過熱せず冷めすぎてもいない微妙な「ゴルディロックス状態」を、金融市場はかろうじて維持している。米経済指標は軒並み市場予想を下回ったが、FRB(米連邦準備理事会)による追加緩和期待が高まるなかで、市場のリスク選好地合いは保たれた。
円は強含みで日本株は調整局面に入っているものの、海外勢の買いが継続しており底堅さもみせる。ただ、3日発表の4月米雇用統計が、すでに期待が低下している市場の予想さえ下回れば、リスクオフが一気に強まる可能性もあり、警戒感は残っている。
<悪すぎなかった米経済指標>
ポイントは米国の経済指標が悪くなりすぎなかったことだ。4月ISM製造業景気指数、4月ADP民間雇用者数、3月建設支出はいずれも市場予想を下回った。だが、ISM指数は50.7と景気判断の分岐点である50をわずかではあるが上回っているほか、新規受注と在庫のギャップは改善傾向が続いている。建設支出も住宅関連は依然堅調だった。給与減税廃止や歳出自動削減による影響は出ているものの、景気回復サイクルが悪化に転じる兆しはまだない。
期待外れの米経済指標が続いていることで、市場はこれまで堅調と信じていた米国景気への警戒感を強めているものの、さえない経済指標は金融緩和期待を強める効果も持つ。1日に発表されたFOMC(米連邦公開市場委員会)の声明が示した景気判断は市場の期待に反しやや強かったが、「適切な政策緩和を維持するため、資産購入のペースを拡大もしくは縮小する用意がある」と表明したことで、経済指標次第では金融緩和加速の可能性もあると受け止められた。米国でディスインフレ傾向が続くことも、追加緩和へのハードルを低くするとみられている。
「ゴルディロックス」とは童話に出てくる少女の名前で、話の中に登場する適度な温度のスープにちなみ、マーケットが心地よい状態にあることを指す。T&Dアセットマネジメントのチーフエコノミスト、神谷尚志氏は、世界景気が緩やかに回復しながらも弱いところが残るため、金融緩和環境が共存することができ、市場のリスクオンの背景になっていると指摘する。「米株は過熱感があり調整する可能性もあるが、景気はそこそこ堅調で、金融緩和期待も下支えすることから大崩れはないだろう」という。
<円高でも買われたハイテク株>
実際、日本株を支える海外勢の買いは継続している。米国の金融緩和期待でドル/円は円高方向に振れており、前場の日経平均
市場筋によると、寄り付き前の外資系証券6社経由の注文状況は40営業日連続で買い越しだ。
ニッセイ基礎研究所・金融研究部門主任研究員の井出真吾氏は「来期の2015年3月期も1─2割の増益が見込める。PER15─16倍とすれば日経平均で1万5000円─1万6000円の水準は正当化される。連休を前に買い疲れが出ているが、増益期待を織り込んでいくなかで株価の上値余地はまだある」との見方を示している。
<米雇用統計悪化なら「ゴルディロックス」崩壊も>
ただ、あす3日には「最重量指標」の米雇用統計が発表されることから警戒感は消えていない。3月の非農業部門雇用者数が8万8000人増と大きく減速したことで、「もし4月も減速し続ければ、景気はソフトパッチ(一時的停滞)とは言えなくなる」(国内銀行)という。金融緩和期待で支えられなくなるほどに景気が悪化すれば、微妙なバランスで維持されている「ゴルディロックス」は崩れてしまう。
ロイター調査によると、4月の米雇用統計のエコノミスト予想は、非農業部門雇用者数が前月比14万5000人増。「弱かったADPなどで市場の期待値は低くなっているが、その市場予想さえも割り込むようであれば、リスクオフムードが強まりかねない」(IG証券マーケットアナリストの石川順一氏)という。
一方、失業率は7.6%で横ばいの予想だが、三菱UFJモルガン・スタンレー証券・チーフ為替ストラテジストの植野大作氏は、FRBが失業率連動型のガイダンスを導入して以降、米国の金融政策運営は「クリスタルクリア」な状態になっていると指摘。「失業率が7%台前半に落ちてくれば『出口』への距離感がぐっと近づいてくるので、伸び悩んでいるドル/円相場に喝が入り、100円トライという雰囲気になってくるだろう。一方、7.7%や7.8%に悪化するようなら、大量資産購入減額の目途と言われている7%への距離感が心理的に遠くなり、ドル/円は反落局面を迎えそうだ」との見方を示している。
(ロイターニュース 伊賀大記;編集 久保信博)[東京 2日 ロイター]