女性手帳だけじゃない少子化危機突破の「切り札」

「シングルマザーをもっと社会的に受け入れる」「フレキシブルな働き方を積極的に認める」――。日本の少子化に歯止めをかけるため、政府に大胆な提案をしている25歳の女性がいる。少子化対策を議論する内閣府の「少子化危機突破タスクフォース」(主宰:森雅子少子化担当相)の最年少委員で、「ミスインターナショナル2012」である吉松育美さんだ。若い女性への啓蒙を目的にした「女性手帳」の配布を検討しているタスクフォースに対する批判が高まる中、これから子供を産み育てる若い世代である吉松さんの“等身大の声”に今、ネット上で熱い支持が集まっている。

■少子化危機突破タスクフォース委員、ミスインターナショナル2012 吉松育美さん

 「シングルマザーをもっと社会的に受け入れる」「フレキシブルな働き方を積極的に認める」――。日本の少子化に歯止めをかけるため、政府に大胆な提案をしている25歳の女性がいる。少子化対策を議論する内閣府の「少子化危機突破タスクフォース」(主宰:森雅子少子化担当相)の最年少委員で、「ミスインターナショナル2012」である吉松育美さんだ。若い女性への啓蒙を目的にした「女性手帳」の配布を検討しているタスクフォースに対する批判が高まる中、これから子供を産み育てる若い世代である吉松さんの“等身大の声”に今、ネット上で熱い支持が集まっている。

 半世紀の歴史がある「ミスインターナショナル」で昨年、日本人として初めて優勝した吉松さん。その華やかな経歴は、大学教授や県知事など重鎮が居並ぶ委員15人の中で、少し異質にみえる。なぜ、吉松さんはタスクフォースに抜擢されたのだろうか。

 「ミスインターナショナルで世界一になってから、仕事で海外を訪れ、女性リーダーたちに会って、世界の女性たちの状況を聞く機会が増えました。それをたまたま、ご存知になった森大臣から、『ぜひ20代の意見とともに、いち女性の意見をタスクフォースに反映してほしい』と言われ、委員になりました。私も女性として日本の女性がもっと輝ける未来を一緒に作っていきたいと思っていたので、とても光栄です」

 ミスインターナショナルは、単に美を競うコンテストではなく、国際的な社会貢献を目指す女性に与えられる栄冠という。その活動は多岐にわたり、吉松さんは今年1月、ワーキグマザーでもあるナンシー・ペローシ米下院議長に招待を受けて、バラク・オバマ大統領の就任式に出席。4月には米カルフォルニア大学でフェミニズムの運動家やサクラメント市初の女性市長とともに、女性リーダーを集めたフォーラムを開催している。実際に世界で活躍しながら子供を産んで育てている女性たちに会って感じたのは、日本との違いだった。

■男女平等の国は出生率も高い

 「タスクフォースでも、ある教授が言っていたのですが、『女性の就労参加率の向上は出生率を下げる』というのが一般的な認識です。でも、昨年、世界経済フォーラムが出した男女平等指数で上位を占めた北欧の国々の出生率をみると、日本をはるかに超えています。男女平等の社会は、出生率も高い。日本で認知されている常識が、世界では覆されるわけです」

 日本でも出生率を上げるべく、今年3月、森少子化担当相の肝入りでこのタスクフォースは立ち上がった。森少子化担当相は会見で、「結婚、妊娠、出産、育児の全てのステージにおける課題の解消を目指すとともに、家族を中心に置きつつ地域全体で子育てを支援していく取組の推進等について意見交換を行うもの」とその目的を明確にしている。タスクフォースは、5月中に具体策をとりまとめ、6月にも策定される政府の「骨太の方針」に反映させたい考えだ。

 ところが、議論が佳境を迎えた5月7日の会議。具体策のひとつとして、若い女性を対象に妊娠や出産の知識を啓蒙する目的の「女性手帳」を配布する方針が報道されると、ツイッターやフェイスブックでは「どうして女性にだけ配布するのか」「時代遅れ」といった批判が集中した。

 タスクフォースに対する失望感がつのる中、多くの女性から高い評価を受けたのが、4月16日の会議で提出された吉松さんの「意見書」だった。タイトルは「日本におけるWomenomicsソリューション」。4つの対策が主軸で、職場でバランスの取れた男女構成比を定めるクオータ制の導入や、育児ケアサービスの充実、在宅勤務やフレックスタイムなどの導入による育児と仕事の両立などが掲げられている。

