の航行と巡回活動は、中国領内での正当なものだ。国家の核心的利益を守る決意と意思は揺るがない」と主張した。そのうえで「当面解決できない場合は棚上げし、対話による解決策を探るべきだ」と述べた。
(産経新聞デジタル 2013/6/2 20:02)
今回の野中氏の発言は中国政府の意向と足並みを揃える物といえ、日本政府がどのように対応するかに注目が集まりそうだ。
(※今回の野中発言を読者の皆様はどのように考えますか?コメント欄にご意見をお寄せください)
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