米国のネットメディアはどうも、広告であることを明示したくないようだ。広告掲載ネットメディアの覇者であるグーグルや、メディアブランドの頂点に立つNYタイムスまでが、こっそりと時間をかけて広告であることを分からないようにしている。広告と編集の境界があいまいなネイティブ広告の台頭に伴い、メディアサイト側で広告であることを隠そうとする動きがいつのまにか広がってきているのである。
米国では今年の夏以降、ネイティブ広告における編集と広告の分離論争が、再び燃え盛っている。論争の火付け役になったのが、ケーブルテレビ局HBOのトークショー「Last Week Tonight With John Oliver」であった。8月3日付け番組のテーマにネイティブ広告が取り上げられ、多くの米国の一般消費者にもネイティブ広告の存在が知られるようになったからだ。毎週日曜日に放送されるこの番組は、その後すぐにYouTubeなどにもアップされるのだが、ネイティブ広告特集の番組はYouTubeだけで約260万回も再生され、約1950件のコメントや約2万5000件のI like this が寄せられるほど注目された。ところが番組では、編集コンテンツと見せかける広告手法が消費者をだましていると、ネイティブ広告を厳しく批判。こうなると業界としても無視できなくなった。
ネイティブ広告は、広告主やメディア社などの提供者側のニーズよって生まれた広告形態である。消費者(ユーザー)側から要望があったからではない。それだけに業界としても、消費者から不信を抱かれないように対応すべきことは認識していた。昨年末もFTC(米連邦取引委員会)だけではなくて業界団体の米IAB(The Interactive Advertising Bureau)からも、消費者にとって編集と広告が明確に見分けられるよう、ネイティブ広告の明示性が強く推奨されていた。大手メディア社はこぞって、広告であることを明示するラベリングを実施していると、型通り主張してきた。ところが消費者の視点からは、編集コンテンツと広告コンテンツがあいまいになってきているようだ。特に、HBOの番組以降、あいまいになってきているとの指摘が増えてきた。
グーグルのペイドリンク
つい最近も、消費者団体からの苦情に応えて、FTCが再び警鐘を鳴らさざる得なかった。ウォール・ストリート・ジャーナルに記事によると、グーグル、ヤフー、マイクロソフトの検索サービスに対して、検索連動広告について広告であることをはっきりと消費者に示すように、FTCが強く警告を発したのだ。
検索サービスでは、オーガニックな検索結果(編集コンテンツに相当)に合わせてペイドリンク/スポンサードリンク(広告コンテンツに相当)を表示する場合が多い。いわゆる検索連動広告である。IABが昨年12月に発行した"THE NATIVE ADVERTISING PLAYBOOK"では、この検索連動広告をネイティブ広告の一つのタイプとして付け加えている。それだけにFTCとしては、ペイドリンク(ペイドサーチ)を掲載するネイティブ広告枠に対して、広告であることをより明確に表示するように警告したことになる。
検索広告市場は、全インターネット広告売上高の半分近くを占めるほど、巨大である。一般に、ペイドリンクを消費者がクリックするたびに、広告料が検索サービス会社に支払われる。そこでクリック率を高めるためには、ペイドリンクを"広告"とあからさまに表示したくない。広告と分かると、それだけでクリックしない人がいるからだ。オーガニックな検索結果の流れの中でペイドリンクに接してもらえれば、クリック率が高まるというわけだ。つまり、オーガニックな検索結果とペイドリンクとの識別をあいまいにした方が、検索広告売上高が跳ね上がることになる。
