ハチロク世代、ネット選挙で動く

国会議事堂を背景に、大きく「解禁」の文字が書かれた紙を掲げて笑う若者たちの写真。 彼らは、インターネットを利用した選挙を可能とする公職選挙法の改正を呼びかけてきた(ワンボイスキャンペーン)の中心メンバーだ。 ほとんどが20代。帽子にデニム、サンダル履きという思い思いの格好で、4月19日、国会に乗り込んだ。「インターネット」と網の「ネット」をシャレたつもりで持ってきた虫取り網は持ち込めなかったが、この日、改正案が無事に可決されるのを傍聴席で見届けた。

ネット選挙解禁を呼びかけた「One Voice Campaign」発起人、原田謙介さん

 国会議事堂を背景に、大きく「解禁」の文字が書かれた紙を掲げて笑う若者たちの写真。

 彼らは、インターネットを利用した選挙を可能とする公職選挙法の改正を呼びかけてきた「One Voice Campaign」(ワンボイスキャンペーン)の中心メンバーだ。

 ほとんどが20代。帽子にデニム、サンダル履きという思い思いの格好で、4月19日、国会に乗り込んだ。「インターネット」と網の「ネット」をシャレたつもりで持ってきた虫取り網は持ち込めなかったが、この日、改正案が無事に可決されるのを傍聴席で見届けた。

 「ネット選挙解禁!! 記念に国会前で。立場、年齢を超えた多くのメンバーと多くの協力者の皆さんに助けられ活動を始めて約一年。ついに解禁!」

 可決直後に撮影した写真とともに、こうツイッターに書き込んだのは、右から3人目に写る「One Voice Campaign」の発起人、原田謙介さん。昨年5月にキャンペーンを立ち上げ、ネット選挙解禁に向けてさまざまな活動をしてきた。

 「この1年間は長かったか、短かったかで言えば、予想よりは長かったですね。当初はネット選挙なんて、ツイッターで検索しても誰もつぶやいてなかったし、メディアも注目していなかった。でも、可決された日は、色々な人がソーシャルメディア上で解禁を喜んでいて、うれしかったです。僕もフェイスブックで、たくさん『いいね!』がつきましたし」

 5月10日、27歳になる。原田さんたち1986年生まれは「ハチロク世代」と呼ばれ、子供の頃からネットや携帯に親しんできたデジタルネイティブとして、ソーシャルメディアやIT企業で今、注目を集めている。原田さんも当たり前のようにネットを使いこなす一方、サッカーと映画が大好きで、仲間4人とルームシェアをしながら暮らすハチロク世代。そんな今時の若者である原田さんが政治と深く関わるようになったのは、なぜなのだろうか。

 高校生の頃、「世の中に広く関わりたい」と思い立ち、政治家を目指した。東京大学に進学すると、実家の岡山県に地盤のあった国会議員の事務所に飛び込み、インターンに。2年間、政治家の鞄持ちや選挙の手伝いをしながら、政治の現場に浸かった。

 そこで、疑問に感じたのは、「政治家たちは本当に若い世代のことを考えて行動しているのか」ということ。日本の民主主義は、「シルバーデモクラシー」と揶揄されることがある。人口も多く、投票率も高い高齢者層向けの政策ばかりが優先されるという批判からだ。一方、同世代の友人たちも政治から遠かった。

「政治家と若者をつなぐ存在に」

 「大学の友達は『ハラケンは変わってるな』と言うだけで、政治にあまり興味を持ってくれなかった。『自分が投票しても何も変わらない』というあきらめもある。でも、丁度リーマンショックがあって、みんな就職できなくなるのではと不安がっていた。こんな状況は絶対によくない。日本を変えてゆかないといけない。変えてゆくのは若い力だし、大きな力を持っている政治なのだから、もっと若い世代と政治家をもっと結びつけないと思いました」

 そうして「20代の投票率向上」を目指し、2008年に学生団体「ivote」を結成。政治家と若者の交流をうながすイベントを次々と企画し、メディアでも注目を集めた。大学卒業後もそうした活動を続け、今年1月にはNPO法人「YouthCreate」を設立、現在は代表を務めている。そして、若者と政治家をつなげるという目標の延長線上に、今回のネット選挙解禁という課題があった。

 しかし、原田さんたちの活動は、これまであったような若者による過激な政治運動のイメージとは、まったく違う。緩やか、かつ、しなやか。仲間数人で始めた「One Voice Campaign」も、ソーシャルメディアやキャンペーンサイト「Change.org」(チェンジ・ドット・オーグ)で、メンバーや支援してくれる人が増えていった。文字通り、ネット選挙解禁に向け、ひとりひとりの声を集めてきたのだ。

 「フェイスブックにメンバーで作っているグループがあって100人ぐらいいますが、僕ですら会ったことがあるのは30人ぐらい。組織という感じではないですね。たとえば、最初の頃は著名な人にお願いして、ネット選挙解禁に賛同するメッセージの動画を撮影していたのですが、じゃあ編集できるやつ誰かいない?って探して、仲間の友達がやってくれたり」

 ネットでつながるだけではない。国会議員や有識者を巻き込んだイベントを何度も開催、3月にも東京・永田町の衆議院第一議員会館で、国会議員らとシンポジウムを開いた。会場は満席、ボランティアのスタッフには高校生もいた。「政治家の人には驚かれました。高校生や金髪の若者がこんなに政治に興味を持ってくれてるって。金髪のメンバーはいなくて、たぶん、茶髪だったと思うのですが、そういう印象だったんでしょうね」と笑う。

 「でも、政党内で反対されながらもネット選挙を解禁しようとしていた議員さんたちの背中を押すことはできたと思っています。政治家ががんばってくれたら、国民だって応援しないと。敵もたくさんいるけど、戦って倒すのではなく、こんなふうにした方が楽しいよねって、一緒に作ってゆくイメージ。政治と僕たち、相互作用で前へ進んでいけるといいなあと思っています」

 総務省によると、昨年12月に行われた総選挙の投票率は、20歳から24歳の年代が35.30%で最も低く、65歳から69歳までの縁台が77.15%で最も高かった。これを逆転できるのか。原田さんの視線は今、この夏に行われる参議院選挙へと向けられている。

 「ネット選挙が解禁した結果、誹謗中傷の嵐になっただけだったと絶対に言われたくない。みんながそれぞれの立場で動いて、良い選挙にしなければいけません。僕たちも、若い世代の投票率をあげるためにがんばります」

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 ソーシャルメディア時代が到来、これまで散在していたひとりひとりの声をつなげ、ボトムアップで政治や社会をよりよい方向に変えてゆこうとしている人たちが登場しています。ハフィントン・ポスト日本版では、連載「変えるのは、あなただ」で、そうした人たちとその活動を紹介します。連載「変えるのは、あなただ」はこちらからお読み頂けます。

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