韓国の経済問題は、日本のせいではない。両国の株式市場を見ると、この主張は信じられないかもしれない。日本企業は円安を背景に、世界の市場シェアを韓国のライバル企業から奪回できると確信した投資家は、今年に入って現在までに、およそ750億ドル相当の日本株を取得した。
それとは対照的に、韓国市場では、外国人投資家が60億ドル近くの株式を売却した。
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韓国にとって、何が問題なのかは自明なように見える。円相場がここ1年で、ドルに対して20%下落したのに対して、ウォンは対円で30%強も上昇している。理論上は、韓国の輸出品は日本と比べて割高となり、その結果、日本企業は韓国のライバルに打ち勝ち、より多くの円を本国に持ち帰ることができる、ということになる。
ただし実際は、理論通りの展開にはなりそうもない。日本の輸出企業はすでに、生産の多くを海外に移している。円の変動は海外生産のコストには影響しないため、円下落が長期的に続いたとしても、韓国メーカーの競争力が低下するとは限らない。
UBSのシニアグローバルエコノミスト、ポール・ドノバン氏は「韓国の輸出企業からは、円安は韓国にとってマイナスとの声が聞かれるが、それは立証されてはいない」とし「韓国企業がシェアや利益を失うことを意味しない」との見方を示した。
たとえば、2013年1─3月期に、トヨタの販売台数が5%減少したのに対して、韓国のライバルである現代自動車
欧州の低迷や世界の成長鈍化が輸出の重しになっている点は、日韓とも同じだ。
韓国は、輸出が国内総生産(GDP)の半分以上を占めることから、世界の貿易の状況を見極めるための判断材料とされがちだ。そのため、欧米への出荷減少を背景に、第1・四半期に輸出の伸びが鈍化すると、株式市場にとって凶兆と考えられた。
日本の輸出統計もそれほど良い内容とは言えない。日本の輸出は第1・四半期、円ベースでは1.2%増加したが、ドルベースや数量ベースでは、11%減少した。
<円安、市場シェア拡大に直結せず>
円安になっても、日本企業の海外市場シェアがすぐに高まるわけではない。産業統計の専門会社オートデータによると、トヨタと現代自動車は第1・四半期、両社が最も僅差の競争を繰り広げている米国市場で、米国内メーカーにシェアを奪われた。
為替相場の変動は、少なくとも即座には、市場シェアの変化につながらない。国際的な企業は、為替変動と同じペースで販売価格を変えるわけにはいかないからだ。
UBSによると、自動車やトラックを含む日本の輸送機器メーカーは、ここ1年の値下げ幅が約1.1%にとどまった。逆に韓国勢の値上げ幅は約1.2%だった。
理由の1つは、為替は海外生産のコストを変化させないからだ。日本の大手輸出企業は費用削減のため生産の多くを既に海外に移している。日本の輸出は今や、GDPの12%。その額は、日立
販売全体に占める輸出の比率が小さくなっているなか、円の相場安が日本経済をどれだけ支援するかは、増える円の儲けを企業がどう、活用するかにかかっている。
BDTインベストで日本ポートフォリオを運用するサイモン・ドブソン氏は「下期、そして2014年に向けて注目すべきは、競争力向上が日本経済全体の押し上げにつながるかどうかだ」と指摘する。「利益が増加して、投資増や雇用・生産の拡大、ひいては、消費増につながるのか、注意して見ていきたい」との姿勢を示した。
韓国の製造業セクターも空洞化が進んでいる。国家IT産業促進局によると、サムスン電子など韓国メーカーが昨年販売した携帯電話のうち80%以上は、国外で生産されたものだった。現代自動車でも自動車のほぼ60%が海外での生産だという。
輸出と製造業が韓国経済に及ぼす影響力は大きいとは言え、創出する雇用は縮小している。昨年は製造業の雇用者数が全体に占める比率は16.6%を割り込んだ。
若年失業率が全体の2倍以上になるなか、輸出のためにウォン安を志向するのは政治的に不適切となっている。朴槿恵大統領は先の選挙戦で、輸出よりも国内の雇用を重視する姿勢を表明、物価上昇や家計の債務拡大について対策をとると約束した。
BDTでアジア関連ファンドの運用を担当するロブ・ブレウィス氏は「ウォン・円レートがこうした水準になったのは、韓国企業にとって、タイミングがいいとは言えない。ただ、これは韓国が直面する唯一の問題ではない」との見方を示している。[23日 ロイター]