 特に注目を集めたのが、離婚率と未婚率の上昇により近年、増加傾向にあるシングルマザーへの対策だ。

 「時代の変化とともに、女性のあり方も変わり、夫はいらないけど子供がほしい女性も増えています。しかし、厚生労働省の調べではシングルマザーの就業率は84.5%と高いものの、半数以上が非正規雇用で貧困に陥りやすい。私たちは意識を変え、シングルでの子育てを希望する女性にも、インセンティブが与えられる社会にしてゆかなければなりません」

 吉松さんの意見書は、未婚の男性と同じ税率であるシングルマザーに対する所得税の優遇や、シングルマザーを正社員として雇った企業に対する法人税の優遇を訴えている。

 「女性ばかりにインセンティブを与えても、社会は動かない。企業にもインセンティブを与えることで、良い循環が生まれると思っています。それから、シングルマザーに限らず、子供を生みたいというモチベーションを女性に上げてもらうためにも、お子さん1人につき所得税を何%下げるといった、具体的に目に見える対策を取ってゆく。そうすれば、女性が子供を産みやすくなるのではないでしょうか」

■ソーシャルメディアで支持された「意見書」

 この意見書がタスクフォースのサイトで公開されると、ソーシャルメディアで拡散され、「女性手帳よりこちらを重視してほしい」「どうしてこちらを記事にしてくれないのか」など、ツイッターやフェイスブックで女性を中心に賛同の声が広がっていった。

 多くの女性たちの心に響いたこの意見書。実は、吉松さん自身の生い立ちが深く影響している。「私は九州生まれなのですが、両親が教師という共働き家庭にも関わらず、昔のままの習慣が残っていました。父は家で何もせず、家事や育児はすべて母がやっていて、幼いながらも『どうしてママも働いているのに、おうちで平等じゃないの?』って疑問を持って育ちました」

 進学した聖心女子大学でも、男女平等や女性の社会進出について勉強。常に女性が抱える問題を意識していたという。そんな吉松さんの意見書は、まさに“等身大”の声だったわけだが、追って公開された同日の議事録を見ると、委員による自由討議で「女性手帳について議論が活発に行われた」という記述があるものの、意見書で提案されたテーマについては深く話し合われた様子はなかった。

 実際、タスクフォースでこの意見書はどのように受け止められたのだろうか。

 「意見書に対する反応はさまざまでしたが、森大臣は感銘を受けてくださいました」と手応えは感じている。また、委員の一人である日本マクドナルドの原田泳幸会長兼社長も「吉松委員に賛同できる」と話したという。「シングルマザーの響きがネガティブに聞こえてしまうので、文化を変えるためにもシングルマザーではなく、ワーキングマザーと呼んだらどうかという提案もしたのですが、ある女性委員の方からは、『あなたの意見は愛がある』と言っていただきました」と笑う。

■「女性手帳はオンライン管理を」

 また、吉松さんは批判されている「女性手帳」についても、アイデアを持っている。

 「森大臣の『女性の体に対して適切な情報の啓発が必要』という思いで検討されている女性手帳ですが、一部メディアの報道による誤解もあります。決してこれは女性の結婚、出産を強制するようなものではありません」と前置きした上で、こう提案する。

 「ただ、女性手帳を印刷物にしてしまうと、例え1冊50円だったとしても、全女性に配布となると非常にコストがかかってしまいます。また、10代や20代の女性は、ファッション雑誌が売れなくなったことでもわかるように、紙媒体に目を通さなくなってきています。スマートフォンが普及し、ネットが自由に使えるようになったため、情報はすべてオンラインで取得しているからです。女性手帳も、オンラインで管理をするとよりスムーズ、かつ利便性も高いのではないでしょうか」

 女性手帳のオンライン管理には、メリットも多いと指摘する。「まず、日々進化している医療情報のアップロードが簡単。また、登録されている女性へ、直接色々なサービスの提供もできます。例えば、マイレージカードが個人のポイント状況やその月のサービスなどを頻繁にダイレクトメールで通知するように、政府の新しい女性サポートや政策など、日本の女性に知ってほしい情報を通知することが可能です。紙媒体ではこのようなリアルタイムのコミュニケーションは不可能ですが、オンライン管理なら、その使い道は無限大に広がります」

 吉松さんはこの女性手帳についてのアイデアも含めて、再度「意見書」のプレゼンテーションを行うつもりだ。「少子化危機突破タスクフォースは、文字通り、本当に今すぐ突破しなければいけない問題を抱えています。かつてないような即効性のある、アグレッシブな対策をとっていかなければいけないと思っています。そのためにも、この『Womenomics』を実現させたいです」

 果たして、吉松さんの「意見書」とそれを支持する女性たちの声はどこまで政策に反映されるのか。最後のタスクフォースは、5月下旬に開かれる予定だ。

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