原発輸出へ 日本・インド「原子力協定」早期妥結へ交渉加速

安倍晋三首相は29日、インドのシン首相と首相官邸で会談し、インドへの原発輸出に向け、日印原子力協定の早期妥結で合意した。福島第一原発事故の影響で中断していた交渉が再開する。時事通信によると、インフラ整備での協力も確認され、日本が受注を目指す新幹線システム採用に大きく前進した。ロイター通信によると、日印原子力協定が締結されれば...
時事通信社

安倍晋三首相は29日、インドのシン首相と首相官邸で会談し、インドへの原発輸出に向け、日印原子力協定の早期妥結で合意した。福島第一原発事故の影響で中断していた交渉が再開する。時事通信によると、インフラ整備での協力も確認され、日本が受注を目指す新幹線システム採用に大きく前進した。

ロイター通信によると、日印原子力協定が締結されれば、東芝や日立製作所など原発関連企業にとっては急成長しているインドの原発市場への参入が可能になり、大きな追い風となる。

一方、核保有国のインドは核拡散防止条約(NPT)に加盟しておらず、原子力技術の平和利用がどこまで担保されるかが課題だ。朝日新聞デジタルによると、NPTの未加盟国との原子力協定は初めてという。

時事通信は次のように報じている。

核拡散防止条約(NPT)未加盟の核保有国であるインドとの原子力協力には、広島、長崎などから批判もある。会談で安倍首相は「包括的核実験禁止条約(CTBT)を重視しており、ぜひ対応を進めていただきたい」と要請。シン首相は「そういう努力をしている」として核実験モラトリアム(凍結)を継続する方針を強調した。

時事ドットコム 2013/05/29 21:19)

29日に発表された日印両首脳共同声明では、「原子力協定の早期妥結へ交渉加速」のほかにインフラ整備や安全保障に関しても合意された。

【インフラ整備】

・大都市ムンバイと工業都市アーメダバードを結ぶ高速鉄道システムの共同調査に共同出資

・ムンバイ地下鉄に円借款710億円

【安全保障】

・海上自衛隊とインド海軍の共同訓練をより頻繁に実施

・US2飛行艇に関する合同作業部会を設置


(時事ドットコム 「日印共同声明の要旨」より抜粋)

産経ニュースではインドへのインフラ輸出についての課題を次のように指摘している。

インドへのインフラ輸出をめぐっては、建設に必要な電力や水道などの設備が十分に整備されておらず、建設用地の買収などに手間取れば事業費が膨らみ、企業側が期待する収益を上げられない懸念もある。大和証券の田井宏介シニアアナリストは「ビジネスチャンスとして大きいが、どれだけリスク回避を交渉に盛り込めるかが課題」と指摘する。

産経ニュース 2013/5/29 20:57)

安倍首相は、成長戦略の柱に原発輸出を掲げる。今春の大型連休には、経済外交と銘打って歴訪したアラブ首長国連邦(UAE)とトルコで、それぞれと原子力協定を結び、サウジアラビアとは協定締結に向けた交渉を進めることで一致した。

トルコでは、東日本大震災後初めて日本企業が主導する原発受注が決まった。朝日新聞デジタルによると、受注するのは黒海沿岸のシノップに建設予定の原発4基で、事業費は220億ドル(2兆円超)以上の見込み。中国や韓国、カナダ企業と競っていたが、三菱重工業を中心とする企業連合が請け負うことになった。

2011年の福島第一原発事故後、日本国内では新設が見込めないなか、国内に1万社あるとされる原発関連企業は、安倍政権の原発輸出の推進に期待を寄せる。

加えて新興国には魅力的な原発市場がある。

例えばインドではすでに20基の原発が稼働中だが、7基が建設中。さらに18基の建設計画がある(世界原子力協会調べ)。海外電力調査会によると、インドでは国民の4人に1人が電気を利用できず、2009年度の一人当たり消費電力量は779kWhと、日本の消費量の2割に満たない。年間、発電量や最大電力で10%もの電力が不足しており、深刻なエネルギー不足は経済成長への懸念材料となっている。そのため、インドは福島第一原発事故ごも原発の建設を推し進める。

インドは福島第一原発事故をどのように見ているのだろうか。

ジャーナリストの三神万里子さんは「WEBRONZA」でこの事故がインドでの原発急増計画に反対論を巻き起こしただけでなく、推進する根拠にもなったと指摘した。記事の中で、推進論者の一人・アブドゥル・カーラム元首相が「40年も経った古いプラントに歴史的な自然災害が重なった福島第一原子力発電所の事故は、インドの経済成長を止める理由にはならない。福島と違い、インドが持っている技術は次世代の夢の原子力燃料、トリウム原子力発電なのだ」と地元紙に述べたと紹介。「福島の原発事故は均質に秩序立った清潔な社会の中で起きており、文字の読める良質な作業員によって、平和的に解決の道に進んでいる。医療や保健制度の整備された中で起きている事象で、底なしの貧困層をかかえるインドと比べれば重篤な状況ではないと映る」と論じている。(WEBRONZA 三神万里子「インドから見る福島第一原発事故」2012/02/15より)

原発輸出については、「福島第一原発事故の教訓は」「経済優先すぎるのではないか」との声もあがる。安倍首相の成長戦略の柱に掲げられる原発輸出。これからも動向が注目される。

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