検索広告メディアのトップランナーであるグーグルが、検索広告の透明性にどう対処してきたかが気になるところである。2000年代の早い時期には、ペイドリンク枠の背景に緑色か紫色のシェーディングを施しており、はっきりと識別させていた。ただラベリングについては、"Ad"を避けて"Sponsored"を使う場合も少なくなかった。その後、グーグルは毎年少しずつペイドリンク枠の背景色を薄めていき、とうとう今年、オーガニックな検索結果と同じ白色にしてしまったと指摘されている(グーグルが12年かけて、背景色をなくしていったプロセスを、Benjamin Edelman氏が「Google's Advertisement Labeling in 2014」で詳しく紹介している)。
Google Search(英語版)の例として、 先ほど"nyc hotel"で検索してみたので、その検索結果ページを以下に示す。中央欄に掲げられている上三つは、ペイドリンクである。上二つには黄色のAdでペイドリンクであることが示されている。三つめはSponsoredと小さくラベルが付いていた。右サイドにペイドリンクが並んでいたが、最初に黄色のAdsが付いているだけであった。 中央欄の四つ目以降がオーガニックな検索結果である。
ペイドリンクの背景色が無くなっているので、直感的に広告っぽくなっていない。今年第3四半期の同社売上高の伸びが市場予想を下回ったが、その原因としてペイドリンクのクリック数の伸びが鈍化していることを挙げられている。それだけに広告色を薄めたいのであろう。
FTCの警鐘に対しても、まともに受け入れるかどうか疑わしい。ただ、HBOの番組の影響もあって消費者からの反発が大きくなる心配もあるので、どこまで検索広告の明示性を高めていくべきか微妙なかじ取りが必要であろう。
ところで今ブームになっているネイティブ広告で注目が集まるのは、既に巨大市場が成り立っている検索サイトではなくて、これから市場を形成していこうとするパブリッシャーサイトやソーシャル系サイトにおいてである。そこで新聞や雑誌のような伝統メディアも含むパブリッシャーサイトでは、同じようにネイティブ広告と編集の識別問題が持ち上がる。特に編集の独立性を看板にしてきた伝統メディアサイトで、ネイティブ広告の透明性をどの程度果たせるかが課題となる。
NYタイムズのネイティブ広告
HBOのネイティブ広告番組が放送された2日後に、それに応じた形で、広告関連ニュースサイトのAdvertisingAgeがニューヨークタイムズ(NYT)サイトのネイティブ広告の透明性を検証していたので、それを紹介する。NYTは今年の1月初旬から、Webサイトでネイティブ広告を正式に導入した。クオリティーペーパーであることを売りにしているNYTとしては、当然のようにネイティブ広告の明確なラベリングの重要性を繰り返し強調していた。最初に投稿したNYTのネイティブ広告事例を見ていこう。Dellが広告主である。
NYTのような大手パブリッシャーサイトでは通常、広告主のためのコンテンツをメディア内のコンテンツスタジオが制作し、それをメディアのドメイン内に配する。つまり投稿する。そのネイティブ広告コンテンツへのアクセスを、メディアドメイン内あるいは外部から誘導するように仕向けていく。問題は、NYTサイト内で、ネイティブ広告コンテンツや誘導リンクが、広告主のペイドポストであることを消費者が認識できるようになっているかである。上のスナップショットからも分かるように、ペイドポストであることを厳格に知らせていると言える。まず枠の四方を淡い青色のボーダーで囲み、頭に"Paid For And Posted By Dell."と示し、その下の濃紺色の帯上にDellのロゴを配している。さらにポストコンテンツの筆者名の近くにも、Dellのロゴを置く。ここまで徹底すれば、ペイドポストであることは明白だ。
さすがにNYTであると、感心したのだが。でもやっぱりというか、広告主などのマーケッター側から、ペイドポストを強調したラベリングに対して苛立つ声が湧き出てきた。せっかく多くの費用をかけて、編集記事を凌ぐほどの優れたコンテンツを提供しようとしているのに、あからさまに広告主によるコンテンツだと知らされると、そのコンテンツの良し悪しを判断しないで、消費者がペイドポストをパスしてしまうと懸念しているからだ。
