厚生労働省が一般用医薬品のインターネットでの販売を容認する方向で最終調整に入ったと話題になっている。
2009年の薬事法改正で、一部の薬品がインターネットを含む通信販売できなくなったが、2012年4月に東京高等裁判所が判決を出していた。
■2009年の改正薬事法の施行とは
問題となっていた医薬品の通信販売規制とは、安全を確保できないとの理由から、第1類及び第2類医薬品の通信販売を禁止したもので、2009年6月1日施行された。
医薬品には、副作用の危険性が高いものから低いものまで、第1類~第3類に分けられているが、かつて大衆薬のネット販売は事実上認められていたが、2009年の改正薬事法の施行で、第1種〜第2種の一般医薬品の約67%が通販で販売できなくなっていた。
■市販薬の商品例
・第1類:ガスター10(胃腸薬)、ロキソニンS(解熱鎮痛薬)、リアップX5(育毛剤)、ニコチネルパッチ20(禁煙補助剤)
・第2類:バファリンA(解熱鎮痛薬)、新ジキナエース(風邪薬)
・第3類:ハイチオールC(ビタミン剤)、ザ・ガードコーワ(整腸剤)
■2012年4月の東京高裁判決
これに対し、医薬品・健康食品のネット通販を行うケンコーコムとウェルネットは国を提訴。東京地裁の判決では、対面販売とネット販売を比較して、副作用被害を防ぎ安全を確保するための合理的規制であり、適法であると判断し、原告側が敗訴した。
しかし、2012年4月には、改正薬事法にはネット販売を禁止する規定はないとして、厚労省の省令による販売規制は違法との判断を東京高裁が下し、逆転。2013年1月には、最高裁によっても違法と認定された。判決の後には、ルールがないために事実上ネット販売が解禁された形となっていると、公明新聞が報じている。
医師の処方箋なしで買える医薬品(市販薬)のインターネット販売が1月11日から全面解禁され、それまでネットでは買えなかった風邪薬や胃腸薬などが自由に買えるようになっています。薬のネット販売を禁じた厚労省令を最高裁が「違法で無効」と判断したためで、ネット販売の薬局・薬店は150店舗にも上っています。
(公明新聞 2013年5月6日付)
■アベノミクス、医療という成長分野
アベノミクスでは成長分野として医療を掲げるが、これを推進するには、官庁間の連携が必要と産経ニュースが報じている。
厚労省は「自己責任で救えない人を救うために公的医療がある。人命にかかわる問題は譲れない」として、ときには業界団体、厚労関係議員とタッグを組んで規制緩和のデメリットを強調し、抵抗してきた。
これに対し経産省は、公的医療費の軽減に加え「医療機器や薬のマーケット拡大で経済活性化のメリットが期待できる」と規制緩和の推進を主張。健康・医療戦略推進本部を除く3組織を動かして厚労省の押さえ込みにかかっているのだ。
(産経ニュース 2013.4.9 14:31)
市販薬のネット販売については、厚労省が「一般用医薬品のインターネット販売等の新たなルールに関する検討会」を設置。2月から議論が続いているが、今回日経新聞で報道されたのは、4月29日に開かれた第7回目の会合の資料の内容と、それをふまえた5月10日に開かれる、第8回目の会合の内容とみられる。
ネットでの販売ルール案としてテレビ電話などを使うことが検討されていると報道されているが、これに対してインターネットユーザーの間では、下記のような声が上がっている。
テレビ電話が使える環境の人はそんなに多くないでしょ。既得権益への配慮っすか。名ばかり規制改革だね。
— kinjo.takumiさん (@tkinjo1) 2013年5月9日
テレビ電話かょ。全員がFaceTimeやSkypeを使えるとは限らない、売る側も買う側も。。
— 石川和男さん (@kazuo_ishikawa) 2013年5月8日
テレビ電話でのやり取りを義務づければ、ネット薬局は24時間体制で薬剤師をカメラの前に配置するのだろうか。ネット販売の利点の1つは深夜でも買える点。どうもよく分からない。
— 小栗太@日経さん (@ogurifutoshi) 2013年5月9日
第2類にまでテレビ電話を求めるのは明らかな規制強化。第1類も実店舗では薬剤師の質問に「はい」と答えるだけなので、現状の規制の意義から考えてはどうか。
— OIS hihiさん (@oishihi) 2013年5月9日
あくまでも対面販売という実行されてない建前を通し抜きたいらしい。もはや厚生労働省解体すべき。RT @kazuo_ishikawa: テレビ電話かょ。全員がFaceTimeやSkypeを使えるとは限らない、売る側も買う側も。。nikkei.com/article/DGXNAS… …
— 夏野 剛 Takeshi Natsunoさん (@tnatsu) 2013年5月9日
しかし、薬のネット販売のルール作りについては、急ピッチで進んでいると通販新聞が、第7回の会合の様子について報じている。
特に、5月末で離島居住者や継続利用者を対象に第2類医薬品の通販・ネット販売を認める経過措置が期限切れとなること、政府の規制改革会議でも医薬品ネット販売のルールに関する検討を進めているといった状況から、各委員の間でも、早期に具体的なルール作りの議論に入らなければならないという意識が強まっているもよう。これは、遠藤座長の議事進行にも表れている。
(通販新聞 2013年4月29日 14:35)
そんな中、8日、医薬品のネット販売を強く訴えてきた、新経済連盟の三木谷浩史代表理事(楽天会長兼社長)が、夏の参院選で、IT活用を積極的に推進する候補を政党を問わず応援する方針を明らかにした。
時事通信によると、下記のように報じられている。
具体的には、さまざまな経済活動の基本とされる「対面・書面交付原則」の撤廃や医薬品販売でのネットの積極活用などを掲げる候補をサポートする。国会議員らからの聞き取りを経て、今後2週間程度で支援候補を選出する方針だ。
(時事通信 2013/05/08-11:55)
電通が3月27日に発表した「市販薬のインターネット販売に関する意識調査」では、市販薬のインターネット販売に賛成6割、反対1割、消費者の約8割が、インターネット販売での購入意向ありとなっている。
薬のネット通販は、まだ早いのか、それとも今はじめるべきなのか。
厚労省検討会のこれからの会合の内容にも注目が必要だ。
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