あなたの息子の就職先は、日本を代表するグローバルブランドか、ブラック企業か――。朝日新聞の4月23日付の記事によると、「ユニクロ」を展開するファーストリテイリングの柳井正会長兼社長は、店長候補として採用した全世界で働く正社員すべてと役員の賃金体系を統一する「世界同一賃金」を導入する考えを明らかにした。同日付のインタビューで、柳井社長は以下のように答えている。
――いまの離職率が高いのはどう考えていますか。
「それはグローバル化の問題だ。10年前から社員にもいってきた。将来は、年収1億円か100万円に分かれて、中間層が減っていく。仕事を通じて付加価値がつけられないと、低賃金で働く途上国の人の賃金にフラット化するので、年収100万円のほうになっていくのは仕方がない」
――付加価値をつけられなかった人が退職する、場合によってはうつになったりすると。
「そういうことだと思う。日本人にとっては厳しいかもしれないけれど。でも海外の人は全部、頑張っているわけだ」
「僕が心配しているのは、途上国から海外に出稼ぎにでている人がいる、それも下働きの仕事で。グローバル競争のもとで、他国の人ができない付加価値を作り出せなかったら、日本人もそうやって働くしかなくなる。グローバル経済というのは『Grow or Die』(成長か、さもなければ死か)。非常にエキサイティングな時代だ。変わらなければ死ぬ、と社員にもいっている」
(朝日新聞デジタル 「「年収100万円も仕方ない」ユニクロ柳井会長に聞く」より。)
ユニクロは言わずと知れた成功企業であり、山口県の小さなアパレル会社を日本を代表するグローバル企業にまで育て上げた柳井社長の経営手腕は世界の注目を集めている。だがこの記事を読む限り、日本を代表するグローバル企業が、必ずしも「働きやすい会社」とはいえないようだ。結局のところ、グローバル化の果てに待っているのは、食うか食われるかの熾烈な競争でしかないのだろうか。
上記の柳井社長のインタビューに対し、若者の就労を支援するNPO「POSSE」の今野晴貴代表はこうツイートしている。
一方で、経営の専門家の間には柳井発言を支持する意見もみられる。
何と言っても「世界同一賃金」である。日本国内で永らく議論されている「同一職種、同一賃金」などは一周遅れ、二周遅れの話になってしまった。日本は雇用を流動化させ、「人材」の活躍が期待出来る場所、適正な職場への再配分を急がねばならない。
(経営プラットフォーム「アゴラ」山口巌氏のブログより。 2013/4/23 10:19)
確かにここ数年、グローバル化に伴う日本の若者の就職難が指摘されている。ユニクロのような製造業が、人件費の安い途上国へ生産現場をシフトさせれば、当然ながら国内では付加価値を生み出す専門的な職種や、特殊なスキルを要する業種以外、労働力は必要なくなる。医療や介護といった慢性的に人材不足の業種もあるが、高い付加価値を求められるほど、若者を取り巻く環境は厳しくなるといえる。リサーチ総研の調査は、「新入社員から将来価値を除くと低スキルの単純労働者となり、フラット化による『同一賃金=同一スキル』のふるいを通じて雇用は自ずと海外に流れることになる。」と指摘する。
こうした背景から、ここ数年、日本企業が続々と進出しているアジアでの海外就職が注目を集めている。アジアには、就職氷河期を経験した20代後半~30代の日本人に対するニーズがあるのだ。朝日新聞GLOBEの1月の記事はこう書いている。
アジアの現地採用の人材市場が活況を呈している。円高や新興国の成長で企業が海外進出を加速させているためだ。海外就職に強い人材紹介会社JACリクルートメントでは、東南アジア4カ国と中国の2012年4~6月の現地採用求人は約3000人。10年4~6月と比べ35%増えた。年率6%の経済成長が続くインドネシアでも同様だ。ジャカルタの人材紹介会社セルナジャヤの邦人担当によると、日本の銀行に内定を取り消されたある新卒女性に7社が殺到、「他社の最高月収に200ドル上乗せする」と言いだす社まで現れた。
(朝日新聞デジタル 「グローブ102号<脱ニッポン>現地採用に活路。挑む若者たち インドネシア、マレーシア」より。 2013/1/6)
そうやって人材への需要が高まるアジアに向かう日本の若者たちは、必ずしも「TOEIC800点」「帰国子女」といったいわゆる「グローバル人材」ばかりではない。中には就職氷河期に社会に出たばかりに、国内でまともな就職ができず、アジアにチャンスを求めた人たちも多い。ユニクロの柳井社長の発言に例を引くまでもなく、国内の雇用市場では、すでに容赦ないグローバル化が進んでいるのだ。
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