そこでNYTは、ChevronやNetflixが広告主である最近のネイティブ広告では、ペイドポストであることを示すラベリングを一気にトーンダウンさせてきている。以下は、Chevronのペイドポストである。頭には"Paid For And Posted By Chevron."でなくて、単に"Paid Post," で済ませている。企業ロゴも、半年前のDellの場合のような濃紺色の帯を外してしまい、目立たないように配していた。さらに筆者名と企業ロゴの組み合わせ表示も消えていた。
ペイドポストであることを目立たないようにしたのだ。こうすることにより、ペイドポストを読んでもらえる割合が増えると見込んでいるのである。グーグルやNYTのようにメディアのブランドを最も重視しているトップランナーですら、ペイドポストになるべく広告の印象を与えたくないのである。
ネイティブ広告のエコシステムが定着するのは2年先か
なるべく広告であることを隠そうとするのは、伝統メディアの広告に比べて、インターネット広告がまだ消費者から十分に受け入られていないからである。これまでネットメディアでは押しつけがましい広告や怪しげな広告が散見されていたため、消費者から敬遠されがちで、実際にディスプレイ広告のクリック率が年々下がってきていた。つまりインターネット広告に拒絶反応を示す消費者が多いのである。
ネイティブ広告が生まれてきた背景も、インターネット広告が消費者からもっと受け入れられる存在にしていきたいという願いがある。そこで広告を編集と同じような体裁(フォーマット)で見せることにより、なるべく広告を読み飛ばされないようにし、さらに広告コンテンツも編集コンテンツと同じように消費者にとって役に立ったり楽しめるものにして、消費者に受け入れられようとしているのだ。
実際に、ネイティブ広告を編集と同じような体裁で見せることにより、読み飛ばされることの多かったこれまでのディスプレイ広告に比べ多くの消費者の目に留まり、読まれるようになった。このため、軌道に乗ってきた米国のネイティブ広告では、これまでのネット広告に比べて広告単価を高く設定できるようになっている。メディアにとっても有望な広告商品となってきたのだ。
ただこの時期に広告であることをあまりにもはっきりと明示することは、せっかく急成長し始めたネイティブ広告ビジネスにブレーキをかけることになりかけないと、メディア会社は心配しているのである。先に触れたように、広告と分かっただけで敬遠する消費者がまだ多いからだ。NYタイムズの例からも分かるように、今はメディア会社が編集コンテンツを上回るくらい優れたネイティブ広告コンテンツを提供しようと努めている段階である。ともかく消費者にネイティブ広告コンテンツに接してもらって、これまでの押しつけがましいインターネット広告と違って、ネイティブ広告が消費者に役に立つ情報を提供していることを認めてもらいたい時期なのだ。多くの人に認めてもらえるようになれば、たとえ"広告"とはっきりと明示しても、飛ばさずに読んでもらえるというわけだ。ネイティブ広告のエコシステムが定着するには、2~3年くらいかかると言われるのは、そのためである。
またHBOの番組などで発せられる批判にも、対応していく必要がある。米国では今、ネイティブ広告がバズワードに乗って急成長し競争も激化している最中にある。メディアサイトとしては、今なら広告単価を高く設定できるとあって、さらにアクセルを踏みたい。そこで手っ取り早く、より多くの消費者を呼び込むために、広告であることを一段とあいまいにし始めているメディアサイトが増えているのが気になるところ。さらに、一部のメディアサイトでは、そのメディアにふさわしくない広告や、相変わらず押しつけがましい広告が、ネイティブ広告として紛れ込んでいる場合も見かける。ネイティブ広告の狙いの一つは、これまでのインターネット広告の押しつけがましい負のイメージを払拭することであっただけに、提供者側からのみの議論ではなくて、消費者の視点からの取り組みがより求められている。ともかく消費者をだましていると思わせる行動は、ネイティブ広告の成長を鈍らせることになる。
◇参考
(2014年10月27日「メディア・パブ」より転載)