勤め人だった頃は半分くらいの仕事がいわゆる「営業」だったと思うが、正直言って私は営業が嫌いだった。
だから、企業に入って4年目に初めて営業をやらせて貰った時も、あまり嬉しいとは思わなかった。「営業」というとなにかお客様にペコペコして、頭を下げて、「仕事を頂戴する」というイメージがあったからだ。よくテレビドラマでありそうなあの「理不尽に耐える営業マン」のイメージを私は持っていた。
間違っていた。
お客様も家庭を持ち、日々頑張っている人間だった。もちろん理不尽なことを言う方もいたのだが、それには必ず理由があった。きちんと話せばわかる、そう思って仕事をした。私の営業のイメージは少し変わった。
それでも私は営業が嫌いだった。
上司は「新しい人に合うのが楽しい」と言っていた。私はそうではなかった。「新しい人に会う」のは毎日大変なストレスだった。
営業の新規開拓はゼロから人間関係を構築する。そういう日々の仕事に安らぎは殆ど無い。毎日毎日「明日会う人はどんな人だろう」「何を言えば気に入ってもらえるだろう」
そういうことばかりを気にしていた。胃が痛かった。
間違っていた。
ある日お客様にこう言われた。「一生懸命気に入られようとしているみたいですけど、そんなに頑張って気に入られようとしなくていいですよ」
その日から私は「気に入られようとする」事をやめた。万人と息が合う人なんて存在しない。そう思ったら、楽になった。自分に合う人と仕事をしよう。合わない人とは付き合うのをやめよう。
そうしたら、成果も出るようになった。リピートで仕事を取れるようになった。私の営業のイメージはまた変化した。
それでも私は営業が嫌いだった。
せっかく気の合うお客様とお付き合いできて、提案をしても、その多くが「お断り」にあうからだ。私は「断られること」が怖かったので、提案をできるだけ控えた。
「せっかく仲良くなったのに、余計なことを言って気分を損ねるのではないだろうか」
「ガツガツしていると思われるのではないだろうか」
「お客様を金としかみていない、と思われるのではないだろうか」
間違っていた。
ある日お客様に言われた。「なんで提案してくれないんですか?無料で来てもらってもいいんですけど、お金を払ったほうがあなたを呼びやすいんです。お金を払わせてください」
その日から私はお客さんに、断られることを恐れずお金の話をきちんとするようにした。そのお客様ともっと仲良くなるために。そして、私の営業のイメージはまた変化した。
それでも私は営業が嫌いだった。
「営業目標」が重くのしかかってきたからだ。「目標」は顧客の都合ではない。我々の都合で決めたものだ。目標に到達するために、「なんとかお客様に売りつける」は最低の行為だと思っていた。だから、私は「営業目標を達成するための営業」をやりたくなかった。
そんなある日、お客様にこう言われた。
「営業目標って、厳しいですか?」
私は「はい」と答えた。
「なるほど、目標についてどう思っていますか?」
私は正直に答えるかどうか迷ったが結局「意味ないと思います」と答えた。
そして、お客様はこう私に聞いた。「今、精一杯頑張って、試行錯誤していると思いますか?」
私は一瞬言葉に窮したが、「はい」と答えた。毎日頑張っているのは確かだ。
お客様は最後にこう言った。「なら、目標なんて気にしなくていいんじゃないですか?目標は、試行錯誤を繰り返す事を社員に要求するために存在していますから。」
私は目標を気にしなくなった。
私は営業が好きになった。
・2014年4月10日 Books&Appsに加筆・修正
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